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「えぇ? その状況で、どうして結婚になるの?」

 俺の目の前でコーヒーを噴き出しそうになったのは、あの日俺を振った元彼女である。「恋人じゃなくなれば他人」と豪語していた俺だったが、お互いの身持ちが固まってしまえば意外と友好関係を築けることに気づき、いまじゃこうしてよく話をする。彼女の方も好きな人と思いが通じて、幸せ満喫中らしい。
「こっちがせっかく惚れたのにいきなり別れましょはねぇだろ? 俺ぶち切れちゃってさ。こいつに任せといたら逃げられちまうって思って」
「だからって、養子縁組は気が早いんじゃないの」
 彼女は俺の薬指を見てため息をつく。
「なんかさ、アイツのその発言で「恋人」って形だと終わりが見えちゃったんだよ。俺あいつと一生一緒に居たいし、こりゃもう法的に縛るっきゃねえな、と思って俺からプロポーズ。あいつ散々悩んでたみたいだけど、この前ようやく説き伏せたわけよ。」
 あのときの片瀬を思い出すと、ちょっと笑える。俺こんなに幸せでいいのかって聞くもんだから、お互い幸せで困ることがあんのかよ、と返事をしてやったのだ。
「光也君て、そんな情熱的な人だったっけ」
「うん、俺も驚き。ちなみに親にもカミングアウトして了承済み」
 俺に似て物事深く考えない両親は「反対してもその人好きなんじゃ仕方ないしねぇ」と言って、怒るでもなくむしろ「お前みたいなの引き受けてくれる人、他にいないしね」と呆れながら納得してくれた。片瀬のほうはもっと昔にカミングアウト済みで、アイツの親からは「よろしくお願いします」なんて丁寧に頭を下げられてしまった。
「うわー元彼が同性愛に走ったって、なんか私すごいいたたまれない気分」
「安心しろ、お前のせいじゃねーよ」
 けらけらと二人笑いあってると、ぽんっと肩をたたかれた。
「みつや」
 甘い声で呼ばれて振り返れば、片瀬が笑ってる。
「おう、いくか」
 俺と片瀬を見比べて、彼女が微笑む。
「私も結婚したいって押し切られたいなぁ」
「ま、がんばれ。証人の判子、ありがとなー」
 手続き用紙をぴらぴら振って、その場を後にする。向かう先はお役所。

 くしゃっと頭を撫でてやると、片瀬は幸せそうに笑う。

 その笑顔が愛しくて、自然と俺も笑った。

 さあ、覚悟しろよ。

 俺たちは、友達で、恋人で……

「お前は一生、俺のもんだよ」

 ――家族になるんだ。

--END--

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