08
面白半分で、風俗でアナルセックスをしたことがある。もちろん、女相手に俺が入れる側で、だ。向こうは商売だし、きれいにしてあったから嫌悪感はなかった。意外と入るもんなのかと感動した覚えがある。
まぁ、まさか人生のうちで自分が掘られる側になるとは思わなかったが、いちおう意識して洗ったつもりだし、その辺は勘弁して欲しい。
あまり長く入ると要らんことを考えそうなので手早く済ませて、俺はトランクスだけ履いて風呂を出た。
俺が風呂から上がると、片瀬はベッドに背中を預けて床に座っていて、深刻そうな目で俺を見上げた。助けを求める眼だ。俺が「やめよう」と言うのを、期待してる眼だ。
俺が求めたらこいつは拒めない。それを知っていて、俺はこんなことをする。俺は卑怯だ。こいつの欲しがる言葉を、俺は一度として言ってやったことがないだろう。今だって、そうだ。
「片瀬はシャワーいいのか」
怖いかどうかといえば、もちろん怖い。片瀬の前に立つと、足が震えた。そんな俺を見て、片瀬は言う。
「……みつや、震えてるぞ」
「そりゃこええもん」
嘘をついても仕方ないのでそういうと、片瀬が苦しそうに笑う。
「なのに、するのか? 同情なら、止めてくれ」
……まったくこいつは。
「同情じゃない」
「じゃあなんで」
「あのなーこいつは俺の我侭だ。お前は嫌がってんのに、俺がムリヤリお前を引き止めてんだ」
「でも」
「でも、じゃねーよ!」
ぐいっと片瀬をベッドに引っ張りあげて、押し倒す。
驚きに見開かれた片瀬の整った顔に、唇を押し付けた。
片瀬はこんな奴だったろうか。いつも穏やかに笑ってて、大人で、懐広くって落ち着いてて、おれの手綱を握ってて。
そんなおまえが、どうして、こんなに臆病になってるんだよ。
お前が乗り気になんなきゃ、俺がどんなにがんばっても意味ないじゃないか。
俺は、お前とはなれるのは、嫌だよ。どんなにお前が頼んだって、そんなのはいやだ。
胸が苦しい。こんなに言ってるのに、何でお前は俺から離れようとするんだよ。
どうしてお前はそれで平気なんだよ。
お前にとって俺は、離れて平気な存在なのか。
俺は、こつんと頭を胸におしつけた。
「お前が一番すきだ。それだけじゃだめなのか。俺の気持ちが恋じゃなきゃ、俺がどれだけお前を好きでも、お前は俺を受け入れてくれないのか? こんなにお前のこと好きなのに、お前は俺を捨てるのか。抱き合ってそれでお前が俺のそばにいてくれるなら、俺はお前に抱かれたいよ。おれは、お前のそばにいたい。お前が欲しいよ。そう思えるくらいに、お前のこと好きなんだ」
片瀬の手が、俺の肩に触れる。でも、何も言わない。おれは頭を胸にうずめてるから、片瀬がどんな顔をしているかもわからない。
苦しい。
ちくしょう。これじゃ、まるで俺が叶わない恋してるみたいだ。
「……俺、言いたいこと全部言い尽くしちまったぞ。……どうすんだよ、お前」
ああ、いやだな。
彼女をなくすより、お前をなくす方が怖いなんて。
くそう。泣きそうだ。
「俺のこと好きなら『体から奪ってやる』位のこと言ってみろよ」
なんだよこれ。俺バカみたいじゃないか。
パンツ一丁になって、男に迫って、袖に振られて。
「これ以上恥かかせんな……ばか」
悪態をついてぽろりと涙がこぼれた瞬間、俺の視界はぐらりと反転して、天井が遠くなった。
まぁ、まさか人生のうちで自分が掘られる側になるとは思わなかったが、いちおう意識して洗ったつもりだし、その辺は勘弁して欲しい。
あまり長く入ると要らんことを考えそうなので手早く済ませて、俺はトランクスだけ履いて風呂を出た。
俺が風呂から上がると、片瀬はベッドに背中を預けて床に座っていて、深刻そうな目で俺を見上げた。助けを求める眼だ。俺が「やめよう」と言うのを、期待してる眼だ。
俺が求めたらこいつは拒めない。それを知っていて、俺はこんなことをする。俺は卑怯だ。こいつの欲しがる言葉を、俺は一度として言ってやったことがないだろう。今だって、そうだ。
「片瀬はシャワーいいのか」
怖いかどうかといえば、もちろん怖い。片瀬の前に立つと、足が震えた。そんな俺を見て、片瀬は言う。
「……みつや、震えてるぞ」
「そりゃこええもん」
嘘をついても仕方ないのでそういうと、片瀬が苦しそうに笑う。
「なのに、するのか? 同情なら、止めてくれ」
……まったくこいつは。
「同情じゃない」
「じゃあなんで」
「あのなーこいつは俺の我侭だ。お前は嫌がってんのに、俺がムリヤリお前を引き止めてんだ」
「でも」
「でも、じゃねーよ!」
ぐいっと片瀬をベッドに引っ張りあげて、押し倒す。
驚きに見開かれた片瀬の整った顔に、唇を押し付けた。
片瀬はこんな奴だったろうか。いつも穏やかに笑ってて、大人で、懐広くって落ち着いてて、おれの手綱を握ってて。
そんなおまえが、どうして、こんなに臆病になってるんだよ。
お前が乗り気になんなきゃ、俺がどんなにがんばっても意味ないじゃないか。
俺は、お前とはなれるのは、嫌だよ。どんなにお前が頼んだって、そんなのはいやだ。
胸が苦しい。こんなに言ってるのに、何でお前は俺から離れようとするんだよ。
どうしてお前はそれで平気なんだよ。
お前にとって俺は、離れて平気な存在なのか。
俺は、こつんと頭を胸におしつけた。
「お前が一番すきだ。それだけじゃだめなのか。俺の気持ちが恋じゃなきゃ、俺がどれだけお前を好きでも、お前は俺を受け入れてくれないのか? こんなにお前のこと好きなのに、お前は俺を捨てるのか。抱き合ってそれでお前が俺のそばにいてくれるなら、俺はお前に抱かれたいよ。おれは、お前のそばにいたい。お前が欲しいよ。そう思えるくらいに、お前のこと好きなんだ」
片瀬の手が、俺の肩に触れる。でも、何も言わない。おれは頭を胸にうずめてるから、片瀬がどんな顔をしているかもわからない。
苦しい。
ちくしょう。これじゃ、まるで俺が叶わない恋してるみたいだ。
「……俺、言いたいこと全部言い尽くしちまったぞ。……どうすんだよ、お前」
ああ、いやだな。
彼女をなくすより、お前をなくす方が怖いなんて。
くそう。泣きそうだ。
「俺のこと好きなら『体から奪ってやる』位のこと言ってみろよ」
なんだよこれ。俺バカみたいじゃないか。
パンツ一丁になって、男に迫って、袖に振られて。
「これ以上恥かかせんな……ばか」
悪態をついてぽろりと涙がこぼれた瞬間、俺の視界はぐらりと反転して、天井が遠くなった。