つい最近、長が新人(とは言え隠れ里の頭領なのだから実力はあるに違いない)を連れてきた。いや、連れてきたというよりは"手に入れた"といった方が正しいか。俺たち真田忍の間じゃ随分と噂になっていた人物だったから、さして驚きも無かった。
その人物は、言わずもがな"霧隠才蔵"である。
たとえ忍べない忍びでも、名ばかりだけじゃなく俺らをまとめ上げる実力を誇る長を虜にした人物というのはなかなかに興味をそそられた。
そして、この目に彼を写した瞬間に戦慄した。
まさに模範。忍者とはどうあるべきか、というものをそのまま実体化したような男。その目には何も写していない。何を見ているんだと問うてしまいたくなるような、そんな目。
「此れから世話になる。俺の仲間も頼む」
骨の隋に響くような、声。
ああ。なるほど、と思った。長が虜になるのも、彼のいう仲間共が俺たちを威嚇するのも。全て納得がいった。
あれは甘美だ。
頭、それも毛の先から足の指先まで全神経で感じる興奮。ゆるりと入り込んだソレは毒のように身体を巡り麻痺させる。嗚呼心地良い。もっともっとずっと、聞いていたいと言うのに。長がそれの邪魔をする
俺だって、いや俺たちだってもっと彼奴の目に映りたいというのに。長は事有るごとに彼奴の元へと舞い戻り擦り寄り、独り占めをする。嗚呼狡い、ずるいズルい
「猿飛、お前と居ると周りの奴等が揺れる。命でも無い限り俺のところへ来るな。…です。」
嗚呼、嗚呼。
ようやくあの方の瞳に、俺たちが写った。
≪ ≫