宝石とさよなら | ナノ


▼ 407



「貴方は客室をどうぞ、オレとナマエは“いつも通り”一緒に寝るので」
いつも通りを強調して牽制する我愛羅にはんと鼻を鳴らしたサソリは「連れてきた本人が客を放って寝るのはどうかと思うぜ」と、暗に起こして来いと主張する。
「“オレの弟子”が懇願するから飯に付き合ってやったんだ、今度はあいつがオレに付き合うべきだと思わねぇか。なぁ風影?」
「酔っぱらいの戯言を本気にする大人がいるとは思わなかった」
後日礼をするから帰ってくれていいぞと一回りは年上の相手に物怖じすることなく皮肉で返した我愛羅にここまで足を運んでやったんだからまずはご足労ありがとうございましたじゃねえのかと口元に弧を描く。
夜遅くにその気のない女の家にのこのこやってくるのは常識としてどうなんだと問い返し表情筋が硬い為代わりに目尻を落とす。
互いに表面上は穏やかに見えるのにその奥に光る目は一切笑っていない。
リビングで瓢箪から砂を床にばらまきはじめた我愛羅に対し、拳の勝負となるとメンテナンス不足で一気に劣勢になるはずのサソリは怖気づくことなく一歩足を前に出した。
そのままナマエから漂うアルコールをかぎ分け広い廊下を走り抜けるサソリに一歩出遅れた我愛羅は撒いた砂で足元を掬おうと攻撃を仕掛け後を追う。
経験の差からか後ろに視線をやらずとも軽くその攻撃を避けて行くサソリに眉根にしわを寄せた我愛羅が砂で攻撃することをやめサソリに追いつこうとその足にチャクラを乗せた。
昔は要人のホテル代わりに使っていたからか離れも風影邸と同じくらいの無駄に広い屋敷ではあるが忍の足で本気を出せば数秒ほどで目的の部屋にたどり着く。
別の部屋からナマエの匂いがしたがアルコールはその隣りの部屋から漂って来た為迷わずその扉を開けた。
だがそのドアを開くという行為でロスが発生したのか一定で保っていた距離は一気に縮められナマエに手を伸ばしたあと一歩で押さえられた。
「ちっ……、大体大の男が一緒に寝るってどうなんだ?本当はコイツだって嫌なんじゃねえのか?」
「そんなこと言われたことはないしむしろ毎晩布団あげて誘われている方だから安心しろ」
「思考回路がもうだめだめじゃねえか!テメェくらいの歳の子供が間違いを犯すんだよ」
「煩い、オレはちゃんと合意は取る!それに貴方がオレに対しての嫌がらせと研究の為にナマエが寝ている間に触れようとしている事は解ってるんだ。ボディガードしておかなくちゃいけないだろう」
羽交い絞めにされたサソリの言葉の嵐に対し我愛羅も負けじとさもサソリが悪いのだとばかりに捲し立てる。
確かに珍しい術を使うからといずれコレクションに加えようとしてはいるが今はまだ人傀儡にしようとしていない。
全滅したコレクションの代わりとして新作を作っていくためにはこの女の力が必要なんだから手をかける訳無いだろと突っ込むも図星だった為に一瞬詰まった言葉を喉からひり出し攻撃する。
二人とも口げんかで終わらせようとしているところは無駄に理性が働いていた。
がるると唸り牽制する二人が発する一発即発な空気の中、声を出したのは赤髪のどちらでもなくベッドにうつぶせに倒れこんでいた第三者のナマエであった。

「煩ぇ、アンタら一体今何時だと思ってんだ」
黙って寝ろと不機嫌さを惜しみなく醸し出して二人をベッドに引きずり込むと真ん中を陣取ったナマエが両脇に布団をいきわたらせたのを確認しばふんとその白いシーツに身体を沈ませた。
その言葉づかいやら一連の動作やらで呆気にとられていた二人は抵抗するまもなく同じようにシーツに身体を沈み込ませることになった。
ぎしりと悲鳴を上げる我愛羅のベッドで数分程その微妙な空気に耐えたが、先に我慢できなくなったサソリがはぁー……と先ほどまでの五代目風影への怒りも何もかもを空気と一緒に抜き、深いため息を吐く。
肘を立てそこに自身の頭を乗せると布団の上からナマエの腹に腕を乗せて、子供を持つことは今後も出来ないしチビの面倒を見たことも無いが……と零しつつ、庇護欲に従いゆるやかに手首で布団を叩けばナマエの怒りの交えた目元は徐々に涙を溜めはじめた。
先ほどまでお怒りモードだったはずなのにまるでそんな事実がなかったと主張するかのように表情を変え、ぽつりと「チヨ様、行かないで……」と零した女は器用な事に寝ながらもう会う事の敵わない人物を思い涙する。
チヨの亡くなることになった原因と原因の原因は反応し、口から音を出すことの憚られる部屋の中で静かに視線を交わした。
「風影、テメェも諦めて寝ろ」
どうせオレと同じようにどっか掴まれたままなんだろうと、罪悪感を感じたなら少しでも夢見が良くなるようにしてやれ、と。
そう提案したサソリの言葉に我愛羅は返事こそしなかったものの黙っていつもの様に腹に手を回し目を瞑った。酔っぱらいの嵐のような気分の変わりっぷりと面倒くささに大人しくしておく方が得策だと我愛羅も同じように考えたのであった。



一体何が起こったのか。いや起こっているのか。
拘束されている様な寝心地の悪さに身じろぎし安定する寝方を探すも、そもそも寝返りが打てない程の狭さなことに気付き、仕方なく目を開けた私の頭は一気に覚醒した。
頭痛はないがぐらぐらと揺れる頭は飲みすぎだと主張しているがそんなことも一瞬で吹っ飛ぶ程には困惑していた。
確かにテマリちゃんとじゃぶじゃぶジョッキで一気飲みを始めチクマちゃんが煽ったところまでは記憶がある。それで多分解散した後我愛羅君に連れられて帰ってきただろうこともまあわかる。
困惑しながらも再び左右に視線を巡らせる。まるでキャットファイトを終えたかのような細かい傷のついた二人が脇で眠っているんだけど本当にどういう事なの……。
まあ、数歩譲って我愛羅君はいつも通りだし良いんだけどサソリまで布団に入っているの意味が解らないし寝れないからってこっちガン見するのやめてほしい。
瞬きすらせず視線を合わせて来るもんだからちょっとしたホラーである。寝起きに整った顔でも人形でも心臓に悪い。
静かに始まったガン飛ばし大会で先に根をあげた私は手でサソリの顎を押しやり無理矢理視線を外させると現状把握のために「どうなってんの?」と問うことにした。
「テメェが引き込んだんじゃねえか」
食道部分となる管は軽く洗浄をしておいたから良いが左肩はババアの傀儡のパーツのままだし一晩時間を無駄にしたぜと悪態をつく奴にとりあえずの謝罪を入れる。
ただ顎に手をやったままなのをうっかり忘れていたのだが、それにキレることなく朝になったら起こしてやると腹に置かれていた手でぽふんと布団を叩いてきた。
……傀儡も熱出るんだろうか。なんて半目で奴を見つめていたが、何故か腫れぼったい目元と反対側で引っ付く我愛羅君の温さにいつの間にか目蓋は視界に戸をおろしていた。


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