宝石とさよなら | ナノ


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「おーナマエちゃんお帰り」
間延びしたマタンさんの声に動かない体が反射的に舌打ちを仕掛けた。筋肉が弛緩しだらりとはみ出た舌がピクリと動いただけだったが、これ絶対にサソリの癖がうつったでしょと髭面を見て思う。
サソリはチヨ様の傀儡と共に修理の為早々に工房へと帰って行ったが式を進めなくてはならないはずの我愛羅君は私の毒抜き洗浄中ずっと瓢箪を床に降ろして壁にもたれかかっていた。
大丈夫なのかと思いつつも帰還したという情報が入ってる筈のチクマちゃんが来ないからたぶん大丈夫なのだろう。
とそこまで考えて我愛羅君の姿がチクマちゃんのままだという事に気付き来ないんじゃなくて来られないのかと理解した。パニックになるからだな。
マタンさんは最初からわかってたらしいのはそれなりに経験を積んでいるからだろうし。


「あー言葉話せるのがこんなに幸せだとは思わなかった」
ピリリとした痺れは走り、滑舌はかなり悪くてもまともに意見を主張できるのがこんなに恋しくなるとは思わなかったと語るナマエにサソリをさっさと工房に帰した我愛羅君は漸く変化の為にまとわせていた砂の鎧を解きぐりぐりと子供の時のように私の肩に頭を擦りつけてきた。
言葉を発しない彼はすでに始まってる予選が終われば話し合いになることは解っているのだろう。もう私の事で秘密にするようなことはないと思いたい。
試合の合間に潜り込もうとして待機している為通信越しにチクマちゃんの号令が来るまでそのまま待機をしているのだが、頭だけだったのが今度は頬を擦り付けてきた。
猫のような行動をする我愛羅君にリンゴジュースのパックをへこましながら何してるのと問う。
「補充」
「なるほどさっぱりわからん」
私が知っている我愛羅君はこんなに人前で甘えて来る子じゃなかったんだけど。苦笑するマタンさんに助けを求めるも知らないとばかりに顔を背けられればその反応に不満を覚えつつも我愛羅君の頭にそろりと手を伸ばし撫でてやった。
我愛羅君、最後に撫でた時よりパサついてないかこれ……?
そろそろ家出をやめて我愛羅君の世話に戻るかと考えていた私の脳に「いちゃついてるところ悪いんだけど休憩はいったから砂分身向かわせてるよ」と含み笑いを抑えたようなチクマちゃんの通信が入った。
……マタンさんこっそり報告してましたね貴方。じっとりと睨み付ければ「おお怖!オレ先に行こうっと」と実にわざとらしい態度で逃走した。
サソリもアレだがこっちのおっさんも大概である。


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