宝石とさよなら | ナノ


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実の祖母に随分と無体を働いたおっさんと共に塔内を巡り歩くが正直私は混乱していた。
思わず旅館かと突っ込めば普段は砂隠れの遠征忍たちの宿も兼ねてるからなと何故か隣で得意げにサソリが答えた。
確かに私も道中迷いかけたし何度かサソリに首根っこを掴まれ正規ルートへと戻されている。少し外れるとわなが仕掛けてある為それなりの力量の忍でないと辿りつくのが難しいこの場所なら初見の他国の忍はまず攻めてこないし安心である。
何しろ“逃げ水の塔”なのだ、自分と距離の縮まらない塔で休むくらいならそこらの岩場で野営でもした方が時間を無駄にしないですむ。
……と納得はするものの、コイツ本当は抜け忍じゃなかったんじゃないだろうかと錯覚するほどの郷土愛っぷりには心の中でこっそり突っ込みを入れておいた。
時間には死ぬほどうるさいが我愛羅君と比べればそれなりに人懐っこい男である、チヨ様がそうであったように。笑みはどちらも極悪なのだがそれも血筋なのだろう。

「しかし地下はこんなに横に広がってたとは思わなかったわ、塔だから縦に長いだけかと思ってたのに」
「地上に出れば日差しが攻撃してくるからな、まあ砂に埋もれただけかもわからねえけど」
すれ違う試験官たちに会釈しながら三歩前を進む得意げなサソリの言葉に耳を傾けていれば入り組んだ通路の脇道から聞き覚えのある声で名前が呼ばれた。
先を行っていたはずのサソリがすぐに私と彼の間に割り込み庇われたことに一応こいつ職務やってる気はあったんだと失礼な感想と妙な感心を抱きつつ、ボディガードを制し男に手をあげた。


「急だったけど僕も固定客が増えるならって了解したんだ」
ツブラの家とも連携してるし砂に来たときに木の葉のお客さんがこっちに来てくれれば万々歳だと語り自身が作ったトマト煮込みを口に放る。
他にもチクマちゃんから派遣要請をされた食堂経営者たちが幾人か塔へきていたがオイラクさんのところは来る予定じゃなかったはずだ。
少し疑問に思いつつもそうなんですかと彼お手製のトマト煮込みを同じように口に放る。鳥料理をさせれば彼の右に出る者はいないんじゃないだろうかと改めて確信する。
思わず綻ぶ顔を隠す様に頬を抑えれば隣で水を飲んでいたサソリがだらしなく散らかしてんなと鼻で笑った。大きなお世話である。
そんな私の散らかった顔に満足そうに頷くとナマエさんが帰って来てから初めて我愛羅君が訪ねて来てねと奇妙なことを言う。
ここの鳥料理をちっこい仔狸時代は気に入っていたはずなのに通ってなかっただなんて初耳だ。
まあ、キンコウさんが私を下敷きにしたことがトラウマで近づこうとしなかったのだろうと勝手に想像し、もう一つ肉の塊を放る。幼い我愛羅君にはなかなか酷な場面を見せてしまったとじくりと心は痛んだがお互い様だし先ほど誓っただろうと心を鬼にし気を正す。
そんな私達の事情なんて知らないオイラクさんは「一週間くらい前、ここにナマエさんが派遣されそうだからと我愛羅君が直接頭を下げてきたときはびっくりしたよ」と語る。
「一週間閉じ込められるわけだからせめて食事くらいは好きな物を食べさせてあげたいって言われてさ、うちの料理ナマエは好きだから来てくれって呼ばれたんだ」
嬉しいよ、これからもご贔屓によろしくと微笑むオイラクさんを前に私の誓いは早くも崩壊しかけていた。



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