宝石とさよなら | ナノ


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「我愛羅君また仕事放り出してきたの?」
ダメじゃないと他人事のように口にするナマエにシュデンは目尻を吊り上げると普段から蓄積していた鬱憤をとうとう口から零した。

染みとなって床へと広がっていく雑言にいつもなら眉を下げて受け止めるナマエがピクリと反応し顔をしかめた。
口を真一文字にし目を細めたナマエにシュデン以外が静まり返る。
母親だと思ったことはないの時には真っ白になったナマエだがこれはそれとも違う。
小刻みに震えるナマエは己の拳をどうにか留めると、大きく息をついた。
ひょいと後ろから顔をのぞかせ様子を見てくるサソリを一瞥し睨んだ後、ナマエは初めてシュデンへと仕事以外で向き直る。
事務的な話しかしない間柄に入ったヒビに気付いたテマリ達が止めようと試みるも猛吹雪の中に突っ込んで行けるほどの度胸はなかった。
なにしろ一番人の扱いが上手いチクマやエビゾウ様まで黙っているのだ。自分たちに出来ることはおそらくないのだろう。
むやみやたらと突っ込んでいくなと頭の隅で警報が鳴っているがそれでもシュデンと叫んでいた。まあそれも無駄に終わったのだが。

「大体貴様が我愛羅様を甘やかすからこんなに仕事が滞っているんだ、こちらの身にも……」
「シュデンちゃんはそういうけどさぁ、何で私がそこまで世話しなくちゃいけないの?」
私は里の所有物…モノであなたたちは人間じゃない、モノがヒトをしつけなくちゃいけない理由なんてないでしょ?
そもそも出来ないよね。なら同じ人間同士が支え合って生きて行きなさいよ。
大体“貴様がずっと里に留まっているせいだ”なんて言われたくないしそんなこと言える立場だと思ってんの?貴方も私に黙って影で笑っていたんじゃないの?
元の世界に帰りたいって願いを持っていた私に。

疑心暗鬼は範囲を広げ、奴当たる様にナマエが言葉をぶつけて行く。
さながら今のこの様子が上役へと詰め寄って行く自分のようだとチクマは渋い顔を浮かべていた。

「私我愛羅君の事信じてた、でももう無理だよね。他の誰でもない我愛羅君が私から元の世界に帰るって言う選択肢を取り上げたんだし」
そういう事でシュデンちゃんは当たるなら我愛羅君に当たってくれるかな?
にこりと微笑むナマエの目は一切笑っておらず、その表情と言葉に隠れている棘のちぐはぐさが不気味さを増している。
ナマエも文句がなかったわけではなかったのだ、文句はいっぱいあったけどそれすらも飲み込んで自分たちに接していたのだと悟るも全て後の祭りだった。
「仕事はちゃんと熟すけどとりあえず今日から工房で寝泊まりするから。監視も出来て一石二鳥でしょチクマちゃん?」
「……仕事をしてくれるならこちらは何も言う事はないね」
「チクマ、お前……ッ!」
多少めんどくさいことになろうがナマエが仕事とプライベートは分けると主張した時点で文句などなく、チクマはそれに頷く。
詰め寄る我愛羅に冷や汗をかきながら対応していればシュデンの前にいたナマエが作り笑顔のまま「仕事に戻りなさい我愛羅君」と最後の忠告をしたのだった。


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