宝石とさよなら | ナノ


▼ 371



弟のしでかした事は親友達を取り上げることと変わらなかった。
過ぎてしまった事とは言え放置しておいた結果、見えぬところで戻れないほどに弟の心は歪んでしまっていたのだと落ち込む。
何一つとして姉としての心を与えられなかった事を再確認したテマリは外の空気を吸いに行くと出て行ったナマエに思いを馳せる。
すまない。そう何度謝ったところで事実は変わらないし罪の重さも軽くなることなどない。それに黙っていた自分達も同類だ。
ナマエの後を追って行ったらしいサソリがどうにかしてくれるかもなんて淡い期待を抱きかけたが相手は元抜け忍だしキャリアも違う。交渉術の上手さも想像に難くないだろう。
良いところで自分に有利な条件を提示した取引だ、無償の奉仕なんて文字はない。

どうすればいい、ナマエは確実に……。そう考えたところで頭なんて回る筈もなく、壁にもたれているチクマ達に視線を投げたがふいと顔を逸らしたのは彼女にも良い案が浮かんでいない証拠である。
カンクロウの襟をつかんでいた我愛羅もすでに両腕を降ろしだらりと力なく地面を見つめている。
誰もが言葉を発しない工房内に先ほど外に行ってくると宣言したナマエが比喩でもなんでもなく本当に空気を入れ替えたが様な状態で戻ってきたのだ。
晴れやか、と言うのだろうか。いや……悩みが消えたと言った顔の方が近いだろう。
とにかく別人が入れ替わってるんじゃないかというほどに想像とは真逆の表情を携えて帰ってきたのだった。

「うわ、重い……」
のしかかるような空気に思わず発したナマエの言葉に工房内の全ての人間の目が向けられた。
すぐ後ろから入ってきたサソリは疲れた様子なのだがどういう事なのだろう。これは……、もしかして……?
「我愛羅様休憩の時間はとっくに終わって……む?」
こんなに集まってどうしたんですとこの場にいなかったシュデンがナマエと私達の空気圧の循環役を担うように入ってきた。
タイミングがただただ素晴らしい。
顔布でほぼ表情の見えないシュデンが少しだけ瞳孔を小さくして全体を見回し、大体を察したのか鼻で笑うとナマエを一瞥してから再度我愛羅に同じ言葉を投げかけたのだった。


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