宝石とさよなら | ナノ


▼ 280



砂に戻って来てからすでにひと月ほど経過した。
その間いろいろあったが共に居る時はナマエの懐かしい味を堪能したいと我愛羅君からの熱い視線を背中で受け、一人で料理していたからわからなかったのだ。
我愛羅君が料理を作れるようになっていたことに。

「が、我愛羅君たら立派な男の子になっちゃって…」
訝しげに目を細めた我愛羅君の目の前で私は口元を手で押さえた。
子供の時は台に乗って使い慣れない調理器具に四苦八苦していたのに、目の前の我愛羅君は跳ねる油をものともせず、箸でコロッケを転がしている。
そんな彼の成長っぷりに嬉しさ半分切なさ半分を綯い交ぜにしつつ感動する。これはこれでかっこいいけど満身創痍だった仔狸我愛羅君も捨てがたい。
時間とはなんと残酷な物なのか。おおおうと短く奇声を発する私に味の心配をしていると思ったのか「揚げ物類はカンクロウのお墨付きだから安心しろ」と見当違いな言葉を反してきた。
ああ、カンクロウ君が鍛えてくれたわけね。そういえば何度か料理のレシピを教えてあげたことがあった。どうやら私の適当レシピでもしっかり者のカンクロウ君はうまく作れたらしい。あの子天才だな……。
いつごろ二人で練習し出したのか知らないが、兄弟で並んでキッチンに立っている様子を想像してこれまた可愛らしくて吹き出しそうになった私は変な我慢の仕方をしてしまい咽た。
「ちなみにテマリはさっぱりだった」
こっちはレシピを随時口頭で言っているのに目分量にするから時々焦げてたり生だったりしてる。
しっかりやればちゃんとできると思うんだがめんどくさがってるのだと愚痴られ容易に想像できる大雑把な性格の長女の顔をを思い浮かべ「ああ、ぽいねぇ」と笑った。

「ナマエ、あー」
「あー……。む、これは嫉妬する美味さ……」
我愛羅君が一口サイズに割ったコロッケを口まで運んできたため落とさないうちにと湯気の出ているそれを口の中に閉じ込めた。
割って空気に触れたからか程よい熱さになっていた“ふわサク”の欠片を咀嚼すればするほど自分のじゃがいもを詰めただけのコロッケと比べてしまい、立てた手の甲に額を置いた。
これはカンクロウ君も是認するわけだ。
勝ち誇った顔で私を催促する我愛羅君へ同じように口へと運んでやる。……めっちゃ悔しい。


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