宝石とさよなら | ナノ


▼ 261



里から少し出たところにあるスラムの一つにタンゲは来ていた。
里内部に住むことができないわけありの彼らは迷い込んできた高級そうな靴で足を包んでいるカモに家の中から目を光らせていた。
「くそっ…どいつもこいつも……」
ギリギリと歯を軋ませあまり良い素材でない泥で出来た壁を殴る。案の定ぼろりと崩れ穴の開いてしまった壁にもう一発穴をあけてやろうと力任せに拳を殴りこんだ時だった。
拳と壁との隙間に見参のように鋭い無数の針を投げ込まれ、治りかけていた腕の骨まで貫通し激痛に叫び崩れ落ちる。
そんなタンゲの頭を砂で汚れた足で踏みつけた女が見おろし「何してんの、あたしの家に」と視線を落とした。
逃げられないようにこれを待っていたスラムの住人がぞろぞろと家の中から出てくるとタンゲと女をぐるりと囲んだ。
「うるせぇ、無礼だぞ!その汚い足をどけろよ」
「生意気なガキだわ」
「殺っちまおうぜ、のこのこやってきたコイツが悪いだろ」
男の言葉に思案する頭を踏みつけている女がしゃがみそれもいいかもねと高めの笑い声を響かせた。
自分達は人質になりやすいからと口をすっぱくしていた親馬鹿な両親の言いつけを今更思い出したタンゲはナマエすら振り払ってきたことに気付き怯えだした。
ぼ、ぼくはまだ子供ですだの彼らから見れば意味のないことを口にし情けを乞うがまわりは笑うだけである。
「ぼうやは金になるのかな?」
周囲を囲んでいる内でひときわ笑い声をあげていた男が目尻に涙を浮かべ笑いをかみ殺しながら尋ねた。
それに素直に大名の息子だと自分の身元をばらしたタンゲは頭を踏む足の力が増し砂に顔をめり込ませた。

「あー、オレ達を汚いゴミを見る目で見てきたやつらか。そりゃこんな生意気な子供が出来るわけだ」
「オレ金いらねぇわ、見せしめに殺しちまおうぜ」
その方が多少すっきりしそうだしと提案した一人に次々と同意するスラムの人間達。
普段から忍を貶し給与をなんだかんだと減らしていた自分たちに忍達は依頼を受けてくれなくなっていたが、ようやく受けてくれた忍にも一日分の給与しか提示しておらず、今朝その分は働いたと言って帰ってしまったはずだ。
自分を助けてくれる奴なんて居なかった。自分が自分の首を絞めていたことにいくつも穴の開いた拳を丸まった身体の内へと隠す様に縮こまった。

「すみません、ここにクソ生意気なガキ来てませんでしたか?」
先ほどまで言い合いをしていた知り合いの声にぐずぐずと泣き出していたタンゲは目を見開き滲んだ視界で声の主を捉えた。
アンタこいつの仲間なの?と怪訝な顔で尋ねた一人にタンゲは動かせない頭の代わりに「ナマエ!」と初めて名前を叫んだ。
だがナマエはにっこり笑ってそれを否定すると一発殴りたくてと絶望した顔のタンゲに視線をやった。


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