宝石とさよなら | ナノ


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腹を開いたばかりだからと味の薄い病院食を食べるように義務付けられ、好きなものを食べることができない不自由さに歯がゆい思いをしながらもそもそと運ばれてきたそれを口にする。
砂漠だから肉料理以外のメニューはほぼないと言っても過言ではない。山菜とかがついてればまだ他の味や食感も楽しめるのだが作物は大抵輸入に頼っているのだろう。
安価で大量に手に入る野菜はやはり数が少ないのかレパートリーも少ない。こうも同じような物ばかりだと流石に文句の一つでも零しそうだった。
先日摂取したばかりのほろ苦い発泡酒や塩気の多いツマミや好きなものを好きなだけ摂取できる自炊が恋しくて仕方がない。
溜息の数を無駄に増やし、薄味の煮つけを口に放った私は空になった椀を手元のトレーへと置いた。

「我愛羅君、窓からはダメでしょ」
食堂ではなくここで食べるようにとチクマちゃんが帰り際言ってたけどこういう事だったのか。
マタンさんの部屋を私室のように扱う我愛羅君に一言注意するも、関係ないとばかりにご機嫌な様子で手短な椅子を引き、私のいる仮眠用ベッドの隣へと陣取る。
一緒に居てくれってナマエが言ったから。そう返してきた我愛羅君に少し眉を顰め、今度は…と言いかければ慌てて仕事も終わらせてきたと付言する。
なら良いです。本当はそんな直接的な意味で言ったわけじゃないんだけどもぼっちじゃなくなることによりこの味気ない病院食が少しでも美味しくなるならいう事はない。
心の中にそんな理由を押しとどめ「嬉しい」とだけ笑みで返せば、背もたれに顎を乗せてこちらへと上目使いで微笑んだ。私が弱い角度をよく御存じで……。
翡翠の双眸は子供の時と同じようにただただ私を視界に入れていて、餌付けをしたくなってしまった私はデザートについていたヨーグルトを一口我愛羅君の前へと運んでやった。
「……砂糖持ってこようか?」
「……、大丈夫です。病院食だし」
スプーンから口を離し、病院食はこういう感じなのかと腕を組んだ我愛羅君に薄味が基本ですしと苦笑いで返した。


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