宝石とさよなら | ナノ


▼ 106



最後まで酒の席に付き合う事が出来なかったのを思い出し、はっと起き上がれば落ちる白い物体に視界がはっきりとしてきた。
布団の上まで移動してもらっていたらしい、すまないことをした。流石に重かっただろう。
隣に別に布団を敷き、そこで眠るナマエの顔を覗き込む。
子供の時のように一緒に寝てくれなくなってしまったことを寂しく思いつつ、熟睡するナマエの頬にあの時のように触れる。
アルコールを摂取しほんの少し赤くなった顔にかかる髪を掬い、後ろへと流す。

「シュデンか」
「……失礼します」
羽織を持ち我愛羅は窓から外へと出る。壁に吸い付くようにして地面と平行に立つシュデンの顔布が重力に従い垂れていた。
同じ旅館に護衛や書記なども泊まらせているが彼女は個々の浴衣を着用せずいつでも応戦できるように忍び装束のままだった。
護衛としてオレより2つ上の彼女には随分と尽くしてもらっている。
夜が更ける前に怒鳴ってしまったことを謝れば「いえ……」と口ごもってしまった。
「なにか聞きたいことがあるんだろう」
ここでいいか、それとも別の場所に行くかと問えば他の護衛もいますのでここで、と縁に凭れるオレに向かい口を開き始めた。
「あの女は貴方様の何なのですか」
先刻の女狐発言から一応呼び方を変えたシュデンは少し黙った後に突いた。女狐よりかはましか。

「そうだな、ナマエはオレの親代わりであり、でも親であり……」

説明が難しいな。
あまり公開したくはないがそれこそ最初から話さないとナマエという人物を説明するにはいささか情報が足りないだろう。
シュデンはナマエを知らない。
父さまはナマエの情報を償却してなかったことにしていたし、当時を知る里の人間も友好的に接してくれた奴以外は詳しい事情は知らない。
そいつらから聞き出すにもほとんどはオレがあの日暴れて殺してしまった。ヤリスマルなら最初から最後まで知っていただろうがあいつも今は砂と化してる。
異世界人だというのを含めすべてを知っているのはもうマタンくらいじゃないだろうか。テマリたちが知ってるかは知らないけれども。
木の葉はそれは知っているがオレとの関係までは解らないだろう。
上役は知ってても話すわけがない、暗殺を父さまと企てた張本人だし墓場まで持っていくのは明白だしな。

考え込んでしまったがシュデンは続きを待っていてくれた。
ただそこにいて首が曲がってしまいそうな角度でオレの顔を顔布の下から覗いている。


唯一信頼していた夜叉丸から暗殺されかけ荒みきったところに降って湧いた、生贄で可哀想な女で。
大切なものを沢山くれて、最後に愛をくれた……。

「世界で一番好きな人間だ」
オレはシュデンを見つめ朗々と答えた。
しばし黙りこくったシュデンが絞り出すような声で「そう、ですか」と残して消えた。


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