宝石とさよなら | ナノ


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綱手と話をしたのが夜だったからか、ナマエは少し遅い時間に旅館の温泉に浸かっていた。
住み込みの従業員の姿すら見えない為悠々と足を延ばす。
結ぶ物が無かったので持っていたハンカチを洗って後ろで団子状にした髪をリボンのようにまとめているナマエは贅沢を肩にぱしゃりとかけ楽しむ。
露天だから仕切り壁を越えれば一緒に入っていった我愛羅がいるだろうがあの砂の鎧もないために視界も良い。やはり緑があると和むなあなんてナマエは思った。
砂じゃ葉っぱも銀緑色にばかりなってしまっていたし、唯一みずみずしい緑をしているのがサボテンだったな。
雰囲気づくりの為か灯篭を灯し、緑がゆらゆらと暖かい風に揺れていた。

そろそろあがるかと曇りガラスのはめられた引き戸に手を掛ければ今から入ろうとしたのか少女と鉢合わせした。
わわ、すみませんと横にずれると目線も合わせずに椅子に座って身体を洗い始めた。
人見知りなのかなと対して興味を持つこともなく部屋に用意されていた浴衣に着替えた。
流石にしわくちゃになったシャツをまた着るのは憚られる。浴衣に挟まれる形で新品の下着も入っていて、事情を知ってるらしい従業員さんが買ってくれたのかと申し訳なくなった。

滴らない程度まで絞り、下の方が少しカールした髪を肩にかけたタオルで挟みつつ出れば我愛羅君がそわそわと落ち着かなそうに待っていてくれたので声を掛ける。
ぱくぱくと口を開閉させていたかと思うと黙りこくって頬を染める。あら可愛いなんて微笑みつつ帰ろうかと促せばまっすぐ見つめて「き、綺麗だ」と吃音しつつ褒めてくれた。
真っ向から言われれば流石に私も恥ずかしくなってありがとうと頬を赤くしつつはにかむ。
飲みたいものはあるかとアイスボックスのようなものを見ながら言われ中をのぞく。
おおビールあるじゃないで……いやいや我愛羅君の前だからお酒は控えよう……。
「口に出てるぞ」
「はっ…」
ビール好きなんだなと少しだけ口元に弧を描きながらビールを2本取り箱の中にお金を入れる。
隠していたのに何で知ってるんだと問えば、木の葉で寝てる間に受けていた検査の結果に発泡酒の反応が出たって書いてあったからなとこちらに1本渡しながら答えてくれた。
私の個人情報どころか、そんないらない事まで書いてあるのかあの資料!
そういうのやめようよ、一人さびしくクリスマス迎えてたことばれるじゃん。
ぐぬぬと眉間を抑えていると「あっちの世界で誰かと飲んでいたのか」と隣を歩く我愛羅君から投げかけられた。
残念独り身なんだなこれが!「近所に住んでて仲のいい女の子は大体あの日はデートだし、そういう相手もいないから一人でしたね」と観念して答えれば我愛羅君は心底嬉しそうにそうかとだけ答えた。解せぬ。

「じゃあ今日はオレが付き合おう」
「あらありがとう、でもお酒飲んで良いの?」
「問題ない」
20歳じゃないと飲めないのではと疑問を口にすれば、ナマエの世界ではそんな法律があるのかと興味深そうに相槌を打つ。つまりこの世界にそんな法はないという事か。
「いや、私の国ではそういう感じなだけで他の国だともっと小さいうちから飲めるところもあるかな」
「所属する国によって違うのか、めんどくさいな」
我愛羅君はつまみはこれでいいかと隣の棚に置いてあった辛口スナックを1つ手に取り、箱の中にまたお金を投げ入れた。



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