「おぉ、来たかモブ…誰?」
「お客さんっぽいです師匠」

エクボにシゲオと呼ばれた少年の後に続いて事務所へと足を踏み入れれば事務所の名前のイメージに近い…めっちゃ胡散臭い男がだらけた格好でパソコンを眺めていた。エクボに聞いていた所長とやらが目の前の男だとは思うが…なんか…髪染めてるんですけど。まじでか。
んでこの少年はどうしてモブと呼ばれていて、その侮辱に怒りもしてないのかと関係性を疑う私が目を細めていれば、客だと紹介された手前不味いとは思ったらしく、胸元から櫛と手鏡を出し身だしなみを整え笑顔で出迎え直した。慣れてそうなところがまたうさんくせぇ!

「モブがお客さんを連れてくるとは珍しいな、どういったご用件でしょう」
「いや、客というか…バイト応募に…、来ました」
不安から空中に佇んでいたエクボを掴み、もにゅもにゅと弄りたおしているナマエに霊幻は顔を顰めた。
「募集したことないんだが」
思わず返した霊幻と見つめ合うこと数秒。鬼の形相で手元のエクボに騙したなと叫んだ。

「待って待って、そこは話術で交渉っつったろ!」
「募集もかけてない所がバイト雇うわけないでしょドアホ!」

人の事務所でぎゃんぎゃん騒ぐ女にドン引きする霊幻がモブに近寄り状況説明を求める。
客じゃないなら取り繕う必要もないと笑顔を消し去っている霊幻に「でも…」とモブが指をさした。
「あの人それなりの超能力持ってるっぽいけど…」
エクボと話してるし、触れるし。
そう返された霊幻は顎に手を当てた。モブが言うんだからおそらくそのエクボとかいう悪霊は今日もここにいるんだろう。んでこの女も力を持ってるんだろう。つまり一人芝居をしているとしか見えないこの女……。

「お前学生?」
「いや、フリーターです」

なるほど、なるほど。

「採用」
「なんで!?」
モブ達の会話を聞いていなかったので流れがつかめず思わず叫んだナマエ。
「だーからいったろ?」だなんて肩を竦めて呆れるエクボに思わず手が出てしまい、たん瘤をつくったエクボが裁判だと叫んだ。
まあエクボが悪いよねといろいろ察したモブがそんな二人のやりとりに茶々を入れる。
いきなりにぎやかになった己の事務所内でただ一人力がなく何も見えていない霊幻は「フリーターならモブがいないときに使えるな」としか考えてなかった。この事務所には時間外労働の概念がないのだった。







「ひと先ず能力を見せてもらいたいんだけど」
乱闘に疲弊した二人がぐったりと客用のソファーに腰を落ち着けたところで、弟子に茶を入れさせた霊幻が写真のお祓いを終わらせ呼びかけた。冷めた二人は悪霊と女を残して今までいつも通りに時間をつぶしていたのであった。わざわざ間に入るのが億劫だったと後に霊幻は語る。閑話休題。

モブが力があるとは言っていたが具体的にどんな強さなのかを把握しないことには仕事での運用が異なるからなと理由を語る霊幻はまだ気づいていないのである、超能力には種類があることを。
モブも興味はあるのかそわそわと向かいのソファーでたこ焼きを頬張りながら見つめ出す。
隣でエクボが見せてやんなと促してやれば、疲弊を隠すことなく重い身体を無理やり起こして「ハイ…」とナマエは答えた。
A4のコピー用紙を一枚貰い机の上に置く。
鉛筆も何もないことを確認させ、ナマエは霊幻の顔を穴が開くほど懸命に見つめだした。
流石の霊幻も何するつもりなのこの子と内心ひどく動揺していれば、紙をじっと見つめていたモブが声を上げたので視線を移す。
紙を触った形跡はない。
しかしその白の上にはフルカラー印刷された霊幻の顔が浮き出していた。
「えっ地味」
思わず声に出してしまった霊幻とは対照的にモブは純粋に喜ぶ。
「マジックですか」と目を輝かせる弟子の質問に「いや私の念写」と答えているナマエには聞こえなかったようで失言を一人なかったことにした霊幻は持ち前の詐欺師力ですごぉいと唸った。唸って、頭を超速回転させていた。モブみたいな戦闘には確実に使えないだろうが採用って言ってしまった手前宝の持ち腐れは嫌だった。お茶くみ係はいらない。事務所ができてから今までずっと続けているここのモットーである。ちなみに全てを見ていたエクボがナマエの横でマジかこいつと霊幻を見ながらひどい顔をしていた。

「…んで」
その念写ってのは、どこまでできるんだ?
問う霊幻に意味が分からないと年下の二人は首を傾げた。頑張れ霊幻、頭を使え。自分自身を応援する霊幻がうーーーーーーーーーーーんと、と長い前置きをしてから例えば今俺が思い浮かべたイメージとかを念写できるのか?と問う。
「あー、どうでしょう。やってみますか」
そういうとナマエは霊幻を再び見つめ直した。互いに視線を外さない様子は傍から見れば狂気だなとエクボは鼻をほじる。そこには甘い空気も何もないのだ。
じりじりと、紙の上をほとばしった気配がし、ナマエがしたをみたのと同時にモブが「師匠…」と呆れた声をあげた。
たこ焼きである。食べたかったらしい。


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