「オーケーわかった。使いようだな」
モブの食べていたたこ焼きの残りをもそもそと口に運んでいる霊幻は楊枝をくるりとひと回転させた。帰宅時間まで暇だしと宿題を広げるモブがナマエの隣で唸る。エクボわかる?何百年前だと思ってんだよ。無為なやり取りが繰り広げられている。

「ボスもっとお上品に食えないの?」
「クチャラーじゃないだけマシだろ」
多めに見ろよと態度デカく返す霊幻に客と食事にだけは行くんじゃねーぞと忠告した。バイト決まって5分で威厳総崩れである。最短じゃないのこれ…。
「まあそんなことは良いだろ」とボヤキながらちょいちょいと指で呼ぶ霊幻に答える為、割と座り心地の良かったソファーから立ち上がる。
教科書をパラパラめくり、この公式じゃねーの?なんて話しているのを聞きながらなんですかぁと威厳も何もないボスの後ろに回った。
黙ったままパソコンの液晶を指さす霊幻にナマエはなにごとかと起動されていたメモ帳を読みだした。

――そのエクボって悪霊からどれだけ俺のこと聞いてる?――

「草生える、いいよ」
その言葉を待ってましたとばかりに立ち上がった霊幻は「モブ、お客さん来たら呼び出してくれていいからちょっと留守番してろ」と足早に事務所を出て行った。
「私も30分くらいセール行ってきます」
時間的にタイムセールが近いと思い、口から出まかせをぶっ放す。
悪だくみをしているのに気が付いたエクボが感情がモロ見えの表情で見送ってきたのに対して隣のモブのピュアピュアな見送りにナマエはちょっと心が傷んだ気がした。





「悪ぃな、モブには聞かせらんねーからよ」
「そんなにピュアじゃないからだいじょーぶ」
ゴンフィンガーのなり損ないを口元に当てウインクを飛ばせば話の分かるやつで助かるわと肩をバンバン叩かれる。「いつから気づいてた?」霊幻はモブが感知できないように適当にぶらつこうと足を進め、ナマエもその隣をついて歩く。
「そっすね、エクボのことを他人行儀な書き方をしていたあたりで色々察しましたね」
昨晩エクボから少し前情報を聞いていたとはいえデメリットをほとんど言わなかったから自分で確かめるしかないとは思ってたけど。んであとは事務所に来てからずっとエクボと目線を合わせなかったところとか…。「お前割と見てんだな」と感心した霊幻に「接客業のプロですよ、任せてください」とナマエは答える。
早速仕事の話をしちゃいましょうと女の細い腕で力こぶを作ったナマエに霊幻は目頭を押さえた。部下が頼もしすぎる…。
「除霊は出来るん?」
「したことないからわかんないですね、というかこないだまで零感だったんで」
念写能力は昔からあったがそういった荒事には関わらない人生を歩んできたので、まあエクボが助けてくれなかったらいなかったかもしれないですねとからから笑う。実にあっけらかんとしている。正論で諭しに掛かられるよりよっぽどやり易いタイプだった。
「んで、どんな詐欺でメイクマネーを?」
「さ、詐欺じゃねーわ!」
お客様に満足頂いてから帰らせるんだからちゃんとした接客です。屁理屈をこね舌先を回転させる職には変わらんやろと思いつつ言うのはとどまったナマエだが顔に出ていたらしくスパンと小気味いい音を立てて叩いた霊幻が口を窄ませる。
「いいか、マジでモブには内緒だからな」
「オーケーボス、機密は守るよ」
私は出来る女なので。嘘つくな。すれ違った人間は仲の良い兄弟のような応酬だったと語る。

「まあいい。つまりだな…新規開拓っつーのをしたい」
「ほうほう詳しく、ボス」

霊とか相談所では主だってお祓い業……と謳っているのだが、実際の所、浮気調査にペットの捜索など探偵業の仕事も引き受けているのだ。まずここで現在引き受けてる浮気調査に一躍買うことができるだろうと霊幻は言う。
「あー、ロックされてる携帯の返事考えてるのとか脳内に浮かべてる顔をキャッチして転写したらいいですもんね、考えたな霊幻さん」
「お前マジで考えつかなかったの?」
「年末の忘年会くらいでしか使ってませんでしたわ」
マジか、マジか…いや、そうやって頭が回らなかったから詐欺師に利用されずにこの年まで生きてきたんだろうなこいつ…。霊幻は道端では流石に出来ないので脳内で頭を抱えた。
「良いか、俺達以外に命令されても使うなよそれ」
「それが会社の命令ならば」
親指を立てる。ノリが良いのは結構なのだが……。霊幻はこのナマエという女の未来を密かに案じた。
「後は…」
そう霊幻が続けようとしたとき、ポケットに入れてきた携帯が振動した。呼び出しである。

モブ君が、というかエクボが軽く内容をまとめてくれたらしい、ポツポツとスクロールして画面を見つめていた霊幻がこちらに目を向けた。
「あーちょうどいいや、今からぶっつけ本番で仕事してもらう」
「オーケーです、口に出せない指令もあるでしょうし連絡先今のうちに交換しときましょ」
「お前、出来る奴だな…」
音のならないトークアプリに霊幻の名前を足して数秒後、建てられたグループチャットルームに招待されフットワークの軽さに畏怖した。いやまだ俺もおっさんじゃないし…。


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