胡散臭い白衣につかまったが流石に怪しすぎるとどうにか逃げる算段を立てていた私の耳に入ってきた個人名に大人しく連れてこられたわけですけど。なんか見た目もう…カモフラージュとかそういう次元じゃなくて完全に…。
「マンション、すね…」
「まあ中ぶち抜いてますけどね」
どうぞこちらへ。数段ほどの階段を上った先、101号室とかいう一番近いところの扉が開かれる。まじでここに影山茂夫こと霊とか相談所で私の先輩であり、ボスの霊幻さんの弟子がいるわけ?マジで?エクボこっちについてたんじゃないの?止めろ?悪霊の怠慢に毒づき、何か困ったことになってる可能性もあると押されると弱そうなピュアな中学生の身を案じる。絶対帰宅推奨。光にようやく目が慣れてきて薄く瞼を開けた。ガチもんの研究所で笑える。まあでも帰るぞ先輩。
そんな意気込みをひっそり入れていた私を尻目にズンズン進んでいった研究員のスカウトマンはとある天パ男の前に立つ。めっちゃ服派手なんですけどあの人。

「連れてきましたよ密裏さん」
「ほんとぉ!?」
やったー、ありがとうなんて子供のように喜んでいる男をスルーしてきょろきょろと視線を巡らせる。あの、特徴的なモブ顔の中学生が見当たらないんですけど……。
「ミョウジさん!きてくれてありがとう!」
ぱしりと音がなるほど勢いよく手を取られ大げさなくらい上下に振られる。やめんか、身体揺れるわ!運動不足な身体が、というか筋が悲鳴を上げてるのでその旨を伝えて停止させる。いうこと聞くのかこの男。
「すみません、影山を回収しに来ただけなんですけど」
「ん?影山君ならさっき帰したよ」
あまり遅くまで拘束しちゃ駄目でしょうとさも当たり前だとばかりに答えられた。おい、おいスカウトマンこっち見ろ!詐欺罪で訴えるからな!
「えぇ…訪問し損じゃん…」個人情報勝手に漁るような団体にわざわざ来た鴨葱なわけじゃん、ツッラ…帰るわ。「じゃあそゆことで」と戸口へと手をかければ待って待って待ってなんて肩をつかまれソファーまで引きずられて座らせられた。力強いなこいつと思ったけどスカウトマン普通に手伝ってたわ、二対一は卑怯だぞ。
「なんすか、帰りたいんですけど」
「まあまあそう言わずに、このお菓子でも食べて」
「睡眠薬とか入ってたり…」
ないない、しかも犯罪じゃないかそれ。突っ込まれたがお前個人情報勝手に漁るのも訴えられたら勝てるんだからな。怪しさ100%の目で睨みつけつつ出されたカステラには手を伸ばす。現金である。いやだって金箔ついてて見るからに高級そうだったし仕方ないじゃん…。298円の冷凍たこ焼きじゃないんだぞ…。うっ…このカステラ……!美味ぇ…!
「全部食べてくれていいよ、ちょっとだけ話を聞いてほしいんだ」
「……まあ貰っちゃったし時間あるんでいいですよ」
やるかどうかは別としてな。しっかり釘を打っておくことは忘れない。「うん、それはまあおいおい」やらすきだったわコイツ…。危なすぎる。

「覚醒ラボって言うのはもう聞いた?」
ざっくりと。そう答えればうんうんと向かいに座った男が頷く。ここの所長の密裏賢治と続けて名乗った男が握手を求めてきたので友好的なうちは流れに乗っておくべきだなと考え手を差し出す。今度は普通の握手だった。黙っていたままでも密裏という男はべらべらと情報を並べ立ててくるので楽だった。適当に相槌を打って話を促す。総評、ピュアだなこの人。ボスより好感度高いわ。ひどい言い草である。
完全に警戒を解いた私にキラキラとした目でそれで、といきなり饒舌だった口を閉じてもじもじしだしたので目を細めた。大の男がそんな行動を取らないで欲しい。
「君の超能力を見せてもらえないかい?」
「……適当な紙頂けます?」
霊とか相談所で見せたのと何一つ変わらない流れをここでも何度か繰り返した私に周りの研究員もわぁわぁと騒ぎ立てている。ちょっと、ちょっとこれ気持ちいいな?忘年会でしか使ったことのなかったクソみたいな力を褒めそやされて気分がアガる。照れるわ。

「100%出来るの!?すごいね!安定してる人は初めて見たよ!」
「まあこれだけしか出来ないですけどね…」
いやいや充分すごいよ、僕には出来ないことだよ!自分の脳裏に描いていた風景をそのまま転写された紙を見上げながら密裏さんは笑みを浮かべる。こんなに喜んでもらえるとは思ってなかった。もう少し拘束時間延ばしても大丈夫?お金払うから、脳波を測定させてもらいたいんだ!すかさずおねだりも飛ばされたが気分が上がっていたナマエは簡単に了承をする。個人情報なんてナンボのもんじゃい。詐欺じゃなくて普通に人のために役に立つとは思わなかった。何なら身体検査してもいいよ。ナマエは人生で初めて、そう。こんなに念写能力を喜ばれたことがなかったせいでとてもチョロかった。興奮する研究員たち、輝く瞳を向ける密裏、頬を赤くして上着を脱ぎだしたナマエ。三者三様の反応をしている覚醒ラボ内の人間を止める子供たちはすでに家に帰されているのだった。





「すごいよ、ほんとにすごい!やっぱり僕も欲しいなぁ」
脳波を測ったりどの筋肉が動くのかを調べるために消費された紙の束を机の上に並べた密裏ははぁと恋する乙女のようなため息をついた。その思いは一途である。完全に調略されたナマエは貸してもらったTシャツとハーフパンツ姿のまま向かいに座る。こんなに思われるなんて羨ましいわと超能力そのものに対する思いを抱いていたナマエにふと何か思いついたかのように密裏が顔をあげた。
「人に転写出来ないの?」
立ち上がる。完全協力体制の私と対面する密裏さんも立ち上がる。
じりじりと焼かれるような視線を男の腕へ向ける。
「あっ!」
「で、出来るみたいですわ」
刻まれたハート型のタトゥーを掲げる。紙じゃなくても出来るのか。初めて知ったわ。というかハート似合わねーなもっと考えればよかった。己の能力にまだ未知の力があったことを動揺する私の頭からは運動会で足の速さを少し細工したことはすっぽり抜けていた。「じゃあ、ジャンプ力とかあがるんじゃ?」そう言って僕にやってよとはしゃぎ測定具の前に走っていった密裏さんを追いかける。ぞろぞろとついて回る研究員を引き連れて大学院の朝回診みたいな状態になっていた。
先に密裏さんの初期能力を測る。横にどれだけ飛べたかを記録している研究員たちを背後に私は転写を使う。とりあえず壁位まででいいよな。さっきのタトゥーと違って見た目に何ら変わりはない。一応転写は終えたと私に合図されて助走をつけた密裏さんが壁にめり込んだのを見て思わず口元を抑えた。


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