飛び立つ雁の群れはどこを見ているのか


視界は白く、揺蕩う水面に足元が水なのだと気づいた。
秘術は父親から修行させられていたが、チャクラコントロールは親友であるサクラより上手くない。水面に立とうとして早々に失敗したので無駄なチャクラを使うよりはと諦めた。
ざぶざぶと彼女の世界に進んでいく。はじめはくるぶし程度だった水面はいつしか腰を超えている。霞がかっているわけでもない。文字通り視界は白一色だったのだ、それこそ不自然なほどに。
不気味な彼女の深層世界を歩きわずかに感じられる熱源へと向かう。おそらくその場所が彼女のいるところなのだと悟ったいのは冷たさも温かさも感じられないそれを掻き分け進んでいた。
シカマルやチョウジに試した時はすぐに連携が取れたはずなのだが、彼女は特に恐ろしく遠かった。
これはいのの力不足というわけではなくただ単に菫が他人を感知できておらず出向いてくれてないことによるのだが。
仲間は連絡を取ろうといのを呼び近づく為に、また敵は異物を排除しようと立ち向かってくる故に。その事実にいのが気づくのは残念ながらアカデミー卒業後であるのだった、閑話休題。
とうとう肩まで浸かってしまったいのは速度を緩めた。一歩先すら見えずおぼつかないまま先ほどと同じように進めば、いつ足元が消え溺れるかわからなかったからである。
先ほどカカシから教えてもらった彼女の名前を連呼する。返事が返ってきてくれれば進行方向の目途もつくのにとぼやいたいのの耳にちゃぽんと自分が立てていない水音が聞こえた。
水面に顔を出し泳いで向かういのの目の前に突如広がった橙と菫の夕焼け空に思わず棒立ちになる。
なんてきれいな…。動かないサンセット模様の空に見とれていたいのの視界の下方の端で黒い影が揺れた。それは再びちゃぽんと水面を揺らしており、こちらには気づいていないようだった。
音を出さないようにゆらりと近づき、それは人型なのだと判別できる程までくると、どうやら向こうも揺れる水面に異変を感じたようで振り返った。背を向けていたらしい。
そして、よくよく見てみればところどころ知らない装備品を身に着け、アロハシャツを着こみカラフルな飲料でのどを潤している。
彼女は絶賛常夏に向けてボヤージュしていた。暇すぎるが故の逃避行であった。
「……は?」
「あ、えっと……ん?」
いのは菫の姿に、菫は自分以外の存在に。互いがほぼ同じように頭上にクエスチョンマークを浮かべ……。



「えっと、改めまして。菫です」
「あ、山中いのです」
「ファッ!?」
菫さんが何か忍術を使ったのか何もないところから出てきた新しいデッキチェアに腰かけ向かい合うと名前を教えられたため、礼儀として返せば彼女は頭を抱えてしまった。
粗相をしたかと問えばそんなことはないこっちの話だと慌てて返された。
何かを聞きたそうにしていると話を促すも言いたくなさそうにしていたので無理強いはやめ別の問いに変えようと頭をさらにひねっているうちに彼女の方から問いかけが来た。
「ここは木の葉ですか?」
なんてありきたりな質問なんだ。そう言ってしまえば初対面の彼女がどう返してくるかわからない。怒るだろうか、拗ねるのだろうか。そんな興味に駆られなかったわけではなかったが流石にそこはシカマルとチョウジ、そしてクラスメイト達を束ねる女頭領的な立ち位置をしていたいのはぐっと抑え、無難にそうですと返した。
「まじかー、そっかー…。あーまじかー……」
語彙力が圧倒的に足りない人なのだろうかこの人は。唸り一人で考え出したかと思うと頭を抱えだした彼女をいのは未確認生命物体を観察するような面持ちになっていた。要するに半目であった。

対して菫の方はまず今まで一人だった世界にはっきりとした少女の姿を見たことに、次に彼女から出てきた山中いのという見覚えがありすぎるワードに動揺した。
そう、今までは一人だったのだ。サンセットなセッティングを終え黄昏色の空を眺めながらボサノヴァをかけ、マキシワンピースにサングラスというこの世界ではまず見られない異様ないでたちでちょっぴりアンニュイな気分に浸りながらブルーハワイを口に啜っていたのだ。
夢の中だから何でもできるとは言ったもののせめて目で見たことでなければ出来ないが、何分一人というのは圧倒的な解放感がある。
それこそプライベートビーチの女王様よろしく退屈さに壊れかけた理性がセレブのようなセットを脳内に作り出しそこで泳いだり昼寝したりと満喫していたのである。
無人の小島で一人バカンスをしていたが、この夢の能力を使いこなせるようになってからは食べ物は無尽蔵に出てくるわ気温も過ごしやすく出来るわ五体満足だわと喜び……。
つまりあれだ。酔っていたのだ、雰囲気に。そう言う事にしてください。
他人に、しかも自身が一方的に知っている憧れの漫画の登場人物に見られたことで羞恥を通り越してやけくそになっていた彼女はそのセットを消去することなく彼女にも同じ装備を与えもてなした。赤信号、みんなで渡れば怖くない。の心境であった。
ワンピースは身に着けることはなかったもののオシャレリーダーとして名高い僅か8歳の少女はそれを何故か懐にしまうとデッキチェアに浅く腰掛けながら何かを迷っているように視線を漂わせたのだ。だから、私は今自分がどういう状況に置かれているのか、障害を負って隔絶されていた外の情報を共有、否、仕入れようとしたのだった。彼女と夢の中で出会ったことでだいたい位置は察していたのだが、口で言われるとそれをかみ砕くのに多少時間がかかるものなのだなぁと少し感心したのは菫だけの秘密である。そしてその先を聞きたくなかった。そう。“誰に飼われているのか”が。

「えっと、今菫さんは誰の家にいるのか知りたいですか?」
「あ、核心にいっちゃう?いきなり?」
「いや、聞きたくないならすっ飛ばそうと思うんですけど」
最短距離で答えを導きだそうとする忍の習性をすっかり忘れていた菫は動揺したがそれを何とかどもる程度にとどめ、聞いたのだ。名前を。

「はたけカカシさんです」
「アウト」

思わず顔を覆った私は悪くない。


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