「なあ、ヒロ。あの、こっちに行くの、止めんか?」
「何故です?」
「……ピヨ」

笑顔で仁王の手を引いて歩く柳生に、仁王は最初のうちは上機嫌だったが徐々にそわそわし始めた。

――実に分かり易い人ですね、仁王くん……

「……あ」
「やあ。仁王……で合ってるか?」
「お早うにゃ――!」

と、向こうから青学の黄金ペアが歩いてきた。

「仁王ぜよ。今日柳生と入れ替わったって何のメリットもないじゃろ」
「うん、確かに仁王みたいだね。身長あるもん」
「そうナリ……最近体格差がついてきてのう、正直入れ替わりは限界なのかもしれん」

――その通りなんですよね。身体のくびれは仕方ないとしても身長だけは伸ばさねば、と思って毎朝牛乳を飲んでいるのですが、胸に付いてるだけの気が……

「で、お前さんらは仮装行列でもするのかのう?」

大石と菊丸はテレビの戦隊モノを思わせる模様付きの派手な全身タイツを着ていた。

「いや、今から戦隊ショーをやるんだ。良かったら彼女と観に来てくれると嬉しいな」
「てゆーか何?その娘。仁王の彼女なの!?」

すると仁王は柳生の肩を引き寄せ、

「そうじゃ。可愛いじゃろう?」

と自慢気に言った。

「うん、可愛い!!俺と一緒に悪の組織に攫われる役やってくれないかにゃ?こんな可愛い娘が捕まれば絶対盛り上がるにゃ!」
「あ、えと……」
「へえ、仁王って氷帝に彼女いたんだ……意外だね」
「!?」

第三者の声に驚いて振り向くと、カシャ、とシャッターを切る音と共に青学の不二が現れた。

「一枚撮らせて貰ったよ。こんなに綺麗な被写体、撮らない手はないからね」

と言って不二は柳生にニッコリと微笑みかけた。

「お上手ですね。有難うございます」

柳生はふふ、と笑い返した。

「あ!不二!!やっと見つけた――!」
「早く着替えないとショーに間に合わないぞ!」
「ゴメン、写真を撮るのに夢中になって……あ、仁王とその彼女。学園祭が終わる頃には写真を現像してメインホールに貼り出すから宜しくね」

それじゃあ又、と手を振り三人は慌ただしく去っていった。

「あ――、青学の奴らもああ言っちょるし、観に行くか?戦隊ショー」

と仁王が傍らの柳生に声をかけるが、どうも様子がおかしい。

「ヒロ?」
「――仁王くん。私に気を使わなくても良いのですよ」
「何の事じゃ?」
「……可愛いとか、そういうの」

そして柳生は悲しげに微笑った。

「私を喜ばせる為に仰っていると思うのですが、ごめんなさい、私、貴方の口からその言葉を聞く度に心が痛くなるんです」
「何故じゃ?どうして――」
「貴方の本心ではないからです」
「えっ……」
「にーおーうーせーんーぱーいッ!!」

突然スッと仁王の背後から手が伸び、その肩をガッチリ掴んだ。

「もう逃がさないッスからね!!」
「げ、赤也……」

――目、充血してますね。怒り心頭のようです。ま、当然ですが……

「いつまでも帰ってこないと思ったら!当番サボって氷帝の女子引っ掛けるとか何してるんスかアンタ!!」
「引っ掛けてなか!引っ掛かったんぜよ!!」
「どっちも同じでしょーがっ。てか最低!アンタって人は柳生先輩がいないとほんっと駄目男ッスね!!」
「その通りぜよ!」
「堂々と認めないで下さいよ、全くもう!!」

さあ帰るッスよ!と赤也は仁王の腕を掴み、ずるずると引き摺って歩き始めた。

――計算通りです。立海模擬店の近くをふらふら歩いていれば、誰かが仁王くんを捕まえてくれるだろうと思っていました。途中で気付いて進路変更させようと思ったようですが、そうは問屋が卸しません。

「助けてくんしゃい、ヒロ!!」

ホント、私がいないと駄目なんですから。




   



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