柳生が制服を着せられてる間に開会式は終わったようで、外に出ると辺りは沢山の人で溢れかえっていた。

「凄いですね」
「我が跡部グループが総力を挙げて支援しているんだぜ?当然だ」
「そうですか……」

パンフレットを見ると、模擬店や展示、劇や歌・演奏などの舞台発表の他、参加型のイベントやお笑いや音楽のプロを呼んでのライブなど内容はいかにも学園祭的なのだが。

「レベルと数が尋常じゃないですよね。イベント会場が5つ、そしてゲストステージも芸能に疎い私でも判るくらいの著名人ばかりですし」
「ホンマやなあ。いくらお祝いやからって、気合い入れ過ぎやろ」
「お祝い?」
「――侑士!!」

ふと近くの出店から忍足の名を呼ぶ声がした。

「謙也?」
「おう!」

模擬店の並びの、『くいだおれ』と書かれたのれんの下から男がこちらに駆けてきた――四天宝寺の忍足謙也、だ。

「何してるん自分?跡部と、あと……」
「跡部の従姉妹のヒロちゃんや」
「へぇ〜、流石跡部の従姉妹!えらい別嬪さんやなあ」

謙也は柳生の顔をまじまじと見た。直接試合したことはないがお互い全国常連の強豪校であり、顔を合わせる機会は何度もあった。しかもこの間、修学旅行でお世話になったばかりだ。正体がバレはしないかとハラハラしたが、

「俺は侑士の従兄弟の忍足謙也や。あんじょうよろしゅう!」

と彼は何の戸惑もなく右手を差し出した。

「跡部、我が四天宝寺を招待してくれておおきに。どや、ウチの店で食べていかへんか?サービスしまっせ」
「そやなあ。朝早うから準備して小腹が減ってたとこやし。ええんちゃう?」
「ヒロ、お前はどうだ?」
「私……私は、是非とも御相伴にあずかりたいです!!」

――だって、大阪食ということは!!









「頂きます!!」

ニコニコと満面の笑みを浮かべ、柳生は早速目の前の食べ物に手を付けた。

「ところてんかいな。けったいとまでは思わへんけど、意外やなあ」
「黒蜜がかかっているのが食べたかったんです」
「ああ、関東は酢醤油やもんな」

四天宝寺の店はテイクアウトも可能だったが、時間的にまだ店内が空いていたのでその一角を陣取って三人は腰をおろした。目の前にはたこ焼き、お好み焼きといったメジャーなものから串カツやどて焼きといったものまで並べられていた。

「跡部の兄ちゃんおるん!?」

奥からちょこんと赤毛の頭が飛び出し、トレードマークのヒョウ柄タンクトップを棚引かせ金太郎が姿を現した。

「此処で会ったが百年目!わいと勝負しいやー!!」
「フン。俺様はコイツのエスコートで忙しいんだよ。また今度な」
「えー」
「しゃあないやろ、金ちゃん」

続いて部長の白石も現れた。

「おいでやす。俺らを呼んでくれた礼や、勘定は要らんからぎょうさん食べて行ってや!」

そう言うと白石は愚図る金太郎を連れて再び店の奥へと消えていった。

「跡部君……すみません。主催者である貴方はお忙しいでしょうに、私に付き合わせてしまって」
「気にすること無いぜ、アーン?」
「ちゅうか嬢ちゃん、付き合わされているのは嬢ちゃんの方やで?拉致られてここに居るんやろ」
「あ……」

そうでした、と呟く柳生におもろいなあ嬢ちゃん、と忍足はクククと笑った。

「エキシビジョンマッチまでには帰すから、それまで跡部に付き合うてな」
「……立海の皆には私の不在はどういうふうに伝わっているのでしょう?」
「跡部に用事を頼まれて学外に出たと部長さんに言うた」
「そうですか……」
「嬢ちゃん」

忍足はニヤニヤした顔のまま言った。

「今日な、跡部は何の予定もないんや。目立ちたがりのこの男が歌も演奏も劇も、エキシビションマッチすら出ないんやで?おもろいやろ」
「忍足!」
「なあ嬢ちゃん。なんでやと思う?」

跡部の制止を無視し話を続ける忍足に、跡部はチ、と舌を鳴らす。忍足は柳生の答えを待たずに言った。

「何か問題が起こった時は直ぐ駆けつけなあかんから、イベントに参加しないんやと」
「……我が氷帝が総力を上げて企画したんだ。大盛況のうちに終わらせなけば生徒会長の面子にかかわるからな。当然だ」
「それだけやないやろ。照れ屋なんやから、景ちゃんは」
「忍足!!いい加減に……」
「なあ嬢ちゃん、気付いとる?いつも跡部の後ろに控えているアイツが居らんの」

そう言われてみると、いつも跡部には二年の樺地が付き従っていた。けれど今日は一度も見かけていない。

「あんなあ、今日樺地の誕生日なん。この学園祭は跡部から樺地への誕生日プレゼントなんや。でもいつもみたいに樺地を自分の傍に置くと樺地は自分の世話をしてしまい学園祭を楽しむことが出来へん。だから跡部は今日一日樺地にヒマを与えとる。可愛いやろ?意外と」
「テメェ!黙って聞いてりゃ……俺様はそんな事は一言も言ってねェだろうが!!」
「でも当たっとるやろ?」

苦虫を潰したような表情の跡部に、忍足は勝ち誇ったようにフフ、と笑った。

「で、情に厚い俺は樺地がいなくて寂しい景ちゃんを慰める為に数多の女の子の誘いを蹴って一日付き合う事にしたっちゅー訳や」
「死ね」
「ひどいわあ」

よよよ、としなを作った忍足を跡部はフン、と一蹴した。

「先程仰ってた『お祝い』ってそういう事だったんですね。――お優しいですね、跡部君も忍足君も」
「惚れた?」
「それとこれとは別ですけど」
「さよか」

残念や、と忍足は肩を竦めた。その時、

「氷帝の跡部君と忍足君が来とるんやって!?そういう事は早よ言いなはれ!」
「浮気か、死なすど!」

奥の方からパタパタと駆けてくる足音が二つ。

「この声は……」
「跡部くぅうん!忍足くぅぅうん!!」

周囲にハートをまき散らしながら金色と、それを追って一氏が現れた。

「ああら、二人とも相変わらずイケメンや〜ん?目移りしちゃうっ」
「こはるぅ……」

項垂れる一氏に構うことなく、金色は来てくれて嬉しいわ〜!!と二人の手を取る。そして柳生を見、表情を変えた。

「あら――アンタ。なんや、他の男と密会かいな。王子様ほっといて何してますのん。かわいそ」
「え……っ」

驚く柳生に更に追い打ちをかけるように、店内に聞き慣れた声が響いた。

「おーい、部長の白石は居るかのう?立海の仁王じゃ。ウチの部長から伝言を言付かってきたんじゃが……」

――仁王くん!!




   



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