窓の外を見る。景色が矢のように流れていく――やはりバスとは速さが段違いだ。

「残念だったわね、比呂士さん」
「ええ……」



柳生は母親と新幹線の中にいた。保健医に柳生の身体の事情を話したところ、やはり思春期の少年達と寝食を共にするのは危険だと判断され今に至る。

保健医は柳生の母親を呼び出した。母親は月経ならば仕方ない、帰りましょう比呂士さん、と柳生を説得した。説得、と言っても柳生も同意見であった。修学旅行は実に楽しく、まだまだ皆と一緒にいたかった。しかし、

――これ以上、仁王くんに御迷惑をかける訳にはいきません。

帰る際、仁王に会うことは叶わなかった。仁王は柳生を保健医に引き合わせた後も傍を離れようとせず、彼女を抱き込み柳生さんの傍にいるんじゃ――!!と主張したが、保健医の『このマセガキが!!』との一喝と共にバスから蹴り出された。

保健医を連れてきた丸井に引き摺られ、泣く泣く生徒らの列に戻っていく仁王に本当は私も傍にいて欲しいのですが、と告げたら『……貴女たち、まさか裸を見せあうような仲なの?』と保健医に睨まれ、やーぎゅ!!とハートマークを飛ばしながら柳生に飛び付いた仁王の腕の中で彼女はいやそんなまさか違います!!と顔を赤くし否定した(そうでした、私、今から着替えるんでした!)。

ともあれズボン以下ほぼ血塗れだった柳生の身を整えるのに時間を割かれ、また新幹線の時間の都合等もあり、皆のバス帰還を待たずして自宅へ帰ることとなった訳である。

(仁王くん、黙って発つ事になってすみません……)

「……仁王君の事、考えているのかしら?」
「えっ」
「彼、本当に貴女の事が大好きなのね」
「母さん……?」

意味ありげに微笑む母の顔を柳生はまじまじと見つめた。

「仁王君ね、修学旅行に発つ日の朝、貴女に会う前に私に土下座したのよ」
「え……ええっ!?」

――なんですって!

「どうしてそんな事を!!」
「貴女を修学旅行に連れていく為よ。『中学最後の旅行じゃ、柳生さんも本心では行きたいち思っとる筈ぜよ』って言ってね」
「仁王、くん……」
「『娘さんを男子と過ごさせるのは不安でしょうが、俺が守りますから!!』とまで言われたら首を縦に振るしかないじゃない?」

フフ、と母は笑う。

「母さんね、一瞬貴女を嫁に出す気持ちになったわよ」

そして泣き出した娘の背中を優しく撫でた。











「柳生、帰ったんか」
「ええ。貴方に挨拶も出来ずごめんなさい、と伝えて欲しいって言われたわ」
「……ありがとさん」



仁王が社寺見学からバスに戻るとそこに柳生は居らず、保健医から自宅に帰ったことを知らされた。

「柳生君が女の子だとは気が付かなかったわ。担任の先生も知らなかったわよ。よく判ったわね、仁王君」
「愛の力じゃよ」
「言うわね。貴方達が恋人同士なのにも吃驚よ。性格真逆なのにどうして」
「……先生さ、恋人じゃない奴ともキス出来る?」
「え?」

驚いて聞き返す保健医に仁王は悲しく笑った。

「柳生ね、仁王くんが大好きです一番ですって言うし、キスしたら喜んでちうちう口吸ってくれるの。多分エッチさせて?ち言うたら吃驚するだろうけど、いいですよ仁王くん、と身体を差し出すんじゃなか?」
「……止めなさい。今孕ませたら相当面倒臭いわよ」
「そう?面白いと思うがの。男なのに柳生さん妊娠した―!って大騒ぎぜよ。戸籍も男なんじゃろ?」
「……」
「そう睨みなさんなって、冗談じゃ。気持ちが繋がってないと虚しいだけナリ」
「あら、丸で貴方の片想いみたいな言い草ね?」
「片想いなんじゃ。恋心を抱いているのは俺だけで、柳生は――

柳生は抱き締めてもキスしてもあんまり恥じらったり緊張したりしないんじゃ。開けっ広げっていうか……警戒心が丸でなか。つまりは柳生さん、俺のすることに下心があるとは思っちょらんのよ。『親友の仁王くん』を何の疑いもなく信じとる」
「そうなの?まあ確かに柳生君は恋愛には疎そうだけど……好意はある訳じゃない。告白したら好い返事貰えそうだけどねえ」
「駄目ぜよ。柳生はまだ女を受け入れてきれておらん。こんな事になって柳生が一番頼りにしているのは男女関係なく親友でいてくれる俺で、その俺に恋愛対象だと告白されたらどうなる?柳生は更に混乱する。異性として見られていた、裏切られたって思うじゃろ。拠り所が無くなって柳生壊れるぜよ、きっと、きっとな。」
「優しいのね」
「大事なんじゃ」

仁王はフッと笑う。

「それが恋してるって事じゃろ」

そう言うと彼は踵を返した。

「あんがとさん。世話かけたぜよ」
「――仁王君!!」
「何?」

どこか悲壮感漂う仁王の背中に保健医は堪らず声をかけた。

「さっきの質問の答え!」
「?」
「恋人以外とはキス出来ないわよ、例え親友でもね!!」

仁王は一瞬驚いた顔をし、そしていつもの人を喰った笑みで宣った。

「先生!!俺は守るだけの騎士でも魔法を解くだけの魔法使いでもなか!王子様なの!!最後は柳生を女にして拐うぜよ!これ絶対な!!」




   



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