――船?……違いますね。これは……

規則的に揺れる感覚で、柳生は意識を徐々に浮上させた。暖かい。これは人の体温だ。うっすら目を開けると、煌めく銀糸が視界に飛び込んだ。

「……仁王くん」
「やーぎゅ。目ぇ覚めたかの?」

柳生は仁王に抱きかかえられていた。彼女は慌てて仁王に謝罪する。

「すいません、私、いつの間にか意識が飛んで……」
「よかよ。緊張の糸が切れたんじゃろ」
「あの……重いでしょう?自分で歩きますから降ろして下さい」
「駄目じゃ。ズボンに血ぃついとるからのう」
「!!」
「おとなしく運ばれんしゃい」
「……お世話になります」
「おん」

柳生は腹部に掛けられたジャケットを見る。仁王の物だ。ああ、きっとこれも汚してしまっているのだろう。

「やーぎゅ。取り敢えずバスに戻るぜよ。さっきブン太に会ってな、保健室の先生に来てもらうようにした。先生たちは柳生が女の子じゃって知っとるの?」
「いいえ。でもお話しするしかないと思います」
「そうじゃな。一応ナプキン着けたけど、服に付いた血の言い訳とかこれから先の事を考えると先生には話した方が良かろ」
「ナプキン!?」

そう言われると、確かに股に何か張り付いている気がする。見た事はないが、ああ、これが噂の。て言うか、

「何故持ってるんですか貴方!!」
「俺、バスの中で柳生の腰に抱きついたじゃろ。あの時血の匂いがしたからもしかして、ち思って予め用意してたんじゃ。腹も痛いち聞いたしな」
「……どうやって手に入れたんですか?」
「企業秘密ぜよ」
「そうですか……」

しかし、仁王にとんでもないものを処理させてしまった。意識のない間に秘部を見られたどころか――

(いや、それを今考え込むと立ち直れなくなりそうなので一先ず忘れることにしましょう。それより、)

「仁王くん」
「おん」
「もしかして、私が女だって事、以前から気付いてました?」
「おん。何年ダブルスを組んでいると思っとるんじゃ?しかも柳生さん……ちと言いにくいんじゃが、昨日の風呂場……あれで気付くなって方が無理ぜよ」
「……え」
「俺、夜眼が利くんじゃよ。明るいところよりも暗いところが好きだしのう……」
「……」
「やーぎゅ?」
「――それじゃあ何ですか!?私、全部仁王くんに見られちゃってたんですか……!!」

柳生の顔からさあっと血の気が引き、仁王の腕の中でジタバタと暴れ始めた。

「ちょ!落ち着きんしゃい、やーぎゅ!!」
「降ろして下さい仁王くん!!私、此処で腹切って果てます!」
「ああもう、落ち着くんじゃ!公衆の面前でキスされたいんか!?」

仁王の言葉に柳生の動きがピタ、と止まる。

「……すみませんでした」
「おん。ま、責任は取るつもりじゃがのう」
「?」
「――なんでもなかよ。」

柳生は責任って何でしょう?と首を捻るが、仁王は苦笑するのみではっきり答えてはくれなかった。




   



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