注:流血表現あり





「来ないで下さい――…!!」

柳生は仁王を拒絶した。いつもの彼であれば酷いぜよ、やーぎゅ!開けてくんしゃい開けて開けてとドアを殴る蹴るの大騒ぎをした後に柳生さんのばか!と泣き真似をして走り去るくらいの芸当をやってのけるのだが、

「どうしたの、やーぎゅ?」

しかし尋常でない柳生の叫びに異常を感じ取ったらしく、仁王の声色は優しかった。

「何があった?」
「……」
「……ここを開けてくれんかの」
「……」
「俺はお前さんの力になりたいんじゃが」
「……」
「俺の事嫌いになったの?お前さんに嫌われるような事をしたのかのう?」
「――そりゃあ貴方のやる事は理解出来ない事も多いですが、しかし言ったでしょう!?私は貴方が大好きだと!!」

柳生は声を荒げドアを殴る。紳士と評される彼女らしからぬ行動に、仁王は口を閉ざした。

「だからこそ、だからこそ知られたくない事もあるんです!!」

柳生の悲痛な叫びは尚も続く。

「私は貴方を失いたくない!!だからお願いします、ここは何も言わず退いてください……!」
「……なんじゃそれ。訳が判らないぜよ。失うって、どうして?」
「……」
「また黙りか」

仁王は参ったのう、と呟いた。

「なあ、お前さん今困ってるんじゃろ?一人で解決出来るの?」
「出来ます。だから放っておいて下さい」
「そうは思えんがのう――
ねぇ、やーぎゅ。隠し事があるのは判る。判るんじゃが、手伝わせて貰えんかの。お前さんが辛いと、俺も辛い」

――仁王くん……!

隠し事をされるのは気持ちの良い事ではないでしょうに、それなのに私の事を心配して下さる貴方。何処までも私の親友でいて下さるのに、私の性はそんな貴方を裏切る。私の気持ちだけでなく、貴方の気持ちまでをも踏みにじるのだ。どうして、どうして私は。私の身体は――

「――ごめんなさいごめんなさい!!」

とうとう張りつめていた糸が切れたかのように柳生はわんわんと泣き始めた。

「仁王くん、私、本当に貴方が大好きなんです!じゃれ合ったり取り留めのない話をしたり、ずっと貴方の傍に、貴方の一番でいたかった!!でももう駄目なんです!私、とうとう化け物になってしまった!!高い壁で貴方たちから隔離されてしまったんです!だから、もう構わないで……」
「――壁って何?」

不意にドアが軋んだ。目線を上げると、そこには見慣れた白銀があった。

「仁王くん!」

柳生の静止も虚しく、仁王はあっという間にドアを乗り越え柳生の目の前に降り立った。

「ちょ!貴方、何を考えているんですか!!」
「理由を話さない柳生さんが悪いんじゃ」

柳生は必死で下半身を隠そうとしたが、狭い個室である上に足と足の間に仁王が着地し足を閉じる事も儘ならない。秘部から血の滴り落ちる様を晒され、柳生は顔を背けた。

「最低です……!!」
「――やーぎゅ、」

仁王は腰を屈め、柳生に手を伸ばした。柳生は咄嗟に身動ぐが、仁王はそれに躊躇する事なく頬に触れ涙の跡をなぞった。

「コレ、初めて?」
「はい……」
「そっか。それは怖かったな」

そう言うと、仁王は柳生を頭から抱え込む様に抱き締めた。

「もう大丈夫じゃよ。俺が何とかするけん」
「仁王くん……」

その変わらぬ暖かさに、柳生は再び堰を切ったように泣き始めた。

「仁王くん、私は、私は、」
「おん」
「女性になったら貴方の態度が変わる気がしてそれが恐ろしくて、」
「おん」
「性別が違うから余所余所しくなるんじゃないかって、いずれ貴方が私から離れていくんじゃないかって、」
「――柳生さんは、ホントばかじゃのう」

苦笑する仁王に柳生は顔をかあっと赤くし身体を離す。

「だって、仁王くん……!!」
「好いとうよ、やーぎゅ」

柳生が仰ぐと、仁王は蕩けるような甘い笑みを浮かべ柳生の頬を優しく撫でた。

「好きなの、お前さんが。お前さんが思っているよりずっと、ずっとじゃ」
「仁王くん……」
「柳生は俺の事を大好きち言うけど、もしも俺が柳生と逆の立場だったら俺の事嫌いになる?」
「否!嫌うなんて、有り得ません!!」
「何故じゃ?」
「だって男でも女でも仁王くんは仁王くんじゃありませんか……あ、」
「一緒じゃよ」

仁王はクスリと笑う。

「男でも女でも俺の大好きな柳生に変わりなか」

彼は柳生の顎に手を掛け、その顔を寄せた。重なった口唇は浴場で交わした口付けと同じ暖かさで、柳生は嬉しくてその口唇をちう、と吸った。仁王は気を良くしたのか、何回も何回も柳生の口唇にキスを落としそれに応えた。角度を変え深くなる口付けに柳生は蕩けた。薄れ行く意識の中、仁王の声が心地好く響いた。

「安心しんしゃい。『柳生さんを好きな仁王くん』はいなくならんぜよ……」




   



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