「神奈川から関西への修学旅行って普通新幹線とか使いますよね。バスって有り得ないですよね。移動に何時間かける気だっていう」
「誰に向かって話しとるんじゃ、やーぎゅ」

修学旅行初日は神戸。異人館巡りで一日が終わり、宿に着いた。

「明日は大阪に移動ですね。幸村君が四天宝寺の白石君に連絡を取ったらしいですよ」
「げ。修学旅行でさえ練習に充てる気かよ」
「フフ……違いますよ、安心して下さい仁王くん。名所に案内してもらうんですよ。限られた時間で大阪の街を堪能するとなると、迷ってる暇はないですからね」
「あの無駄のない部長さんの案内か。なんか急かされそうだのう」
「まあ!ボランティアで来て下さるのですからそんな事を言ってはいけません」
「へーへー。そうなると明日は……」
「はい。明日の自由時間はテニス部レギュラーの皆で行動しましょうとの幸村君からの伝言です」
「おん。了解じゃ」
「今日の異人館も素晴らしかったですが、明日も楽しみですね」
「そうじゃな、うん――」
そして仁王は目を細めて微笑んだ。
「楽しみぜよ」

――あ。

どこか安心したような笑みにまだ後ろめたさを引き摺っているのだと感じ、柳生は仁王の不安を払拭すべく彼に手を伸ばした。

「あの、仁王くん!私、修学旅行に来れて良かったと思ってます」
「ほんと?」
「ええ!私は何を心配していたのだろうかと思うくらい――」

そこで柳生の言葉は止まる。

――心配?
そうでした。これから夜が来ます。風呂は大衆風呂しかないようなので今日は諦めるとして、寝所。十人部屋でした。着替えはいつもの通りトイレでするとしても……あの部屋、畳の部屋でしたね。押し入れの中に布団が入ってましたし、あの些か狭い部屋に敷き詰めることになるのでしょう。隣の人とのスペースが充分でない部屋で、無事夜明けを迎えることが出来るでしょうか。晒しを巻いて寝るとしても、寝相の悪い輩が転がってくるとも限らないし、逆も然り。私、寝相の悪い方ではないとは思いますが、普段ベッドですから判りません。それでなくても寝てる間に悪戯されるかも知れないし……

「……やーぎゅ?」
「あ、はい、本当に良かったと思ってますよ、はい……」

――どうしましょう。




   



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