そうして始まった四天宝寺女子テニス部との合同練習一日目は滞りなく終わり、立海女子テニス部員たちは宿泊先に移動した。

「『柳生比呂士の従姉妹』であっさり通じてしまうとは。意外とバレないものなんですね」

荷物を置きながら柳生が良かった、と零すと、隣にいた女生徒がカラカラと笑った。

「柳生先輩はいつも眼鏡で顔は見えないし、露出も少ないから体型も判りづらいですもんね。身のこなしも綺麗だし、男と判る人はいませんよ。流石ペテン師!」
「……その言葉を聞く度に、仁王くんの相方を辞めたくなります……」

ところで、と柳生は周りをキョロキョロと見渡した。

「原さんの姿が見えないようですが」
「ああ、あの子なら宿の人に人数追加の交渉と、あとお祖母ちゃん家に電話をかけてくるって言ってました」
「え?」
「彼女、今日は大阪のお祖母ちゃん家に泊まる予定だったんですよ。けれど、柳生先輩を私たちの中に放り出す訳にはいかないと、予定をキャンセルして私たちと一緒に此処に泊まるんですって!」

誰も柳生先輩を襲ったりしないのに、失礼ですよねー?と彼女は再び笑い出した。

「そうだったんですか……折角の里帰りだったのに、悪いことをしました」
「気に病む必要はありませんよ、柳生先輩。御無理をお願いしたのは此方ですし、祖母の家には始終行っていますから」
「――原さん!!」

又も耳元で囁かれ、柳生は前回同様瞬時に顔を赤くし、耳を手を当て身を反らした。原はそんな柳生を見てクククと笑った。

「本当に可愛いらしい反応をされますね」
「……あの、からかわないで頂けますか?」

柳生は動揺を抑えようと眼鏡のブリッジを人差し指で上げようとした。しかし。

「柳生先輩。今は眼鏡してませんよ?」
「あ……」

再び真っ赤になった柳生を見て、原は又クスリと笑った。そして室内の部員たちに「注目!」と号令をかけた。

「夕食までにはまだまだ時間がありますから、ショッピングするなり宿で休むなり自由に過ごして構いません。でも明日はいよいよ四天宝寺との練習試合です。遊ぶにしても、程々にするように!」

すると女生徒たちは歓声を上げ、何処に行く?ときゃあきゃあ騒ぎながら出かける準備を始めた。そんな彼女らを横目で見ながら、確か読みかけの本がある筈、と鞄を漁り始めた柳生の肩を原がポンと叩いた。

「私たちも出かけますよ、柳生先輩」
「え?」

キョトンとする柳生に、原はニッコリと笑った。

「デートしましょ」











原の発言にざわめく女生徒たちを尻目に、柳生は原に連れられ宿を後にした。そして。

「原さん、此処は……」
「大阪の中心街です」

言われるがまま連れて来られたのは、大勢の人が行き交う繁華街であった。原は柳生の手を引き、その一角にあるデパートへと入った。中は着飾った少女たちで溢れ返っており、様々な服を取り揃えた店が所狭しと並んでいた。

「今日も明日もその派手なジャージで過ごす訳にはいかないでしょう?下着の替えもいるでしょうし」

そして原はどのお店がお好みですか、あそこなんてどうでしょう、とズンズン中へと入っていった。

「あの、原さん。私、別にジャージのままでも……」

周りを見、オロオロする柳生の顔を覗き込み、原はもしかしてと切り出した。

「柳生先輩。こういう場所は初めてですか?」
「ええ。あまり男が来る場所ではないでしょう?」
「妹さんとは来られないんですか?荷物持ちとか」
「いいえ、全く」
「そうですか……」

すると原は柳生の手を握った。

「原さん!?」
「やはり貴女には少々社会勉強が必要のようです」

目を白黒させる柳生にニコリと微笑むと、原はその手を引いてテナントの内の一つに入った。そして寄ってきた店員に、

「すみません!この子に似合いそうな服を何点か見繕って下さい」

と声を掛けた。

「ちょ!原さん!!」

笑顔で判りました、という店員に柳生は焦り、大丈夫です自分で選びます!と身近なマネキンを掴んだ。

(あ……)

「どうされました?柳生先輩」

突然静かになった柳生に、原は首を傾げる。柳生は空色のワンピースを着たそのマネキンに釘付けになっていた。

「そのワンピース、気に入りました?」
「気に入ったと言いますか……仁王くんが好きそうな色なので、これを着たら仁王くん喜んで下さるでしょうか、今以上に私のことを好いて下さるでしょうかと……」
「えっ」

瞬く間に顔を赤くした原を見て、柳生は失言に気付き原と同様全身を赤く染めた。

「す、すみません!!ついうっかり……今のは聞かなかったことに!!」
「それは無理です、心にしかと録音しました」
「ええ!?」

原は狼狽える柳生の両手を握り込み、興奮した様子で彼女に迫った。

「試着しましょう、柳生先輩。仁王先輩はこれ以上好きになるとか無理!ってくらい柳生先輩が大大大好きで、可愛くて仕方なくてメロメロにヤラれちゃってますから、滅多に好きなんて意思表示をしない柳生先輩からのアプローチに大喜びも大喜び、盗んだバイクで走り出しますよ!!」
「バイクを盗むだなんて、それはいけません」
「相変わらずツッコミ間違ってますね柳生先輩。兎に角、そのワンピースを試着してきて下さい!私はそれに似合いそうなジャケットを選んできます……時期的にカーディガンの方がいいでしょうか。それに靴も必要ですね。ヒールのない靴を選んできます、女性の靴には慣れていないでしょうし。それに身長差がある程度出るまでは、ね……」

と、原はブツブツ言いながら柳生にワンピースを押し付け、店の奥に消えた。

(原さん凄い剣幕……思わず圧倒されてしまいました。又も意外な一面を見てしまったと言いますか、ああでも女性の方は色恋話が好きだと聞きますし、原さんも例に漏れずそうなのでしょう)

そして柳生は手渡されたワンピースに視線を落とした。

(彼女には盛り上がっているところ申し訳なくて言えませんでしたが、男として生活している以上、仁王くんと出掛けることがあっても彼の前でこれを着ることはないでしょう)

――でも、

「柳生先輩!可愛いです……!!」

ワンピースを着た柳生を見て、原は目を輝かせ彼女を抱き締めた。

(仁王くんと恋人として街を歩くのを夢見るくらい、いいですよね)

「柳生先輩……?」

腕の中で目を閉じた柳生に、原はどうしたんですか、と眉を顰めた。

「いえ、こうしてると仁王くんに抱き締められてるみたいだな、と思いまして。背格好も似てますし」

あ、でもこれって女性に対し失礼でしょうか、と柳生は身体を離そうとした。しかし逆に抱え込まれてしまう。

「原さん?」
「――すみません、柳生先輩。もう少しこのままでいさせてください」
「?」











「――ねえ、さっきの長身の。片割れがワンピース着て帰った、」
「ああ、あの綺麗な二人組」
「そう!凄く可愛かったー!!黒髪の、ロングヘアの子が栗色の髪の子を抱き締めて真っ赤になっちゃって」




   



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