「話は全て聞かせて頂きました。柳生先輩が女性だったとは、驚き……いや、納得でしょうか。学祭でのあのお姿、とても男性とは思えませんでしたから」 「! 幸村君、そこまで話したのですか?」 「ええ。学生の団体旅行ですから、宿は当然大部屋です。協力者がいなければ、正体を隠し通すことなど難しいでしょう?」 「確かにその通りですが……」 「ご安心下さい。誰にも話すつもりはありませんから。明日の試合に出て頂ければ」 「……原さん、そんなキャラでしたっけ?」 「早速ですが、大阪に着いたらそのまま四天宝寺に向かい、テニスコートを借りて練習をします。その男子制服ではマズいので、ジャージに着替えて頂けますか?私のをお貸ししますので。あと眼鏡は外して下さいね」 「……はい……」 「晒しも外して頂けますか」 「え!?しかしそれでは胸が……その、上下に揺れて動きにくいかと」 「きちんとブラを付けたら、胸も邪魔にはなりません」 「でも私、ブラジャーなんて持っていませんよ?」 「え?入ってますよ、先輩の鞄の中に。柳生先輩、大胆な下着を好まれるんですね。意外です」 「何ですって!!――えっ、本当に入ってる!」 「白……いや、淡いピンクでしょうか。布地の面積が比較的少なく、紐やフリルも扇情的で、いかにも男性が好みそうな……」 「――仁王くんの仕業です!!学園祭で履いた、仁王くんが下さった紐パ……!」 「ああ、あの衆目に晒された」 「仁王くんにお返ししたのに、何故こんなところに!こんな破廉恥なモノを押し付けるだなんて、どうかしてます!!」 「私は使用済みの下着を男性に渡す方がどうかしてると思いますが」 「綺麗に洗ってお返ししましたよ!?――あら?でもこんな所に染みがありますね。はて、どこで付いたのでしょう」 「……柳生先輩って、天然ですよね」 「――という訳で、柳生先輩に女子テニス部員として参加して頂きます」 二人はデッキを出、客席にいた他の女子テニス部員に事の次第を話した。 「本当ですか!嬉しいです!!」 「ウソ……憧れの柳生先輩と一泊二日の旅行……!!」 部員たちは諸手を挙げて喜び、中には感激のあまり涙ぐむ部員もいた。 「しかし本当に宜しいのですか?男子と寝所を共にするなどと……」 恐る恐る問う柳生に、部員たちはからからと笑った。 「構いません!柳生先輩、あんまり男子って感じしないし」 「汗臭いどころか、いい香りするしねー」 「紳士だし安心。逆に私たちが喰っちゃうぞ、みたいな!」 「えっ」 その言葉に柳生は顔を青くして後退り、その隣で原が全く貴女たちは、と呆れた声で言った。 「こら、先輩をからかうんじゃないの!――すみません、柳生先輩。冗談ですから」 「は、はあ」 ――冗談、ですか……嗚呼、私、若い娘さんたちに馴染む事が出来るでしょうか。先が思いやられます。 事の大きさに、改めて嘆息する柳生であった。 「柳生先輩、お似合いです……!」 「学園祭の時は遠くからしか見れなかったけど、近くで見ても完全に女の子ですね!」 四天宝寺に着いた立海テニス部は、テニスウェアに着替えコートに出てきた柳生を見て、キャーキャーと色めき立った。彼女らが興奮するのも無理はない、眼鏡を外し前髪を可愛らしいピンで留め、薄く色付きリップを塗ったその姿は可憐な少女そのもので、とても男性には見えなかった。 「線は細いし、脚もスラっとしていて綺麗……!そしてその胸、どうなっているんですか?ヤケにリアルですけど」 そう言って部員の一人が柳生の胸に手を伸ばした。 「これは、その……アレです、アレ!」 柳生は咄嗟に胸を庇い、身を引く。 「アレ?」 尚も追及の手を緩めようとしない部員たちに、柳生は慌てて言った。 「その――ワカメです、ワカメ!」 「ワカメ?」 「そうです、ワカメ……」 「――柳生先輩。いくらなんでもその言い訳は苦しいと思いますが」 「!」 後ろから近付いてきた原に耳元で囁かれ、柳生は顔を赤く染め仰け反った。 「原さん!」 「……何故そんなに驚くんですか」 「だって、顔近い……」 「私たち同性ですよ、柳生先輩」 苦笑する原に、柳生は申し訳ない、と頭を下げた。 ――そうなんですけど、ね。 自分が女だということは認識していたが、しかし、今まで身も心も男のつもりで生きてきた柳生である。それが身体の変化や仁王の存在により、最近になって自分の性を少しずつ受け入れられるようになったばかりで、男としての反応をしてしまうのは仕方のない話である。 「そのウブさ、あの娘たちにオモチャにされないか心配です。まあ、させませんが」 「……御手数お掛けします……」 「いえ。無茶をお願いしたのは私ですし、それに柳生先輩に何かあったら、仁王先輩に何されるか判りませんから」 ――仁王くん? 思いがけないその名前に柳生は目を丸くした。 「幸村君じゃなくて、仁王くん?」 「……貴女の中で幸村先輩はどんな立ち位置なんですか。確かにイップスは恐ろしいですが」 原はふう、と溜め息をついた。 「電話口で柳生を助けてくれ、と真剣な口調で頼まれました。あのエゴの塊のような詐欺師が、他人の為に頭を下げるだなんて。仁王先輩、柳生先輩の事が本当に大好きなんですね――そして、」 表情を崩した柳生に、原は穏やかに微笑んだ。 「柳生先輩も、仁王先輩が大好きなんですね」 「なあ、小春。早よう部室に行ってネタ合わせしようや、ってそないな所に隠れて何見てんねん。……あん?テニスコート!?女子など見おって、浮気か死なす――」 「煩いわよユウくん。しっ!」 そんな彼女らを離れた木陰から見つめる影が二つ。 「あの娘、何で女子部におるんや……」 |