一回目はからかってやろうち思ってチューしました。

でも二回目は――

「う、うわああああああ!!」
「ちょ!仁王!?」
「え、あ、……すまん」

しっかりしろぃ、と丸井に頭を小突かれた。そうじゃった、朝練中だったのう。つい回想にのめり込んでしもうた。

「今日のお前、オカシイぜぃ?拾い食いでもしたのかよ」
「お前さんと一緒にするなし」
「しねェよ多分!!」
「……否定せんのか」

昨日。俺と柳生は気まずい雰囲気のまま別れた。うん、実に気まずかった。何せあの柳生が俺の行動に対し何も突っ込まずに帰ったんだから。飽く無き探究心の持ち主と言えば聞こえは良いが、行き過ぎて傍迷惑というか、兎にも角にも判らないことは徹底的に調べるし尋ねる、それが柳生比呂士という男なんじゃが。読めない空気を読ませてしまった――お陰で助かったんだがのう。

だって、答えを求められてもよう判らんの。どうして、俺は、柳生に。

「仁王」

そう言えば今日の放課後、テニスする約束しとった。どうしよう、どんな面して会えばいいんじゃ……

「正気に戻れ阿呆」

瞬間、頭にドコ!と鈍い衝撃が走った。

「何晒すんじゃ、ブン太!!……って、え、柳……?」
「丸井なら既に部室に行ったぞ。何をぼんやりしている、らしくないな」

顔を上げるとそこにはブン太でなく、部誌を片手に呆れた顔をした柳が立っていた。

「……何でもなか」
「柳生」
「!」

その名前に思わず反応してしもうた。クソ。ニヤニヤしやがって、柳のヤツ。

「何じゃ?柳生がどうかしたぜよ」
「伝言だ。用事が出来たから放課後の約束はキャンセルさせて欲しい、と」

……ですよね――!!

「……ドンマイ?」
「煩いぜよ!!」

柳は哀み――否!笑いをこらえている顔ぜよコレは!!そんな表情で俺の肩に手を置くものだから、俺はムカついてヤツの手を払い退けた。あーそうでしょうとも、可愛い柳生が詐欺師の手に落ちずに済んで嬉しいでしょうよ、小姑め!!

柳生。約束を反故にするとは何とあからさまな。でも責めはせんよ、俺が悪いんだもん。訳も判らずチューされて、さぞかし苦悩していることだろう。ごめん、ごめんね柳生さん……もう一緒にテニスしてくれないんじゃろうか。

好意を持たれていたというのに、自分で距離作ってマジ何やってんの。俺って、詐欺師って何!!どうして上手く立ち回れんの。俺が俺でなくなってしまった。気が触れてしまった!かくなる上は……

「何処へ行く仁王!?」
「屋上じゃ!もうお終いじゃ、俺は飛び降りて死ぬ!!」
「阿呆!!……赤也、仁王を捕獲しろ!」
「イエッサー!!」

校舎へと走り出した俺は、何処からか現れた赤也に背中から飛びつかれ地面に倒れ込んだ。

「柳先輩、これでいいっスか?」
「ああ。有難う、赤也」
「クソッ、この悪魔使いめ!!」

俺は赤也の下から這い出そうと藻掻いたが、更に柳が背中に乗っかった。

「ばか!重い!潰れるナリ!!」
「ばかはお前だ。冷静になれ、仁王」

柳のいやに落ち着いた声が更に俺の心を掻き乱す。――嗚呼、全く!!

「冷静!?そりゃお前さんは冷静でいられるじゃろうなあ!!オトモダチの柳生さんは目出度く不良と縁が切れました!嬉しくてたまらんじゃろ、ああ!?」
「……俺はお前の友人でもあるのだが」

そして柳はくすりと笑った。

「柳生に対する思い、この柳しかと受け取った」
「参謀に受け取れられても……」
「お前のはつ恋、心から応援するぞ」

――恋?




   



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