(……居心地、悪いのう)

建物からぽつ、ぽつ、と様々な制服に身を包んだ生徒たちが出てきた。誰も彼も俺を見ては驚き、男共は目を逸らすし女共はヒソヒソとお互いに耳打ちする。やはりこの場に銀色の髪はそぐわないらしい。

(マジでロミジュリなのな、俺と柳生)

有名予備校の看板を見上げ、俺は苦笑した。

(早く姿を見せて、ジュリエット!)

でもあの質問魔の事だ、出てくるのは一番最後じゃろうけど……

「仁王くん!!」
「!」

学生たちの群れを潜り、見慣れた色素の薄い頭がひょっと顔を出した――意外と早かったのう。

「こんばんは、仁王くん」

柳生は息を切らしながら爽やかに微笑んだ。

「やっぱり貴方だったのですね。窓の外に目を向けましたら、門の前に美しいプラチナブロンドが見えたものですから驚きました」

う、うつく……

「……やーぎゅ。男に美しいとか、そういう表現はどうかと。鳥肌立ったぜよ」
「そうですか?私は美しいものを美しいと言ったまでですが」

おかしいですか?と奴は首を傾げた。嗚呼、やっぱり何処か感覚がズレているぜよ、このお坊ちゃまは。俺はガックリと肩を落とした。

「第一お前さん、俺に散々髪の色を元に戻せ元に戻せって言ってたじゃろ。気に食わんかったんじゃないのか」

すると柳生は頬をうっすらと染め、お恥ずかしい、と呟いた。

「風紀委員の役目、というのもありますが……多分、それも嫉妬が混じっているんです」

そう言うと、柳生は俺の束ねた髪に手を伸ばした(!)

「や、やぎゅ……」
「私、髪も目もこんな色でしょう?小さい頃から外人だと虐められたり、教師からも疑いの目で見られたり嫌な思いをしてきたんです。ですから」

柳生は悲しげに目を伏せた。

「私が望んでも手に入らなかった黒い髪に生まれてきたのに、それをわざわざ変える貴方たちが許せなかったんです。私情を挟んで申し訳ない」
「やーぎゅ……」
「貴方に髪を元の色に戻せと言いましたけれど、でもそんなの貴方じゃないって心の底では思っているんです。矛盾してますけど」

そして柳生は俺の髪から手を離しふわりと優しく微笑んだ。

「貴方にそのプラチナの髪は良く似合っています。とても綺麗だ」

――…!

「やーぎゅ!!」
「は、はい!」

いきなり両肩を掴んだ俺に、柳生は驚き慌てて返事をした。

「あのな、綺麗なのは柳生さんの方じゃ!」
「は……」
「髪サラッサラで瞳も綺麗な琥珀色じゃあ。だから皆揶揄したんじゃ!ほら、可愛い子ほど虐めたいって心理ぜよ!!」

俺の言葉に柳生は一瞬言葉を失い目を見開いた。そしてクスクスと笑い始めた。

「仁王くん。貴方、男に美しいという言葉は使わないと今さっき仰ったばかりではありませんか?」
「あ……」
「有難うございます。仁王くんは、お優しい方ですね」

お優しい……

「それ、本心かのう?」
「――どういう意味ですか」

俺らの間を風がさあっと通り抜けた。生徒たちは方々に散り、門の前にはもう二人しかいない。柳生は只ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、真顔になり息を呑んだ。

「……仁王くん。皆、帰ってしまいました。どなたかに用事があったのではありませんか?」
「この状況でそれを聞くのか。俺が誰に用があるのか、もう判っとるじゃろうに」

(表情を変えおった。やはり、柳生は脅されていたから俺に付き合って)

「お前さんを待っとったんじゃ、柳生。ついてきんしゃい」

そして俺は奴に背を向け足を踏み出した。多分俺、今凄く酷い顔をしているに違いない。





(泣きそう、とか……俺はいつの間に奴にこんなに傾倒していたのかのう)




   



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