「赤也。お前さんが一番最後かのう?」
「あ、仁王先輩。お疲れっス!今日は先輩が鍵当番っスか?」
「おん」
「俺が最後っスよ。部室にはもう誰も残ってないっス」
「ありがとさん。じゃあ鍵閉めてくるかのう」

放課後。練習を終え帰る赤也に手を振り、俺は部室へと向かった。ふとテニスコートに目をやると、ライトが未だ付いている。

(やれやれ。赤也じゃろうか――消し忘れおって)

俺は溜め息をひとつつきテニスコートに近づいた。

(……ん?)

誰かいる。部員が残って練習している訳ではなさそうだ――その人物は制服に身を包み、金網越しにテニスコートを見つめていた。入部希望者かのう。何にせよ今日の部活は終わったし、空も暗くなってきた。相手するのも面倒臭い関わりたくない、さっさとお帰り頂くナリ。

「おい、そこの。何見とるぜよ――…」

するとその人物はビクリと肩を震わせこちらを振り向いた。

「!? お前さん……」

トレードマークの眼鏡を外しているものの、それはあの柳生比呂士に間違いなかった。しかしいつもの背筋を伸ばし凛としている彼の面影はなく、

(なんじゃあ、コレ。えらいドキドキする――)

無防備な泣き顔を晒していた。

「仁王、君――」

誰もいないと思っていたのだろう、奴は驚きに目を見開き、そして

「――ごめんなさい!!」

そう言って俺の側をすり抜け、そのまま走り去ろうとした。

――……あ、えと、

「まっ、待ちんしゃい!」

俺は慌てて手を伸ばし、柳生の腕を掴んだ。

「離して!離して下さい!!」

柳生は俺の腕を振り払おうと必死でもがいた。

って、何で引き留めてんの、俺。

「何なんですか貴方!私の弱みでも握るおつもりですか!?」

弱み……?

「……そっか、弱みか。いつも澄まし顔のお前さんの弱みが握れるち思ってドキドキしとるんじゃな、ウンウン」
「は?」
「話してみんしゃい、泣いとったワケ」

すると柳生は馬鹿ですか、と嘲笑った。

「弱みを握ると言われて大人しく話すとお思いですか」
「話さないと此処で泣いとった事、皆にバラすぜよ?」
「どうぞご自由に。私と仲の悪い貴方の言う事など誰が信用しましょうか」

ふむ、敵はなかなか手強い。知ってたけど。俺は柳生の片腕を掴んだまま、ヤツの顔をじっと見た。瞳は真っ赤だし目の端に涙を溜めたままじゃけど(ちうか瞳も色素薄いのな。髪とおんなじ色じゃあ)、表情はいつも通り、気丈な柳生比呂士ナリ。

――……

「何をジロジロと……んんっ!?」

ヤツは再び目を見開いた。うん、目をお互い開けたままのチューは流石に照れるから閉じてくれんかの。

俺は開いている方の手でポケットから携帯電話を取り出し、カメラのボタンを押した。柳生はそのシャッター音で己を取り戻し、俺の身体を突き飛ばすと口唇をゴシゴシと乱暴に拭いた。

「傷つくのう」
「傷付いたのは私ですよ!」

柳生は目を剥いて言った。

「もしかしてファーストキスだったの?柳生さん」
「――ひ、秘密です……」
「そ。じゃあ記念に写メ送るからメルアド教えて?」

そう言って携帯の画面を見せると、ヤツは見る見る青くなり俺の手から携帯を奪った。

「意外と綺麗に写ってるじゃろ?」
「黙りたまえ!!消しますからね――」
「イイけど、もうパソコンに送ったから携帯弄っても無駄ナリよ」

そしてこの世の終わりのような顔をした柳生に俺はニヤリと笑って言った。

「この写真――バラ巻かれたくなかったら、素直に理由を話しんしゃい」

柳生は言葉を詰まらせ俺を一睨みすると最低です、と溜め息をついた。

「――私、小学校までテニススクールに通っていたんです」
「ほう……」
「大好きでした。中学でもテニスを続けたいと思っていたんです。特に立海大付属と言えば全国に名の知れた名門校ですし」

でも、と柳生は目を伏せた。

「しかし両親に反対されました……勉学に支障が出ると」
「ふーん」

柳生の成績や性格からすると、両立出来そうじゃけどな。頭のイイご家庭の考えることはよう判らん。

「――ねぇ、俺たちが羨ましかった?」
「ええ。自由にテニスの出来る貴方たちが、とても」
「そっか」
「……もしかして、態度に出てました?」
「少しな」
「そうですか」

柳生はお恥ずかしい、と苦笑した。

「まだまだ未熟者ですね。私情で不快な思いをさせてしまってすみません」
「いや、そういう人間らしいの、イイと思うぜよ」

思ったより素直なヤツじゃな、柳生比呂士。うん。

「じゃ、こっち来てもらえるかの」
「は?」

俺は柳生の手を引いて歩き始めた。引き摺られ転びそうになり、ヤツは慌てて足を踏み出した。

「仁王君、何処へ……」
「部室」
「えっ」
「俺のテニスウェア貸すぜよ。ラケットも部の備品が幾つかあるから好きなの使いんしゃい」

そして驚く柳生に(意外と表情豊かなヤツじゃ、知らんかった)、俺はニヤリと笑った。

「やるぜよ、テニス」









って、かるーく遊んでやる程度に考えていたんだがのう――

なにそのバッシングショット。聞いてないぜよ!!




   



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