「柳生さん!一生のお願いじゃ!!スコート穿いてくんしゃい!」
「嫌です!皆の前で女装などいい恥曝しです」
「今日一日女装してたじゃろ?」
「それとこれとは別です!柳生比呂士として女装するのは不本意だと言っているんです」
「そこを何とか!柳生のスコート姿が見たいんじゃ!!」
「断固拒否します!!第一、貴方前衛ですよね?見れないでしょう!?」
「判った。俺も女装する。それならええじゃろ?」
「仕方ないですね……ってええっ!?」











メインホールではテニスのエキシビジョンマッチが開催されていた。学園祭のフィナーレを飾るメインイベントであり、又非公式とはいえ全国屈指の強豪校同士の試合が見られるとあって、会場は多くのテニス部員と観客の熱気に溢れていた。

『と、いうワケで!実況・解説は、ここ放送席からみんなのアイドル菊丸英二と!!』
『貴女の忍足侑士でお送りしてます。で、ゲストにこの男や』
『跡部景吾だ。俺様の美声に酔いな!』
『はいはい。じゃ、軽く説明するで。各校シングルス三名・ダブルス二組出場するんやけど、学校別対抗戦やなくて一人もしくは一組一試合ずつで、組み合わせはランダムや。つまり同校同士対戦する場合もあるっちゅーことや』
『折角だから他の学校と対戦したかったにゃ〜!俺ら不二とタカさんだったもん』
『ええやろ。俺と岳人のペアに当たってたら負けてたし自分ら』
『にゃにを〜〜!!』
『何分仰山居るんでワンセットマッチや。不完全燃焼かも知らへんけど堪忍な。あくまで学園祭の見せ物やさかい』

さてと、と忍足は机上の原稿を手に取った。

『お。次は我が氷帝学園の最強ダブルスペア、宍戸亮と鳳長太郎の出番やで。対するペアは――ほう、これはおもろいで。公式戦、ダブルスとしては未だ負け知らずのあのペアや』
『あ!もしかして――』
『コート上の詐欺師こと立海大付属の仁王雅治と、ジェントルマン・柳生比呂士。今大会屈指の好カードやな』
『そうだねえ〜あの二人、仲直りしてるといいけどっ』
『!? 菊丸、お前知って――』

ギョッとする二人に菊丸はうん。と頷いた。

『さっき氷帝の女子制服着たやぎゅ……』
『待て!それ以上話すな!!』
『ふぐ!?』









「あ奴らは何を戯れて居るのだ。真面目に実況せんか、たるんどる!!」
「そう言うな、真田。学園祭なんだからそう畏まることもないだろう」
「……時に幸村。出場しなくて良かったのか?」
「うん、今日は一般人が多いし、それに楽しいお祭りだからね。俺のイップスの所為でテニスにトラウマ作られたら困るし」
「そ、そうか……」

立海大附属中テニス部は仁王・柳生ペアを除くと全員が試合を終えており、観覧席で試合の様子を見守っていた。

「今のところ立海勢全勝っスね!でも仁王先輩、公式戦じゃないからってナンカ手ェ抜きそう。ね、柳先輩!」
「心配するな、赤也。大丈夫だ。奴も常勝立海の一員としての自覚はあるだろうし、比呂士もついているからな」
「そうっスね。今日も仁王先輩を上手いこと店の近くまで連れてきてくれたし。あれは助かったッス!」

さらっと言って退けた赤也に柳はほう、と感嘆の声を上げた。

「気づいていたか」
「もちろん。だって仁王先輩、終始鼻の下伸ばしっぱなしだったじゃないッスか。柳生先輩以外あの人にあんな顔をさせられる人はいないっしょ」
「……? 何の話をしているのだお前達」

真田が柳と赤也の会話に首を捻る。その瞬間会場がどっと沸いた。何事だ、とテニスコートを見た真田の目に入ったものは。

「比呂士のあの姿を見たくて仁王が嵌めた確率120%」
「ちょ!柳先輩!!仁王先輩、やる気が完全に違う方向に行っちゃってるじゃないッスか!」
「ククッ……やりやがったぜぃあのばか!」
「ブン太、これ、笑い事じゃないぜ……」

ジャッカルは恐る恐る後ろを振り向いた。そこには血管がはち切れんばかりに拳を握り締め、ワナワナと震える真田がいた。そしてそんな立海ベンチの空気を読まないお気楽な放送が会場内に流れた。

『鳳・宍戸ペアと仁王・柳生ペアが入場してきたよん!』
『仁王……流石やな。期待を裏切らないエンターティナーや』
『ホント、すっかり騙されちゃったよっ。仁王があの娘を柳生って呼ぶまで気がつかなかったにゃ』
『……おい、お前ら。個人的な感想言ってねェでちゃんと状況を説明しやがれ。実況・解説なんだろうが』
『ほいほーい!!――みんな、ビックリなニュースだよんっ!ミス学園祭にエントリーしてれば一位確実だったんじゃないかと言われていた噂のお嬢様、跡部の従姉妹こと「跡部ヒロ」は実は立海・柳生比呂士の女装だったのにゃ!!てゆーか何?跡部もペテンに加担してたってこと?』
『ああ。確かに柳生にあの格好をさせたのは俺様だ。学園祭を盛り上げるビックな話題をお前らに提供してやろうと思ってな。しかし仁王のアレは俺様じゃねェ』
『そうやな……違和感無いのがホンマ恐ろしいわ』

「た、た、たるんど……」
「王者立海の威厳を粉々にするとはイイ度胸してるじゃないか仁王……」
「!?」

幸村の呟きに真田は言葉を止め、全員が一斉に彼を見た。幸村の悪意など感じさせない真白な笑みに、

(アデュー、仁王……)

全員が心の中で仁王に別れを告げた。




   



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