「……スゲーもん見ちまったぜ」
「!?」

仁王が柳生を連れ去った後、扉の向こうから誰かの呟きが聞こえた。跡部が扉に手を掛けるとそこには向日が立っていた。

「テメェ、何でこんな所に……」
「仁王がお前に用事があるって言うんで連れてきたんだよ。ウチの校舎、入り組んでて判りずれェし。つーか最初は侑士が案内する筈だったんだけど」
「アイツめっちゃ速い……ちゅーか信じられへんくらい跳ぶで?階段何段跳びするんやっちゅー……」

やっと追いついたで、と息をゼェゼェ切らしながら忍足も現れた。

「今日の対戦、仁王のペアと当たりますように!どっちが高く跳ぶか勝負だぜ!!」
「……がっくん、今からするのはテニスの試合やで」
「跡部の仇もとってやるからな!」

仇、という言葉に跡部の動きが止まる。

「仇って何のことや?」
「ああ。跡部が従姉妹とイイ雰囲気になっていたところに仁王が乱入して連れ去ったんだぜ!何コレ跡部もしかしてフラれたの?」
「――向日、あのな……」
「違うで岳人。跡部はあの二人をくっ付ける為に一芝居打ったんや」
「そーなの?」

からかうネタが出来たと思ったのにツマンネーの!と向日は言った。

「それとも本気だった?景ちゃん」
「……馬鹿言ってんじゃねーよ」

フン!と跡部は一笑し、生徒会室を後にした。

「行くぞお前ら――学園祭最後のメインイベント、成功させるぞ」












「仁王くん、どこに……」

仁王は無言のまま柳生の手を引いて廊下を進み、空き教室を見つけると彼女をその中に押し込んだ。そしてそのまま床に押し倒し、スカートを捲り下着に手をかけた。

「ちょ!いきなり何するんですか貴方!!」

柳生は慌てて足を閉じた。

「煩い!孕ますくらいの事をせんと又フラフラと他の男のところに行くじゃろお前さんは!!」
「な!?」
「とっとと俺のモノになって貰わんと安心できんのじゃ――大人しく俺に犯られんしゃい!!」

仁王は柳生の閉じられた両膝に手をかけ抉じ開けようとしたが、柳生も開かせまいと必死で逆らった。

「往生際が悪いぜよやーぎゅ!観念して御開帳せえ!!」
「御開……ばか!こんなところで処女奪われて堪りますか!!」
「処女ち言うても修学旅行の時に俺に入り口弄られとるじゃろ!ある意味もう開通――」
「ああああ!考えないようにしていたことを!!てか何ですか!?貴方、人が気を失っている間にどこまで……」
「じゃあ先っぽだけで許してやるぜよ!」
「先っ…ぽ……もダメです!!」

仁王と柳生は暫し攻防を続けていたが、柳生の抵抗があまりにも激しく、仁王は肩を落とし先に折れた。

「ちうか色気も何もあったもんじゃないのう、やーぎゅ……」
「お互い様でしょ」
「はぁ。仕方ないのう……」
「――仁王くん!?」

仁王は柳生の首筋に顔を埋め、甘噛みした後強く吸った。

「痛っ!……仁王くん、一体何を?」
「キスマークじゃ。コレで許してやるきに」

俺の所有印じゃ、と仁王はニヤリと笑った。柳生はむぅ、と頬を膨らますと仁王の襟首を捕まえ鎖骨の下を思いっきり噛んだ。

「いったーっ!何するんじゃ!!」
「キスマークです」
「違う、違うの柳生さん……」

顔を覆いさめざめと泣くふりをする仁王に柳生は溜め息をついた。

「いい加減にして下さい……思わせぶりなことばかりして、本当に酷い人」
「思わせぶり?」

柳生の言葉に仁王は首を傾げる。

「どうして?いつも言ってるでショ。俺は柳生が一番好きじゃ」
「なっ……」

仁王は何でもない事のようにあっさりと言って退け、柳生は絶句した。

「それは親友としての、でしょう?」
「――悪いけど、俺、柳生のこと親友だと思ったことはなかよ」
「え!?」

途端、柳生の顔から血の気が失せ、涙をぼろぼろ零したかと思うと己の身体に馬乗りになっていた仁王をぼこぼこ殴り始めた。

「最低!じゃあ貴方の好きって何なんですか!!博愛精神ですかああもうこれだからイケメンは!!」
「痛っ!落ち着きんしゃい柳生!!ホンに面倒臭いヤツじゃのう……カワイイけど」

仁王は暴れる柳生の両腕を拘束すると、その口唇に己の口唇を押し当てた。

「にお……」
「……俺、柳生にしかこんな事したことないし、これからもその予定だから」

そしてはぁーっと長い溜め息を付くと、柳生の額を指で弾いた。

「どーしてそうネガティブな方向に考えるぜよ!って俺も人の事言えないけど!!――初恋なんじゃ、感情の加減が判らなくてスマンかったな」
「!!」
「確かに地味だなち思うし好みから外れる……そんな目で睨みなさんな、話を最後まで聞いてくんしゃい……でもな、確かに俺はお前さんに恋してる。初めて逢った時からどうやったら俺に笑ってくれるかなとか、俺のことを好きになってくれるかなとか思ってた」
「……」
「なあ柳生、俺を愛してくれんかの」

仁王は汗ばむ手で柳生の両手を掴むと、すーはーすーはーと深呼吸を繰り返した後、頬を赤く染め曰った。

「柳生さん。俺と付き合ってください」
「……!」

柳生は目を見開いたまま暫し息を止め、そして言った。

「何かイメージ違うんですよね……」
「――は?」
「塵と埃だらけの床に押し倒され、貴方は私に馬乗り。二人とも汗塗れで決して綺麗な告白シーンじゃありませんよね……しかも貴方、目、泳ぎまくりですよ」
「や、やーぎゅ……」

柳生の言葉に仁王は半ば泣きそうな顔になる。柳生はそれをクスっと笑い、仁王の身体を引き寄せその背に腕を回した。

「――判ってますよ、貴方が真実を仰る時は目を合わすことが出来ないくらい」
「……」
「最高です。幸せな告白を有難うございます」
「!!」

仁王は驚いて柳生の顔を見た。柳生は仁王の頬を撫で、にっこりと微笑んだ。

「不束者ですが、宜しくお願いしますね」
「柳生……!」

仁王はズ、と洟を啜ると柳生に夢中で口付けた。貪るような激しいキスに柳生は必死で応えた。舌をねっとり絡ませ、くちゃくちゃと卑猥な水音と二人の荒い吐息が教室に響いた。

「……開きませんよ」
「あ、そう……」

柳生は自分の内股を這う仁王の手をぴしゃりと叩いた。




   



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