「やっぱり柳生さんだったんですね。僕らの事をよく御存知で、仁王さんと仲睦まじく歩いていましたから、もしかしてと思っていました」

鳳は爽やかな笑顔で右手を差し出し、知ってたのかよ長太郎!と宍戸は悔しそうに言った。

「くっそ、又してもペテン師コンビに詐欺られた!!で、女装したまま試合して精神的に揺さぶりをかける気かよ?卑怯だぜ!」
「そうですよペテンですよ詐欺ですよ卑怯ですよ」
「投げやりだのう、やーぎゅ」

宍戸の言葉に膨れた柳生を仁王は可愛いナリ、と笑い更に柳生の怒りを買った。

柳生はコンタクトとウィッグを装着したまま、立海大付属中女子テニス部のテニスウェア――つまり仁王の必死のリクエストに折れ、袖なしのタンクトップにスコートを穿き、二の腕と生足を晒していた。

「なんでそんなに機嫌が悪いの?やーぎゅ。彼氏が彼女の可愛い格好を見たいち思うの、良くないこと?」

仁王は柳生の顔を覗き込んで尋ねる。柳生は仁王の彼女、という言葉にポッと頬を染めた。

「可愛い反応するのう柳生さん。俺、萌え死にするかも」
「……そ、そりゃ貴方に可愛いって言われたいですし思われたいです」
「柳生!俺マジで幸せ過ぎて死にそうなんじゃけど!!」
「でも!!」

感極まって柳生の両手を握り締めてきた仁王に、彼女は涙目で言った。

「彼氏の方が綺麗だなんて、私どうすれば……!」
「ピヨ」

流石に上着は自前の立海ジャージであるし、下にストッキングとスパッツを装備してはいるものの、仁王もスコートを穿いていた。柳生と違って正真正銘男の女装なのだが、女性特有の色香が漂いとても男には見えない。

「……お姉さんに、似ていますね」
「おん。姉貴をイメージして顔や仕草を作って、その上にオーラ乗せとるからのう」
「オ、オーラ?」
「イリュージョンの応用ぜよ」
「成程、イリュージョンですか……って、さっぱり理解出来ません!」
「プリッ」

ペロッと舌を出す仁王に柳生ははぁ、と溜息をついた。

「問題はもう一つあります。此方の方がより深刻なのですが……宍戸・鳳ペアと言えば、不完全だったとはいえ中学で唯一シンクロできる大石・菊丸ペアを下した猛者です。対して我々は慣れないスコートとウィッグ。動きにかなり制限が出てくるでしょう。ハンデはパワーリストの比ではありませんよ」
「じゃあそのウィッグ取ればいいじゃろ。もしくはおさげとか、ツインテールで纏めるとか」
「……」

柳生は答えず、無言で仁王を恨めしそうに見た。仁王はホント可愛いのう、と目を細めて笑った。

「キスマーク、気にしちょるんか?」
「……はい」
「そのたゆんたゆん揺れるおっぱいも邪魔そうじゃのう」
「!! セ、セクハラです……!」

うっ、うっと目に涙を貯め泣き始めた柳生を仁王はスマンスマンと頭を撫で、甘い声で囁いた。

「じゃが、女装も不利な事ばっかじゃなかよ」
「え?」

首を捻る柳生に、仁王はニヤリと笑った。









試合が始まり、柳生たちはサーブ権を先取した。

「ラッキーじゃな、やーぎゅ」
「ええ。鳳君のネオスカットサーブは手強いですからね。正確さも増してるようですし、サーブ権を渡せば最後、サービスゲームをキープされかねません」
「おん」

柳生がサーブを打つと、宍戸がそれを打ち返しラリーが始まった。

「ククッ……」

仁王が不敵に笑う。

「あ、ボールが!」

宍戸の打ち返したボールが軌道の外に逸れる。見れば、竜巻にも似た空気の渦が、仁王の周りにあるもの全て外に弾き出すようにコートを取り巻いている。

「クソッ!手塚ファントムでアウトにする気か!!」
「フフ……狙いはそれじゃなか」
「え?」

驚く宍戸に仁王は曰った。

「俺の狙っていたのは、柳生のパンチラぜよ!!」
「は!?」
「仁王くん何を……って、いやあああああ!!」

突風に煽られ、柳生のスコートがあっさりめくれ上がった。

『手塚ファントムはパンチラに使うものでは無い……』
『何それ手塚の真似?似てる似てる!!』
『パンチラどころか丸見えやろアレ。でもな、観覧席や放送席からは見えへんかったから安心しいや、嬢ちゃん』
『俺見えたよん!白い紐……』

「そこまで解説しなくて結構です菊丸君!!」

柳生は顔を真っ赤にして叫んだ。

「仁王くんも!試合中ですよ、前を向きたまえ!!」

仁王はネットに背を向け、身体は完全に柳生の方を向いていた。

「試合?終わったぜよ」
「……はい?」

柳生は仁王の後方を覗く。するとそこには、

「し、宍戸君!!」

顔を真っ赤にして倒れている宍戸がいた。

「真正面にいたからのう、丸見えだったんじゃろ。硬派クンには刺激が強かったようじゃ、柳生の紐パ……」
「黙りたまえ!!」

柳生は半泣きになりながら宍戸の元に駆け寄った。

(跡部の物を身につけるのは許せんのじゃ!と押されるがまま仁王くんが差し出した下着を身につけましたが、こういう魂胆だったのですね……!と言いますか、何処で手に入れたんですかコレそして何故今日所持していたのですか!!)

「鳳君!宍戸君の様子は……」
「駄目です。すっかりのぼせてしまって意識が戻りません」
「だから言ったじゃろ、試合終了だと」

ネットの向こうで仁王がクククと嘲笑った。

「俺らのK.O.勝ちじゃ。のう、やーぎゅ……」
「――この、お馬鹿さんが!!」

柳生はネットを乗り越え、その勢いのまま仁王の顔を拳で殴り付けた。









「上手くいったみたいじゃん、あのバカップル」
「ああ。まあ当然だろう」

丸井と柳は顔を見合わせるとニヤリと笑った。

「手間かけさせやがって」
「全くだ」

そして二人は幸村の顔をじっと見た。

「仕方がないねえ、一応試合に勝ちはしたし」

幸村は溜息をつく。

「仁王もずっと片想いしていた相手と漸く結ばれて浮かれてるんだろうしね。今日の事は多めに見てあげるよ」
「……有難う、精市」
「よし!じゃあ早速あの二人を祝ってやろうぜぃ!!」

残りの材料でとびきり美味しいケーキを作るぜぃ!!とはしゃぐ丸井と、とうとうあの二人が!?俺のいない間に何があったんスか!!と丸井にくっ付く赤也を先頭に、立海レギュラー陣はぞろぞろと観客席を後にした。その後姿にジャッカルがボソッと呟いた。

「ところでお前ら……真田が泡を吹いて倒れているんだが。無視か?無視なのか?」











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