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ペテンの鱗を絵空事にしないで 09


「安室さん、山崎さんに何かしたの?」


チラリと時計を見ただけで眼鏡をキラリと光らせながら聞いてくるコナン君に、上げていた視線を下へと落とす。今日は蘭さんたちと来たはずなのに、女子高生三人の白熱ぶりにカウンターへ逃げるように移動してきたのはつい先程のこと。
手に持つオレンジジュースに似つかわしくない鋭い眼光を向けてくるコナン君は、いつも以上に僕を探っているようだ。


「どうしてそう思うんだい?」


降谷と山崎の関係がバレるはずはない。
仕事が忙しくなると言って来る頻度を減らしはしたが、この店での僕の態度も山崎の態度もこれと言って変化はないはず。
あるとするならば、僕が居ない時の山崎の態度の変化、と言ったところなのだが・・・そればかりは僕に確認するすべはない。


「だって山崎さん、早い時間に仕事終わってるみたいだよ?たまに見かけるもん」
「ほー。そうだったんですね。時間があるのにいらっしゃらないというのは…寂しいですね」


残念ながら僕にはいらっしゃらない理由はわかりかねますね、なんて寂しげな表情を浮かべて言ってみたが、果たしてこの小さな名探偵に通用しただろうか。

山崎が来ない理由なんて、俺を避けている以外にないだろうな。
なぜ急にその判断になったのかは分からないが、山崎の安全面を考えたのなら徐々に離れてくれたほうがいい。

タイミング良く来た客の対応に向かう僕の背中に彼の視線が突き刺さっているが、いつもの様に気付かないふりをし続けた。
心の隅に生まれた落ち着かない不快感にも、そっと目を背けて。



「・・・今日も山崎さんいらっしゃいませんでしたね・・」


閉店の作業をしている最中に梓さんの口からボソッと呟かれた一言に一瞬心がざわつく。それでも何事もなかった事にして話しを合わせ、金曜日なのに残念だと眉を下げてみせた。


「仕事がお忙しいようですからね。身体を壊さなければいいですが」


前回山崎が来たときには僕はいなかったが、元気そうだったと笑顔で報告をしてくれたのは梓さんだ。
きっとまた彼女の体を気にしているのだろうと思ったがどうやら違ったようで、少し考えるようなしぐさを見せてから躊躇いがちに口を開いた。


「私さっきフルーツを買い足しに行ったとき、スーパーでお見掛けしたんですよね。あの時間ならいつもは顔を出して下さるのに・・・」
「おや、そうだったんですね。たまに早く終わられたのならお家でゆっくりしたかったのでは?」


コナン君に続き、梓さんも彼女を早い時間に見掛けたとなれば、やはり意図的にココを避けているとしか思えない。もしかしたら仕事が忙しいというのも訪れる頻度を落とす口実だった可能性すらある。

そこまでして俺から離れたかったのだろか。
また表しようのない不快な感情が湧き上がりそうになるが、唾と一緒にごくりと呑み込んだ。
それは同級生が離れる寂しさなのか、それとも…


「もしかして山崎さん恋人とか出来たんですかね!帰って手作り料理とかしてるのかも!」


一人楽しそうに妄想を始める梓さんに安室として「なるほど」なんて相槌を打つが、呑み込んだばかりの感情がドロリと体中を侵食していく感覚に、自分自身を殴りたくなった。

山崎はただの同級生だったはずだ。犯罪とか事件とかに無縁そうなごくごく普通のOL。わりかし物分かりが良くて、良い距離感で踏み込まずにいてくれる少し勘のいいやつ。それでいて会話はどこか天然なのか間隔がずれてたりして憎めない愛嬌がある。

あぁ、そうか。俺は知らない間に彼女に惹かれ始めていたのか。久しく感じた事の無かった恋愛という感情なだけに気付かなかっただけか。
だけど、恋愛なんてこれ以上踏み込まなければ進まない代物だ。
本気になる前に身を引いてしまえばいいだけのこと。そうすれば自然と距離は出来て、時が経てば「そんなこともあったな」と懐かしむ思い出になるだけ。
簡単なことだ。
昔は俺のことを好きでいてくれたようだが、今はどうだろうかなんて考えた所でどうしようもない。
こんな嘘を着て歩いているような男、恋愛対象になるはずはないか。
それに、梓さんの言う通り本当に恋人でもできたのかもしれないしな。
ならば僕は、時々くる常連さんとその場の会話を楽しませてもらえるだけで満足しなければ。

そう割り切るはずだったのに



「おや、皆さんと一緒に山崎さんがいるのは珍しいですね」
「そこで偶然会ったからボクが誘ったの!!」


にっこりとほほ笑みながら言うコナン君に子供特有の無邪気さを感じられないのはいつもの事。本当にこの子は・・・何を企んでいるのやら。
コナン君や蘭さん、園子さんがそろっているのはいつもの事だが、そこに少し戸惑いながらも混じる山崎に安室の笑顔をむける。
先日気付いたばかりの己の感情を晒すなんて馬鹿なことは一切ない。今まで通りの、すこし距離を取った店員と常連客の関係。


「なんだか外で会うのは新鮮ですね」
「あはは、そうですね。安室さん今日はお休みなんですね」
「ええ、なのでこれから趣味の時間を楽しもうかと」


そう言って拳を握れば、それがボクシングをさしていると分かったのだろう。怪我をしない様に楽しんできてくださいとファイティングポーズをする彼女に自然と顔がほころぶ。


「あーあ、安室さんも一緒に行けたらよかったのに〜!そうしたらイイ男を二人も連れて歩けるのに」
「園子ったら何言ってるのもー」


安室さんにも昴さんにも失礼よと諭す蘭さんの声に、綻んでいたはずの顔が一気に固くなる。
赤井秀一の可能性が高い沖矢昴の名につい反応してしまった僕を不思議そうに見つめる山崎に、慌てて笑顔を繕った。


「安室さんも昴さんって方をご存知なんですね」
「ええ何度かお会いしています。もしかして山崎さんは初めて会われるのですか?」
「そうなんです。大学生のいい男、らしいのでおばさんとしては緊張してしまいます」


いい男は目の保養!と豪語する園子さんを微笑ましく見つめる山崎と同じような笑顔を浮かべながらもフルに頭を回転させる。

沖矢昴を探る絶好のチャンスかもしれない。それに、あの男と山崎が一緒に出掛けるかと思うと苦い感情がこみ上げてくる。
だが、降谷を知る山崎と一緒にいて、安室を探っているコナン君や沖矢昴に何らかの情報を与えてしまう可能性もある。どうも俺は赤井の事となると感情が抑えられないようだし。
なによりこれ以上、山崎をこっち側へ巻き込むような事はしたくない。


「あれ?こっち向って来るの昴さんじゃない?やだ、待たせすぎちゃった?!」
「大変!もう行かなくちゃ。すみません、安室さん」
「いえ、では僕もこれで・・・」


今日の所は引いた方がよさそうだ。そう判断し、視界の端に映る沖矢昴をにらみ上げたのを隠す様に笑顔を貼り付けその場を離れようとした、その時だった。


「「「キャー――――!!!!!!!!!!」」」「うあぁぁ!?」


大勢の悲鳴と共に人だかりが割れ、人々が逃げ惑う。その中心で柳包丁だろうか、大きな刃物を振り回しながら暴れる男性。その傍らには切り付けられたのか血を流しながら倒れる人。
狂った男による通り魔か。
逃げ惑う人の波のせいでその姿をとらえ続けられなかったのがいけなかった。

再び視界にその男をとらえた時には、大きな包丁を振り上げながら山崎へと突進して来ていたところだった。


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