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ペテンの鱗を絵空事にしないで 07


まったりとした時間が流れる店内に、引き立てのコーヒーの香りが漂う。落ち着ける大好きなこの空間にまた来れるようになったのは非常に喜ばしいことだ。
突然コンビニで再会し、安室さんからも降谷くんからも「来い」と言われたので再び通うようになったポアロ。
ただ、未だに私は来いと言われた理由を何も知らないのだけれど。


「お待たせしました」


淹れたてのコーヒーと、今日のおすすめと言われたスフレチーズケーキ。ふわっふわそうな生地に、キレイに統一された焼き色。この人は本当に何でもできちゃうんだな。
以前に頂いたタルトタタンも絶品だったな。アレ食べたさに本当だったら翌日も来たかった。だが、「お忙しいとは思いますが、週に1度くらいは顔を出して頂けると嬉しいですね」なんて圧が強めの笑顔で言われたので、週に1度しか来る事が出来ないでいる。
多分、降谷くん的にはこれ以上頻繁なのは迷惑なんだろうなぁ。かと言って前のように来るな、ではダメな状況でもできたのだろう。
梓さんと久しぶりにお会いした時に、心底嬉しそうにしてくれたのでこの為かなとも思ったが、それなら週に1度という制限を付ける必要もない。
幾度となく降谷くんの意思を読み取ろうと視線を送ってみても、鉄壁の安室さんの仮面がそれを綺麗に隠してしまうから私では何もわからなかった。


「いつも美味しそうに食べて頂けるので作り甲斐がありますね」
「安室さんの作るものはいつも美味しいですから」


それでも元々喫茶店として好きだったポアロに週に1度は通えて、高い確率で降谷くんにも会える。いや、正確には安室さんにしか会えないのだけど。
好きな空間で好きな人に会えて声が聞けるのなら、これ以上の深追いは必要ないと気持ちを切り替えれるようにもなってきた。
新しく若いお友達も増えたしね。


「あー山崎さん!!今日も美味しそうなの先に食べてるー!!」
「ちょっと園子、挨拶も無しに失礼よ」
「あははお先に。園子ちゃん蘭ちゃんお帰りなさい。今日も元気で何よりだね」


ピチピチの女子高生と気軽にお話しさせてもらえるなんて、社会人になった今ではそうないことだ。
今日は二人だが、たまにもう一人ショートカットのボーイッシュな女の子も一緒だったりして、生の女子高生の恋バナに温かい気持ちになれた。私が高校生の頃は競争率がかなり高い降谷くんに片想いしていたからずーっと恋人も出来なかったな、なんて事も思い出させてくれるけど。


「ねぇねぇ山崎さんもこっち来てウチらと話そーよー!」


園子ちゃんからの誘いを断る理由なんて肌の違いが浮き彫りになるな、程度の事なので躊躇いなくお誘いに乗る。席を移動する際に安室さんが運ぶのを手伝ってくれたおかげで、ほぼ口を付けていないコーヒーも溢さず移動できたのは助かった。
安室さんが席に来たついでにと二人もスフレチーズケーキをオーダーし、「さっそく!」っと眼を輝かせた園子ちゃんが私へと詰め寄った。


「山崎さんって恋人いますか?」
「え?なに、急だね。今は恋人もいない寂しいアラサーだけど・・」


流石に中学、高校と降谷くんに片想いのままで不完全燃焼だったとはいえ、引きずるほどの想いでもなかったし、社会人になってから彼氏くらい何度か作ってはみた。
だけど転勤族だったし、じゃあ会社を辞めて結婚しようと思えるほどの強い想いはお互い持ち合わせていなかった為、自然とサヨナラをしたものだ。
きっと私にもプロポーズしたくなるほどの魅力はなかったのだろ。


「今はってことは、過去にはいたんですよね!どんな感じでした?」
「ちょっとどうしたの?園子ちゃん彼氏いるでしょうが」


以前にもこうやって女子トークに混ぜてもらった時に園子ちゃんには世界中を飛び回る空手家の彼が、蘭ちゃんにはほぼカップルと言えるほどの幼馴染が居ることは聞いている。
大体この手の話しを振る時は園子ちゃんと彼氏の間で何かあった時なんだけど、その割にはご機嫌そうなのが気になり、「彼氏と久しぶりに会うの?」って勘で言ってみたらどうやら正解だった様だ。


「真さんとデートなんて久しぶり過ぎて・・・どうしよー!!」
「あっはは〜若いな〜」
「笑い事じゃないんだよ山崎さん!!蘭は全く参考にならないし困ってんの!」
「参考にならなくてすみませんねー」


私だってデートしたいしと頬を赤らめながら拗ねる蘭ちゃんと、そんな蘭ちゃんを気遣う余裕すら全くない園子ちゃんに自然と頬が緩んでしまう。
本当に、若いっていいよね。勢いもあって、初々しくて。私も降谷くんに片想いしている時はこんな感じだったのだろうか。


「園子ちゃんには悪いけど、私は社会人になってから付き合ってるから高校生のデートの参考にはならないよ」
「え〜、山崎さん高校生の時は恋なんてしてなかったんですか?」
「恋はしていたよ。盛大なる片想い」
「その人に告白しようとは思わなかったんですか?」
「蘭ちゃんまでノってくるのね。できなかったね〜。学校一のモテ男だったもの」


つい女子トークのノリでそこまで言ってから、すぐそばにある人の気配に思わず息を呑む。そういえばここは個室でもなければ、今しがた話題に上がっている張本人が働いてる店ではないか。
いい匂いと共に現れた安室さんが、いつも以上に笑顔に見えるのは私の気のせいだろうか。


「楽しそうなお話をされてますね」
「アハハ。。私のは昔話ですよ」


本人に聞かせるつもりなんて全くなかったが、果たしてさっきの話で私の片想いの相手が降谷くんだとバレたりしていないだろうか。
男の子って自分のモテ具合とかってわかるものなのかな??降谷くんなら分かっても不思議じゃないと思ってしまうけど。


「安室さんは高校生の時、デートとかしませんでしたか?」
「高校生の時ですか?そうですね、それなりに。ただし参考になるようなデートではないですよ」


やっぱり学生時代からモテたんだろうなーなんて感心する二人に合わせる様に相槌を打ってみるが、安室さんの笑顔の視線がもの凄く痛い。
あぁ、これは完全にバレてるやつですね。だからなんだか楽しそうなんですね。
最近思うけど、降谷くんってやっぱりちょっと性格悪いよね。

幼かった日の甘酸っぱい思い出として流してもらいたいような、少しは気にしてほしいような。
どんなに安室さんの顔色をうかがったってなんだか楽しそう以外の感情は読み取れない。
少しは嬉しいとか、照れるとか、何かしら期待できるような反応をしてくれてのいいのにと思うけど、結局は今いるのは降谷くんではなく安室さんなのだから期待するのがおかしいのだろう。
仕事に戻る安室さんの背中を見送り、少し冷めてしまったコーヒーに口を付ければ、ケーキを食べるからといつもより苦いものをオーダーしたせいでほろ苦さが口の中に広がった。
まるで今の気持ちみたいだな、なんて一人で感傷的になっていたところに、話は未だ終わりじゃないと園子ちゃんの追撃が始まる。


「その人にまた会いたいです?運命的に会っちゃったら恋とかしちゃいません?」
「ハハっ、そうだね、しちゃうかもね」


でも、もう降谷くんとしては接してくれることはないんだろうな。
運命なんて素敵と盛り上がる二人の話に適度に答えながら再びコーヒーに口を付ける。やっぱりいつも以上に苦い味わいに気を抜いたら涙がにじみそうだった。

安室さんに会える。
でも、もう降谷くんには会えない。

その事実を改めて認識させられた様で、その日は寝付く事がなかなかできなかった。
だからといってコンビニになんて行かなければ良かったのかもしれない。
そうすれば、ココで降谷くんと会ったことを思い出して苦しくなる事も無ければ、偶然にも彼を見つけてしまう事も無かったのだから。


「こんな時間に‥降谷くんと…女性?」


暗闇の中駆け抜けていった車は確かに以前に私が乗った車で、真剣な顔でハンドルを握る彼の向こうに、クリス・ヴィンヤードのように綺麗な金髪の女性が乗っていた。

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