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06 サボテンの育て方


「楓、どういう事!?」
「あー、あはは・・・」


登校して自分の席に着くや否や、目の前に仁王立ちで並んだ友人達に思わず苦笑が漏れる。彼女達が何を聞きたいのかは、朝から耳に入ってくる話と感じる視線で分かっていた。噂って本当に怖い。あの時は周りに誰も居ないと思っていたから尚更そう思う。
彼女たちも倉持くんと私が抱き合っていたという噂話をどこかで聞いたんだろう。
実際には抱き合ってはいなかったが、あの状況を第三者が見たら誤解するのも無理はない。だからといってこうして噂になるくらい言い触らされては堪らないけれど。

ずっと好きな人は居ないと言っていた私が噂の的となり、しかもその相手が倉持くんとなれば、彼女たちの心境が手に取るように分かる。
今まで誤魔化してきたけれど、それももう終わりだ。倉持くんの事を諦めないって決めたんだから、ちゃんと皆には話さなくちゃ。そう思って、心持ち姿勢を正してから皆の方へと向き直った。


「全部話すから、聞いてくれる?」


倉持くんの事をいつから好きだったのか。どうして皆に言わなかったのか。倉持くんと何があったのか。隠すことなく全てを話すと、友人達は揃って渋い顔を浮かべた。
その表情の理由はきっと、倉持くん自身の噂があるから。そして、私の事を心配してくれているからだ。


「正直、倉持はどうかと思うけど・・・」
「でも、楓が決めたことだもんね」
「うん。応援するよ!もし倉持に変なことされたら言ってね?」


皆思うところはあるだろうけど、私が本気だという事が伝わったのか最後には理解してくれて、倉持くんと話せるように協力もしてくれた。
それだけじゃなく倉持くんの行動にも目を配り、女の子に呼び出されるのを目敏く見つけると教えてくれて、その度に何かと理由をつけて引き止める事に成功している。
自分勝手な行動だけに、最初は倉持くんに怒られたらどうしようかと不安だったけれど、最近では私が引き止める度どこか面白そうに笑うから、きっと嫌がっては居ないはず。むしろ、私が引き止めるのを待っているかのような気さえするんだ。・・・なんて、流石に自分の都合のいいように考えすぎかな。


「倉持くん、明後日の練習試合って何時からなの?」
「お前マジで来る気かよ」
「だって好きにしろって言われたから」
「あー・・・ダブルヘッダーでやるだろうし朝早ぇぞ多分」
「ダブルヘッダー・・・?ってなに?」


そして、初めて話しかけた日から数週間。友達が協力してくれた甲斐あって、今ではこうして普通に会話が出来るようにまでなっていた。ずっと見ているだけだった私にとっては大進歩だ。


「同じ日に二試合やる事をダブルヘッダーって言うんだよ」
「えっ、二試合も見れるの?倉持くんどっちも出る?」


自然と倉持くんと一緒にいる事が多い御幸くんとも喋るようになり、休み時間になるとこの三人で居る事が多くなった。
いつも私が倉持くんに話しかけて、時折御幸くんが揶揄う。倉持くんは素っ気無い返答が多いけど、無視されるわけじゃないし。私もその方がちょっと有り難かったりする。


「知らねーよ。監督次第だろ」
「なるほど。でも凄い楽しみ!ずっと試合見たいと思ってたから」
「へぇ。松浦さん、野球興味無さそうなのに」


意外だな。と御幸くんが言うと、倉持くんも私の方へと視線を向けてきて。ばちりと目が合った瞬間、慌てて俯いて目を逸らした。少し不自然だったかもしれないけど仕方がない。まだ倉持くんから向けられる視線に慣れていないのだ。
話しかけるのだって毎回ドキドキしているし、積極的な言葉を投げかけるのだって自分の柄じゃないし、結構無理してる。頑張るという一心で動いているに過ぎない私は、自分が行動を起こすことは出来ても、倉持くんから何かされる事には一々反応してしまう。それが例え、視線を向けられるだけだとしても。


「野球自体にそこまで興味あるわけじゃないんだけど・・・」
「あー、なるほど。ははっ、興味があるのは倉持って訳ね」
「御幸黙れや」
「・・・球場には行った事ないから、一人で行くのちょっと怖くて。青道のグラウンドもおじさん達がいっぱい居て勝手に見学しても良いのか分からなかったから」


じわりと熱を持った頬を隠すように、俯いたまま話す。まだ倉持くんが私を見ているような気がして顔を上げる事が出来なかった。
嬉しいけれど、恥ずかしくて。ドキドキと心臓が力強く脈打ち、体温が上がっていく。倉持くんが好きだと訴えてくる身体をコントロール出来ない。
これじゃあ、また倉持くんに重いって言われちゃうな。


「隅の方でこっそり見るね」
「は?見るなら堂々と見ればいいだろ。気が散るわ」
「気が散るって事は、試合中に松浦さんを探しちゃうのかなー?倉持くんは」
「お前のその顔マジでイラつく・・・」


揚げ足を取った御幸くんがニヤニヤと笑いながら倉持くんを揶揄う。最近では何度も見るようになった光景に笑ってしまう反面、内心で御幸くんの言葉に動揺している自分がいた。
私に興味のカケラも無さそうだった倉持くんが、御幸くんの言葉を否定しなかったから。否定するまでも無かったのかもしれないけれど、もしかしたら少しは私の気持ちが伝わっているんじゃないかって。そう思ってもいいのかな。


「応援するね」


緩んだ顔を抑えきれていない自覚はあったけど、嬉しさでさっきまでの恥ずかしさも忘れ倉持くんを見てそう言えば、フイッと顔を背けられてしまった。御幸くんはそれをまた面白そうに見ていたけど、今度は何も言う事なく視線だけを倉持くんに向けている。

女なんて。と女子を軽く見ていた倉持くんの見方を少しでも変える事が出来ているだろうか。一方通行だけれど、こうして話しかける事は許してもらえてるし、試合を見る事も許してもらえた。
少しずつでいいから、良い方に変わってくれればいいな。そう思いながら、もっと頑張ろうと密かに決意した。


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