AofD | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


05 サボテンと花

クラスメイトの松浦楓。昨日まではただのクラスメイトでしかなかった松浦の事を俺は良く知らない。いくつかのグループに分かれて、数人でツルんでいる女たちの一人。ただそれだけ。むしろ、昨日のあの一件で顔と名前が一致したくらいだ。
その女に、まさかあんな事を言われるなんて思ってもみなかった。


「お前、松浦さんと何かあったの?」
「は?何で?」
「何か階段のところで抱き合ってた?とか噂になってるらしーぜ」


ニヤニヤと、明らかに揶揄っていますと言わんばかりの表情を浮かべる御幸に盛大に舌を打つ。さっきまで部活の話をしてたのに、何でいきなり松浦の話を持ってくるんだ。
いや、多分コイツの事だから俺が一瞬視線を向こうへ送ったのを見ていたんだろうけど。これだからキャッチャーってやつは敏くて嫌になる。


「噂ねぇ・・・」
「クラスメイトとヤるのはどうかと思うけど?」
「ヤってねーよ」


噂って何だよマジで。つっても、松浦があの時に言った噂の内容も今しがた御幸が言った内容も間違ってるわけじゃねぇから、噂ってやつも侮れねえかもしれねぇな。
でも、松浦の言葉にイラついたとはいえ人目につくところであんな行動するんじゃなかったぜ。噂の類に疎い御幸が知ってるってことは、もうこの学年の殆どが知ってるんじゃねえの?

それにしても、好意を向けられた事は今まで何回かあったけど、あそこまで真っ直ぐにぶつかってきたのは松浦が初めてかもしれない。わざと距離を縮めて誘ってみたけど、応じなかったし。
これから頑張る。ってアイツが言った意味はまだ分かんねぇけど、何をどう頑張るのか見せてもらおうじゃねーか。何されたって俺は今のまま変わるつもりはないし、松浦との噂が流れたところで誘ってくる女達が減るわけでもないだろうしな。


「ヒャハッ、おもしろくなってきたぜ」
「どうでもいいけど、部活に支障きたすなよ?」
「へーへー。分かってますよキャプテン様」



◇ ◇ ◇



「ねぇ、倉持くん。来週練習試合あるんだよね?見に行ってもいい?」
「ハァ?見に来てどーすんだ」
「だって倉持くんの野球してるところ見たいから」
「好きにしろよ」


噂が流れてから数週間。松浦が何をどう頑張るのか、考えるまでもなく身を持って教えられた。今までは教室で一切話しかけてこなかったのに毎日少しずつ声を掛けられるようになって、最近では恥ずかしげも無くこんな事まで言ってくるようになりやがった。まぁ、適当にあしらってるけど。


「攻めるねー、松浦さん」
「倉持くんには直球でいかないと伝わらないかと思って」
「ははっ。捻くれてるからなーコイツ。それがいいかもな」
「お前に言われたくねえよ」


俺と御幸は席も近いし、部活の事もあって話す機会は多い。だからか、松浦は自然と御幸とも話すようになっていた。
普段は女子とあまり喋らない御幸も俺の弱みや揶揄うネタのためか珍しく松浦とはよく喋っていて、時折こうして茶化してきたりする。

でも、松浦はこうして恥ずかしい台詞を平気で言ってくる割には視線が合っただけで恥ずかしそうに顔を逸らしたりもするから調子が狂うんだよな。それも一度や二度じゃなく、何度もだから尚更。


ああ、でもやっぱり。頑張ってると言った言葉を実感せざるを得ないのはこの時かもしれない。


「倉持先輩。今、いいですか?」
「あ?俺?」


教室を出たところの廊下で、待ち伏せでもしていたのかと思うくらいタイミングよく掛かった声。視線を向けてみれば、数日前にも声を掛けてきた女の姿があった。
俺に何を言いたいか、何を求めてるかなんて言われるまでも無く分かり、ジッと女の姿を見据える。いつもなら気分によってどうするか決めているところだが、今の俺は目の前の女に視線を送りつつも背後にある教室の扉に神経を集中させていた。
さーて、そろそろか?そう思うと同時に背後に気配を感じて、思わず漏れそうになった笑いを喉でかみ殺した。


「倉持くん、御幸くんが呼んでたよ」
「御幸が?」
「そう。聞きたい事があるみたい」


やっぱり来たか。予感が的中したからこそ、つい笑ってしまいそうになる。
松浦の頑張る、という言葉を聞いた日から数日が経った時、目の前の女が声を掛けてきたのが始まりだった。どこで見ているのか知らねぇけど、松浦は声を掛けられる度に姿を現して、御幸や白州、監督、時には一年の名前まで出してきて目の前の女の目的を阻んだ。


「分かった。悪いな、って事で今は無理だわ」
「・・・分かりました。また来ます」


女の方は目的が達成出来ていないからか何度も俺に声を掛けてくるし、俺も毎回同じ女に声を掛けられるのは正直面倒くせぇ。煩わしさが倍になったような気さえする。
松浦に鋭い視線を送っている女も、もう何度目かの事で松浦の言葉が嘘だと気が付いているんだろう。
それでも俺は松浦の嘘に乗り続けた。松浦の必死な様子が面白いからっていうのもあるし、これがどこまで続くのか試している部分も少なからずあるのかもしれねぇ。
だから、松浦の事を振り切ってまで目の前の女を抱こうという気にはならなかった。


「松浦さん頑張るじゃん」
「ヒャハハっ、女は怖ぇな」
「お前なぁ・・・何とも思わねーの?」
「さあな」


一連のやり取りを見ていたのか、席に戻れば御幸から呆れた視線が向けられる。何とも思わないかって?俺なんかにこんなに必死になってバカみてぇだなとは思ってるけど。それも沢村と同じ、周りを巻き込んで絆してしまうようなバカだ。

まあ、御幸にわざわざ教えてやる義理はないからはぐらかしたが、自然と緩んでしまっていた口元でもしかしたら悟られたかもしんねぇ。


「ふーん」
「ニヤニヤすんな。うぜえ」
「俺松浦さんの事応援するべき?」
「知らねーよ。黙れや」


はっはっは、と声を上げて笑う御幸に舌打ちをしてみたけれど、慣れているのか気にした様子はない。

俺はまだ絆されてねぇし。
でも、松浦がどう頑張ってくれんのか少し楽しみになってきたのは絶対御幸にはバレないようにしねえとな。


back] [next



[ back to top ]