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07 ホップを大切に

「どー思います?東峰先輩!!怖くないですか?!」


そういって詰め寄る私のせいで、さぞかし昼食が食べにくいだろうな、東峰先輩は。
気にはなったがそこはあえてスルーでいこう!私はこの恐怖を共感をしてもらいたいんだ!!
って、思っていた昼休み。結衣が休んだので(たぶんズル休み)キーちゃん所にでも押しかけようかと3年の教室前へ行った私は、一番共感してくれそうな人を見つけてしまったのだ。


「あっっずまねせんぱーーーーい!!!!!!!!!」


大声で叫ぶ私に、見るからにビクッ!っと全身を強張らせる先輩に構うことなく近づき、腕を組んだ。


「ぅぇえええ!?え!?ちょっ!高宮ちゃん!?」


今まで腕を組んだことなんて無いので、先輩はものすっごくびっくりしてる。


「先輩、いま財布持ってるし購買ですよね!買ったら一緒に食べましょ!!2人で!!」


もちろん2人でご飯なんてしたことない。あわあわしながらどもって何言ってるか分からない先輩を無視して、強制的に腕を組んだまま歩き出す。ちょっと反応が楽しいとか思ってわざとやってるけどね。
無事に購買でパンを買い、そのまま一緒にこの時間使われてない特別棟の階段に腰を掛ける。人気が無いっていいよねーちょっと埃っぽいのが残念だが。
それでもこういう場所で食べれちゃうのが学生なのかなーとか思いながらお弁当を広げる。

未だに状況をつかめていないだろう東根先輩は膝の上に買ったパンを乗せたまま固まっていた。


「先輩食べないんですかー?私が食べちゃいますよー?」
「え?あ・・あぁ、うん。頂きます」


律儀に両手を合わせて頂きますをする先輩がちょっと可愛い。中々にして立派な体格と強面な感じが可愛いとはかけ離れているが。
自分で作っておいてなんだが、今日のお弁当は美味しくできたはず!朝からつまみ食いも我慢していたので勢いよくほおばり堪能する私に、東峰先輩の手が再び止まる。


「・・・あ、あのさ、大地か清水になんか言われてきた?」


私が中々用件を言わないのが気になって仕方がないのだろか。見るからに目が泳ぎ、そわそわしている。
話し出したら止まらなくなるからご飯食べてからでいいかと思っていたけど…。きっと言わないと先輩は気になり過ぎて食べだせないんだろうなーと感じたので食べながら失礼しまーすと言って話し出す。


「そーーなんですよー!澤村先輩に脅されたの―――!!!」


朝の澤村先輩の顔を思い出しただけで体が硬直する!思い出そうとした映像を慌てて打ち消した。そんな私に、なぜか東峰先輩はすごく悲しそうな顔をした。


「脅されてって…そんなに嫌なら断っても良かったんじゃ…」
「いーや!あの笑顔は断るなんて選択肢を許してくれないやつだった!!」


何あの笑顔!!笑顔が見たくない人なんているんだね。


「そ、そうだね。大地の笑顔はたまに迫力あるよね…。俺はよく見るけど…」
「先輩あの顔よく見るんですか?!よく耐えられますね!?」


私はもう金輪際拝みたくないですけど。だいたい澤村先輩、絶対にあの笑顔の威力を自覚した上で使ってるし!


「あんな顔しないで普通にお願いしてくれればいいのに!!…承諾するかは悩むけど」
「そう、だね…ごめんね。大地が何て言ってたか聞くのも怖いけど…俺はもう、バレーはやらないよ」


そうだねっで終わると思っていた返答の続きの言葉に、勝手にまた思い出していた今朝の光景を一旦ストップさせる。


「ふぇ??・・・何の話ですか?」
「え?・・・・大地からお願いされて俺の所来たんじゃないの?」


なぜか東峰先輩まで困った顔してる。
ん?もしかして話しがかみ合ってなかったの?


「澤村先輩からGW合宿の時にマネ手伝いしてくれってお願いはされましたけど・・?」
「え?そうなの?じゃあなんで俺の所に?」
「東峰先輩のとこ来たのは…とにかく誰かに聞いてほしかったからですよ?」


一番共感してくれそうだし、ちゃんと話聞いてくれそうだったし、タイミングよく見つけたし?本当はキーちゃんの所に行こうと思っていたけど。
とにかく澤村先輩の笑顔が怖いって言いたかったと伝えると、東峰先輩は力が抜けたようにフニャフニャと崩れた。…膝の上のパン大丈夫かな?


「なんだ・・・てっきり俺が部活行かないから高宮ちゃんに伝言でも頼んだのかと…」


違って恥ずかしいような、安心したような、寂しいような。なんとも形容し難い顔で力なく笑う先輩に、そういえば今そんな状況だったかと合点。


「そういえば東峰先輩、部活来てなかったですね。すみません、すっかり忘れてました」
「あ、、うん。いいんだ。どうせ俺は…居ない方がいいしね」


なんだかすっごく落ち込ませてしまった気がするが、私のせいだけではないだろうネガティブ発言に焦る。その言葉は…私にはタブーです。


「いない方が良いなんて・・・やめて下さい」


そんな人、誰一人としていないのだから。
急に声のトーンの変わった私に、先輩が慌てているのが見える。

でも、やっぱり私は冗談でもその言葉を口にしてほしくない。


「言葉には力があるから。そんな簡単に居ない方が良いとか言ったら、本当に心がそう思ってしまうから」
「・・・高宮ちゃん・・?」
「本当に居なくなってしまうから…ダメです。私は東峰先輩が居ないのは…嫌です…」


ちょっとだけ何があったかは聞いている。心のトラウマっていうのは簡単には治らないってわかってる。でも、


「東峰先輩はやりたいと思ったらまだバレーやる事が出来るんです」


やりたくてもやれないわけじゃない。


「やってもいいんです」


ちょっと声が震えた。泣きそうになるのを必死に堪えてるのがバレちゃうかな?


「俺・・・やってもいいのかな・・・」
「いいんです!やりたいって思えばやれるんです!誰が何と言おうともやってもいいんです!」


医者にも、先生にも止められてない。見放されていない。むしろ、皆が待っている。
西谷夕だって、部活停止中ですら「今度こそフォローにはいるんだ!」って張り切っていた。また一緒にバレーをするんだって!


「私は…東峰先輩のアタック見るの好きです。カッコいいです」
「そっ、そんなことないよ!・・・・いっぱい止められちゃうし」
「でもいっぱい決めてますよ?ズゴーって、すごく気持ちよさそうな音してます」


なんとなく上半身だけアタックモーションをしてみる。東峰先輩の何倍も遅いスイングだけど。そんな私に、先輩は記憶をたどるように目をつぶった。
ちいさく「・・・うん」って言った気がした。


「と・に・か・く!!!先輩がバレーしたくなったらやりましょう!そして今は食べましょう!!」


熱くなり過ぎちゃって残り時間が少なくなっちゃった。せっかくの自信作のお弁当がお預けになるなんて無理―!


「うん・・・そうだね。食べよう」


さっきまでよりはどことなく明るくなった先輩の笑顔。ちょっとつぶれたパンを食べる先輩に笑った。よかった。この人はまだ笑顔でいられる。

急いで食べ終えてからまたちょっとだけ澤村先輩の笑顔の話をして二人で震えて、顔を見合わせて笑った。笑顔怖い同盟!


「は〜東峰先輩に話せてよかったー!!ありがとうございます!」
「いやいや・・・俺の方こそありがとう」


なんでお礼を言われたのか分からず首をかしげる私に、先輩は優しく笑った。なんだか今日は沢山先輩の笑顔を見た気がする!あれ?でもいつも笑われてるか??


「よくわかんないけど先輩も楽しかったならなにより〜では先輩!」


もうすぐ予鈴が鳴る時間なので解散だ。


「先輩、またね!」
「っっっ!うん・・・またね」


なんだか東峰先輩が泣きそうになってるような気もするが手を振って別れた。

またね

また、次がある言葉
私の好きな言葉

これからも先輩の笑顔が
みんなの笑顔が増えます様に。

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