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天才とバカの境界線 05

今日も一日ハードな練習を終え、木兎の居残り練習に強制参加させられる赤葦を横目にさりげなく帰ろうとした時だった。


「あーー!!木葉せんぱーーい!お疲れ様でーーす!」


いつもならこんな時間に聞くことのない声が体育館の入り口から響く。
帰ろうとしていた俺はもちろん扉に近いわけで、皆からの視線を背中に感じつつ声の主の高宮へと足早に詰め寄る。


「いちいち叫ぶな!こんな時間にいるとか珍しいな、どうした?」
「聞いて下さいよ!さっきまで雑誌の取材を受けてたんです!!応接室初めて入った!!ビップでした!!」


流石、いまクライミング界で注目の高校生クライマー。そりゃー世界大会出るような奴だもんな、取材も来るか。感動ポイントが初の応接室なところが流石だが。


「すげーじゃん!出る雑誌分かったら教えろよな、多分見るから」
「多分ですか!?絶対見て下さいよー!私良いこと言ったから!」


だから自分で言うなよ。本当に色んな意味でスゴイやつだよ。
とりあえず「ハイハイみるみる」と軽く返事しながら興奮している高宮の頭を抑えると、なんとも嬉しそうな顔をするもんだから思わず固まってしまった。


「えへへへ・・・ってあ!しまった!先生から伝言を預かって来てたんだった!」
「え・・・おう、俺にか?」
「うんにゃ、夜中先生に」


さっきの顔はすでになく、いつも通り力の入らない顔で忘れてたーと笑う高宮になんとなく心がざわついた。
なんだ、寂しい・・のか?

とりあえず早く行って来いと頭に乗っていた手で今度は背中を押してやると元気よく体育館の奥へと入っていく。途中で木兎に絡んで一向に進まない所を赤葦に監督の所まで連れていかれてる様子をただ見つめていると、いきなりわき腹に誰かの肘が入った。


「このこの〜葵ちゃんにあんなに慕われて羨ましいぞ〜」


そう言って俺の脇をつつく猿杙の肘を払いのけ、脳天にチョップをくらわす。


「あれは誰にでもあんなんだろ。木兎と騒いでる方が多いしお前も混ざってこれば?」
「なんだよー寂しいからって暴力はんたーい!」


そんなに強く叩いていないのに頭を抑えて文句を言う猿杙に今度はこぶしを握ってみせるとすぐに冗談だってと返ってくる。


「でも実際、お前かなり葵ちゃんの事気に入ってるよな」
「・・・そうか?まぁ何やらかすか心配になるっていうか、行動が不思議過ぎてほっとけないっていうか…」
「親かよ!」


しっかり手付きでツッコんだ猿杙にあんな娘はいらんと返す。


「まー親心かもしんないけどさ。お前、他の子だと適当に褒めて盛り上げて―みたいな感じなのに葵ちゃんには全然態度違うだろ?」
「適当に褒めてって…本心だっつーの」


女の子は褒めたら喜ぶと思ってやってるのも確かだけど。
悪い事じゃないしよくね?でも思い返してみればあまりあいつを褒めたことないかもしれない。褒める個所が無いのか?

いや、普通に女らしくはないが顔もまあまあ可愛いし、鍛えてるからかスタイルだって良いと思う。クライミング頑張ってるみたいだし、常に明るくて友達も多い。これだけあれば他の奴なら褒める所だらけだな。

やっぱ洒落っ気が無いからか?


「もっと女らしくさせようかな…」
「何の心配だよ。お洒落して葵ちゃんに彼氏でも出来たらお前どーすんだよ」
「どーするって・・・いい事じゃね?彼氏できるのは」


そこまで言ってから実際想像してしまった。あいつに恋人が出来たら俺らにちょっかいかけに来なくなるだろ?知らないやつにさっきみたいな嬉しそうな顔しちゃうんだろうなー
もしかしたら恋人との惚気とか聞かされるのか?
・・・・だめだ。なんか腹立つわ。


「あれあれ〜?良い事〜とかいって険しい顔になってますけど〜?」
「・・・親心だ」


心底嬉しそうに顔を覗きこんでくる猿杙にデコピンをくらわせながらも、モヤモヤした気持ちの意味は分からず。きっと親心だと決めつけて、そう言い聞かせているだけなことに気付いていなかった。それがいけなかったのかもしれない。

帰り道も女の子1人で帰すわけにもいかないと、ぞろぞろとみんなで帰った時だって今まで通りで。木兎と騒いで赤葦に怒られて俺を巻き込んで。こんな事が明日も続くと思い込んでいたから。まさかこの後、しばらく高宮と合わない日が続くなんて思ってもいなかった。


「・・・最近、葵見掛けなくね?なんかつまんなーい」


木兎がそうつぶやいたのは3日ほど前。あれからまだ一度も見掛けず、今日で1週間以上がたった。
誰かの友達―ってわけでもなかったからか、改めて誰も連絡先を知らないと知った。知らぬ間に俺らに浸透していた高宮葵。木兎だけでなく、そんなこともあるでしょと言っている赤葦だってなんだか元気が無い。俺だってなんだか落ち着かなくて。

それが゛寂しい″と゛不安″とが入り混じった感情だと嫌でも自覚させられた。
それが、いつの間にか俺がお前を好きになっていからなんだということも。

お前が居ないだけで、今まで普通だったものが普通じゃなくなったぞ。

早くまた俺らに…
俺に会いに来いよ。

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きゃー!木葉も自覚!!
終わり方不明すぎて不安だけど…。


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