高宮と会わなくなって2週間近く経とうとしていたある日。
その理由を俺はテレビで知る事になる。
『クライミングユース世界大会 日本人が優勝!! 高校生クライマー高宮葵さん!ついにやりました!』
「ぶはっ!!…っな!?」
「ちょっとー!お兄ちゃん汚ーい!」
朝食の最中に父しか見ていないニュースから聞こえた名前に思わず飲んでいた牛乳を拭き出した。妹からのクレームにわりぃと言葉にはしたがそれどころではない。
今何っつった??ダイニングからでは父の後頭部で見にくい為、リビングまで行ってテレビにかぶりつく。画面では決勝の様子だろうか、試合中の映像が映し出されていた。
『いや〜!接戦でしたねー!』
『見ごたえありましたね。決勝の相手は昨年、中学生の時に敗れた相手でしたからね』
『リベンジを果たせたという事ですね!!高宮さんの帰国はもう間もなくとの事なので楽しみですね』
『そう言っている間に空港からの生中継が始まるようですよ』
そんなコメンテーターのやり取りを呆然とみてしまった。
海外に行っていたのかそりゃ会わないわけだわ。あいつがすごい奴だと知っていたはずなのに。改めてちゃんと自覚したというか…。遠い奴に感じるというか。
「なに?どうしたの?秋くん知り合い?」
俺の突然の行動に母親も気になったのだろうテレビをのぞき込む。画面は空港の到着ロビーらしきところでまだ人影はない。
「あ〜まぁ仲いい後輩・・か?」
「なーに?その曖昧なのー」
なぜか微妙に不貞腐れているが、俺としてもあいつとの関係が何と言われて困るんだから仕方ない。流石に親にパンツ見たのがきっかけで話すようになった子とは言えないしな。
それに仲がいい…かどうかは基準が無いから分からん。あいつは他にも友達多いし、むしろ俺らは友達って関係でもない気がするし。知り合いに変わりはないと母親をなだめている間にどうやら人が出てき出したようでリポーターが慌てだす。
ぽつぽつと関係のない一般市民が映され「間もなくです!間もなくです」とリピーターが興奮気味に繰り返す。同乗者は高宮の事なんて知らない人も多いだろうに、きっと何事かと驚いたことだろう。
『あっ!出てきました!葵ちゃんです!葵ちゃーん!おめでとうございまーす!』
未成年者はなぜかすぐに下の名前で呼ばれる日本人アスリートならではの愛称が叫ばれ、高宮も驚いた顔で近づく。ってかテレビの所まで来ちゃうんだあいつ。
『葵ちゃんおめでとうございます!世界一ですね!!』
「わー!ありがとうございます!すごい私!有名人みたい!もしかして生ですか!?」
相変わらずな高宮に思わずおいおいとテレビにツッコみたくなる。物怖じしない性格もここまでくると本当にすごいな。
中身は全く同じなのに…なぜか実際に会っている時と全然別人のような。本当にあの高宮とは他人なんじゃないかと思えてくるくらい遠い…。俺とはかけ離れた存在かな。そう思っていた時だった。
『優勝を誰に伝えたいですか?』
『えー?親は一緒に居たので…友達とか学校の先生とか?あ!あと先輩!』
『高校のですか?』
『そう!木葉先輩!』
・・・・・・・・はいー????
梟谷高校に木葉なんて変わった名字の奴、他にいたか??家族もまさかね何て顔しながら俺を見て来る。
『その木葉先輩とはどういう仲なんですか?クライミングやる方ですか?』
『木葉先輩はバレー部なんですよー。私が好きでよく会いに行く先輩です!』
はい、確定。バレー部の木葉って俺じゃねーか!!なんだ、どうなってるんだ?!
「ちょっとー!これ秋くんの事でしょ!!」
「お兄ちゃんテレビで名前呼ばれてるよ!!」
「・・・・おう。」
「何よー反応薄いわねー」
いやいや母さん。これはかなりテンパってるからでしてね。
『え?お付き合いされてる方ですか?!』
『いいえー?』
『…えっと…?』
リポーターも生放送なのでかなり困った様子だが何聞いてんだ。自分の質問に対しての回答に困ってるんじゃないよ!
『あっ!私、木葉先輩に好きとも言ってなかった!!先輩見てるかな??せんぱーーい!好きでーす!今日会いに行きますねー!』
そう満面の笑みで手を振る高宮をリポーターがなんだかなだめて、次は他の局への取材へ行くようだ。
「・・・お兄ちゃんテレビで告白されてるよ?」
そう指さす妹に沸々と湧き上がる怒りをぶつけても仕方が無いのでまた「おう」とだけ返し食卓へ戻る。
朝ごはんの味は分からなかった。
嬉しくないわけじゃない。つい最近俺も好きだと自覚した所だし。だが、アレはないだろ!
朝の番組と言ったらこのチャンネルを見てるやつが大半だぞ!どんな顔で学校行けばいいんだ!?
そこにテレビを見ていただろう木兎からの着信。メールも何通来ることやら。
「あんのバカ!!!!!!後で覚えてろ!!!」
携帯を握りしめて部屋へと戻る俺に、母親が「夜は赤飯炊いとくねー」と叫んでる。
クライミングの天才の、最高にバカな演出のおかげでしばらく俺の生活は激変せざるを得なくなった。
そのことを文句言っても
「でも秋紀先輩が好きなんだからしょうがないの!おかげで先輩とも付き合えたし」
なんて言われて、まんざらでもないと思ってしまう俺がいる。
やっぱり天才には一生勝てないのかもしれない。
fin.
完。
いやね、当初の想像とはだいぶ異なってしまったのですよ。
それでもお楽しみいただけたのなら幸いです