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「はじめくんっ!」
「は?」


嘘みたい。徹ちゃんだけじゃなくてはじめくんまで一緒の高校だなんて。そうすると、二人は小学生の時からずっと一緒にバレーをしているって事か。はじめくん面倒見よかったし、本当のお兄ちゃんみたいで大好きだったんだよね。


「おいおい、岩泉ー。何やってんだよ」
「真面目に練習しろよな」
「は?何もしてねぇよ」


私が話しかけた所為で練習の邪魔をしてしまったらしく、他の部員さんにはじめくんが怒られてしまった。

一度に続き二度までも嬉しい事が続いたおかげでつい舞い上がってしまったので、申し訳ない気持ちになる。練習が終わってからもう一度話してみようと思って、上へ行くために足を進めた。


「高宮じゃん。何してんの?」
「おう、国見くん。ちょっと見学させてもらおうと思って」


その時に丁度クラスメイトの国見くんが話しかけてきたので当たり障りなく答えたけど、彼もバレー部だった事実を今初めて知ったよ。


「ふーん。珍しいな。ここ、ボール飛んでくるし危ないから上行ってろよ」
「うん、そうする。ありがとう!」


ようやくバレー部の見学するという当初の目的を遂行するべく、体育館の脇から上へとあがった。



「おい、国見。さっきのヤツ知り合いか?」
「同じクラスの奴ですけど・・・岩泉さん知ってるんじゃないんですか?」
「いや・・・誰か分からなくて」


先程までからかっていた花巻や松川までも集まってきて話に加わる。
話題は岩泉に親しげに話しかけていた彼女の話だ。


「1年だろ?結構可愛くねぇ?」
「そういえばクラスの奴らが1年に可愛い子がいるって騒いでだけど、あの子の事か?」
「あぁ。多分そうだと思います。1年の間でも話題ですから」


新入生が入ってきて少し経つが、その中でも多少有名らしい。
そんな子に親しげに名前を呼ばれるような覚えがないため、益々不可解だ。


「なんていう名前だ?」
「高宮葵ですよ」
「葵・・・どっかで聞いた事あるな。葵・・・あ?」


どこか記憶の隅に引っかかるような名前だったため、探し出すように繰り返していると、ようやく記憶の中の少女と一致した。確かあの少女は自分の事をはじめくん、と呼んでいた覚えがある。
しかしかなり前に引越したと及川に聞いて、それきり会っていなかったから直ぐに分からなかったのも無理ないだろう。


「おい、さっきから何してんの。サボってると練習メニュー追加するよ」
「おー。悪い、岩泉がナンパしてたからつい、な」
「えっ!?やだ、岩ちゃん何してんの?破廉恥ー」


注意しにきたくせに、おいしいネタだと思ったのか一気にふざけたノリへと変える及川にいつもなら怒鳴るところだがさっきの少女が頭を過ぎる。あれが本当に葵だとして、及川は知っているのだろうか。

自分の記憶する中の葵は及川とつるむようになった時には既に居て、どこに行くにも後ろを着いてきていた。しかし目の前のこの男はそれを煩わしいと思うような事もなく、妹のように可愛がっていたのだ。


「ん?岩ちゃんどうしたの?」
「葵ってこっちに戻ってきてるのか?」
「あ、会った?俺も来る時に偶然会ってさ、ビックリしたよ。なんか練習見に来るとか言ってたけど」
「いきなり声掛けられて、誰だか全然分からんかった」


そう言って上を見ると、嬉しそうに手を振る葵がいた。
なるほど。葵だと思ってみると、確かにあの頃の面影が多少あるように思える。


「なんだ、お前らの知り合いだったのか」
「よーし国見、レセプションすんぞ」
「じゃあ俺打ちますよ」
「いや、そこはお前がレシーブでしょーよ」


先程まで散々絡んできたくせに、色恋の類では無かったために興味を削がれたのか各々練習に散っていく。
主将を筆頭に自由な奴らだな、と一つ溜息をついて自分も及川にパス練を促した。


「小さかったあいつがアレか・・・女ってスゲーな」
「だね。でも、言動はそう変わってなかったよ」


オーバーハンドでボールを行き来させながら、思い出したように笑い出す。

言われてみれば、あの頃もそうだったと思い出す。まだ始めたばかりのバレーは決してうまくなく、オーバーやアンダーで返す基礎すらまともに出来なかった自分達。目を引くプレーなんて出来るはずもなく、淡々と基礎を繰り返している練習は見てても面白いところなんて無かったはずなのに、いつも笑いながら練習を見ていた。

今もこうして練習を見に来るあたりあの頃と同じだし、自分の事を呼んだ時も時間の流れを感じさせなかった。


全てはあの頃のままか、それとも・・・。幼い頃から明らかに自分とは違う好意を及川に向けていたのを知っていただけに、これから二人がどう変わっていくのか想像すると自然と口角が上がった。


◇ ◇ ◇



「おぉ・・・」


徹ちゃんジャンプサーブが綺麗に決まり、サービスエースになったのを見て、思わず感嘆の声が漏れる。

幼い頃テレビで見てから真似事のようにサーブ練習をしていたけれど、あの頃のへっぽこサーブとは違ってちゃんと形になっている。トス回しもクイックも、あの頃とは段違いに上手くなっていた。

あれから何時間経っただろうか。もう練習も終盤に近づいてきていて、見に来ていた女の子も私を含めて3人しか残っていない。もうすぐ終わりかなと思ったのは間違いでは無かったようで、監督の周りに集まった後に自主練へと移行した。帰って一人で過ごすよりも、ここで皆の練習を見ていた方が面白いので、このまま見ていようかなと思ったその時。


「葵、ちょっとおいでよ」


真下から徹ちゃんに手招きで呼ばれてダッシュでコートへと向かう。


「ふはっ、速ぇ!やっぱり全然変わってねぇなお前」
「はじめくん・・・バカにしてるでしょ」
「いや、スゲーなって思ってるよ」


自分でも、呼ばれた時の食いつきが飼い主に呼ばれた犬みたいだなってちょっと思ったので、傍からみればそれは顕著だっただろう。


「ねぇ、葵ってバレーやってた?」


唐突にされた質問に、ドキッと心臓が音を立てる。どうして急にそんな話になったんだろう・・・さっきまでは微塵も出ていなかったはずだ。


「え?私そんな事言ったっけ?」
「いや、ただやってたかなって思っただけ」


大丈夫、大丈夫。ただの疑問であって、そこに深い意味はない。
バレないように一つ息を吐いて笑顔を貼り付ける。


「そうだね。中学までやってたよ」


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雲行きがあやしく。。。
どこまでも明るい話にするハズだったのに、結局シリアス好きな私。。


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