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04 ミントを抱えて

夜の公園にボールの音だけが響く。
だが決して怪奇現象などではない。疲れて言葉数が少なくなった高宮の打つボールを、真剣になりすぎて無言になっている西谷がひたすら拾っているからだ。

中学校の学区は違えど、わりかしご近所だと気付いた高宮家と西谷家。じゃあ自転車で行ける!と高宮の家の近くの公園で練習するようになったのは今週の事。

高宮は真ん中でいいよと提案したが、女を夜に一人で歩かせられないからと、さらりと男前を出す西谷にときめかずにいられない。もちろん家まで送り迎え付きだ。

学校以外の西谷夕とあまり会ってはいけないかな。これ以上好きになってはいけないとブレーキを掛けたはずなのに…。
そんな思いなど全く関係なしにグイグイくる天性の男前さに逃げ腰になる。そんな事を考えていたからか、はたまた疲れからか、高宮が放ったボールは西谷に届くことなく足元へと落ちた。


「ご、ごめん、、、いつも下手くそで」
「いーや!その方がすげぇ練習になるし助かる!今のも取れなかった俺が悪い」


次は取るといって胸を張る西谷に苦笑いで返す。

バレーなんて体育でしかやったことのない高宮は、思いっきりと言われて力任せに打っているので思いもよらない方へ飛ぶことが多々あるのだ。予測できない球を拾う方がいいと西谷は喜んで拾っているが、他意は無いとはいえあちらこちらに揺さぶってる感が心苦しいかぎりだ。


「気合十分なとこごめんけど、ちょっとタイム」
「疲れたか?悪い、気付かなかった」


高宮は普通の女だもんなと、まだ全然疲れた様子のない西谷は一人でアンダートスを繰り返している。始めに興味本位でレシーブを教わろうとしたが、思ったよりも足腰にくる体勢に早々に根を上げた。体のどこに負担が来やすいのか分かっただけでも収穫ありなのだが。


スポーツドリンクを飲んで一息ついてから自分の手を見る。
ボールを打つことに慣れていない手。
西谷に教わり、握りこぶしで手首の上あたりを当てる様にしているのだが・・・
止まっているボールを打つだけなのにたまに外しているようで違うところまでも赤くなっているのに少しへこむ。

改めて、みんなすごいんだなと感心してしまった。手は帰ってからしっかり処置するのでそうそう酷くなることはない。高宮はそう自分に言い聞かせ、練習を再開した。


「お前、ほんといいやつだな!マジ助かる!」


そう言って笑う西谷にまた少しドキッと高鳴る気持ちに首を振る。

西谷の部活停止処分が終わるまで後数日。来週の中ごろには復帰だと聞いている。そうなれば学校以外で会うことはそうそう無くなる。むしろ学校でもそんなに頻繁に会っていたわけでもない。そうすれば、この気持ちも落ち着いていくだろう。

今度は壁に向かって西谷の後ろからボールを打ち出す。跳ね返ったボールは在らぬところへ飛んで行ったが、それをとっさに拾う西谷夕。こんな頼もしい後姿を見るのはもうそうそうない。そう思っていた。


◇ ◇ ◇


あれから数日後の昼休み。


「高宮ーー!今日から部活行ける!!お前も来い!」


いきなり教室に乱入してきたと思ったら、私の席まで来てそう叫ぶ西谷夕に持っていた箸が止まる。近いのに声がデカいのはいつもの事だが耳が痛い。


「残念ながら、葵は私と部活行くんですー」


ハウリングする頭をおさえている間に、一緒にランチをしていた幼馴染で親友でもある結衣が代わりに答える。会話からわかるように、結衣も同じ心理学研究部だ。彼女は本気で精神科医を目指しているので、資料がいっぱいある部室に積極的に顔を出している。

最近、西野夕の練習に付き合っていて部活に顔を出していなかったので今日は行くと今朝ほど約束したところだ。丁度、年末にドイツで出た論文の資料が届いたみたいだし。


「部活か?部活ならしょうがねぇな。じゃあ明日な!」
「いやいやいや、私バレー部関係ないし。あ、復帰おめでとー」
「おぅ、サンキュー!だから高宮も来いよな!明日でいいから」


あ、こいつ人の話全く聞いてない。大体、前回のママさんバレーの時に謹慎終わったから来れなくなりますってみんなに言ってから知ってるのに。これでこの不思議な関係は終わると思っていたのに。


「だ・か・ら!私はバレー部じゃありませーん。たまになら見に行ってあげるよ。キーちゃん居るし」
「お前は半分バレー部だろ。いっぱい来いよな!お前がいると潔子さんがよく笑うんだ!」


と、そうすごくいい笑顔で言ってのける西谷夕。あれ、もしかして目的そっちだった?てっきり復帰を私に見てほしいのだと自惚れた自分が恥ずかしい。


「・・・キーちゃんの笑顔は安売りしないんだから!」


とっさに返すのはいつもの子供染みた優越感からくる独占欲。
もちろん半分は本心だけど。


「なんだと?だが大丈夫だ!あの冷たい視線もまたいいからな!」


想像でもしているのかちょっと頬を赤らめて目をキラキラさせながら言う西谷夕に田中龍之介の時同様、毎度引いている。

そうだ。こいつは前からキーちゃんを変な目で見る変態だった。最近バレーしている姿ばかり見ていたから忘れがちだっただけ。これがいつもの西谷夕だ。


「キーちゃんが面白い後輩たちが入ったって言ってたからカッコいいとこ見せておいでー」
「おぉ!面白い後輩かーそれは楽しみだな!リベロはわたさねぇけど」
「おーその意気だーがんばれー」


まぁ実際は結構な変わり者ばかりだと聞いて私が勝手に面白いと思っただけだけど。きっと西谷夕は変わり者の方が馬が合うだろうし。田中龍之介みたいに。

隣で結衣が「葵、結構な棒読みなのに気にならないのか」と不思議なものを見る目で西谷夕を見てるけど、まぁいいか。本人まったく気にしてない、、、いや、気付いていないし。


「それより、今年度から顧問が現国の武ちゃんになったみたいだから今日からですって挨拶しといたらー?」


だから早くどっか行ってという裏の気持ちになんて西谷夕が気づくはずもなく、「そうだな!」と言って職員室へダッシュしていく後ろ姿を見つめる。


「葵…もしかして…」
「ここでは聞かないで」
「…後で相談に乗ろうか?」
「お願いするわ」


昔から知っているだけあり、私が複雑な気持ちでいるのを察した結衣からの有りがたい申し出を素直に受ける。

誰かに聞いてほしい。だが、こんな誰が聞いているか分からないようなところで言えるほど私の精神は強くない。それに、誰にでも話せるわけじゃない。

幸いなことに心理学研究部の部室は、本棚をパーテーション代わりにして部屋を3つに分割している為、半個室状態だ。他の子たちは大人数で一番大きな机に集まる事が多い為、他2つはたいてい空いている。ま、心理テストの本だけ持ってどこかへ行ってしまう子も多いけど。
いくら心理テストをしたって恋愛がうまくいくわけでもないし、人付き合いが良くなるわけでもない。それでも心理テストをしたくなる気持ちが少しわかる今日この頃だ。気持ちが冷める方法でもわかればいいのに

チャイムが鳴って席に戻ってからもやる気が起きず、午後からの授業はぼーっと窓の外を見ながら過ぎていった。

消し去ってしまいたい。
私は、幸せになる資格なんてないのだから。
叶う事のない恋心など抱いているだけで辛い。

こんな誰かを好きになるなんて気持ちが早く無くなります様に。


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