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03 スノードロップの発芽

部活停止処分中に行くようになったママさんバレー。
そこで思いがけず出会ったのは、よく潔子さんと一緒にいる女子、高宮葵だった。

高宮は学校でも学年問わず噂になるくらい可愛いのに、人懐っこく声のかけやすい奴だ。そして何より潔子さんと仲がいいし、潔子さんの事が大好きだ。潔子さんLOVE度は俺や龍と同類だと思う。

可愛いのにおもしれーやつ。それが俺にとっての高宮の印象だった。でも最近は、スゲー奴だって知った。

1ヵ月の部活停止処分。それは1週間の停学よりも、俺にとって反省をするだけには長すぎる期間だった。

バレーがしたい

そんな思いが全身を支配し、居ても経ってもいられなくなった。まだ停止処分になって2日目だが、体が動かしたくてしょうがない。夜なら体育館も空いているんじゃないかと、母校の体育館をちょっとだけ拝借しようと忍び込んだ。

そしたら体育館は明かりがついていて、中からボールの音が聞こえる。音につられて体育館へと急ぐと、そこではママさんバレーと思われる団体が楽しそうに、でも真剣にバレーをしていた。
俺たちに比べたらスピードもゆっくりだしパワーも弱いけど。でも、なんとなくこのチームは強いと思った。


「すみませーーん!!俺も参加させて下さい!!」


試合形式の練習が終わるのを見計らって声をあげる。そんな俺にみんなが呆然と見つめる中、声を発したのが高宮だった。


「え?!西谷夕!?なぜいる!?」


高宮が一番入口に近い所に居たのに気付かなかった俺は、駆け寄りながら話しかけてきたことにビックリした。


「高宮?!お前ママさんだったのか!?」
「そんなわけあるか―!!母親の付添いだわ!」


咄嗟にでたセリフに、高宮から手に持っていたバインダーでツッコミがはいる。ちょうど角が腹に当たるナイスツッコミだぜ。


「なーに?葵の友達?はっ!まさか彼氏を呼んだとか!?」


俺が腹を押さえている所に現れた女性は、先程の試合で点を取りまくってた人だ。
きっとここのエース。


「お母さん・・・。学校の同級生。バレー部だから知ってるだけだよ」
「ちわっす!」


どうやら高宮のお母さんだったらしその人に挨拶し、高宮に目を向けるとすっげー迷惑そうな顔で「で?」と言われた。


「?で??次の言葉忘れたか?」
「違うわ!!それで?って意味!何で西谷夕が居るのかって聞いてるの」
「なんだそのことか。バレーがしたいからだ!」


だから参加させてくれと頼むと、高宮は深いため息をつき、お母さんは爆笑していた。


「いい!西谷夕君だっけ??君面白いね!やる気もあるし参加しな!」


いいよねー?とお母さんが大きな声で周りの人に確認を取ってくれると、すぐに皆から良いよーと言う返事が帰って来た。

あぁ、すげー信頼関係が出来ているいいチームだ。皆の声とか表情だけでそれがわかるくらいいい雰囲気。

負けてらんねぇ
早く戻って部活がしてぇ
また旭さんと一緒にバレーをするんだ
その為にも、もっともっとうまくならねぇと

そう思わせてくれるチームに感謝し、ママさんバレーをやってる週2回は必ず参加させてもらうようになった。

そんなある日、練習試合でケガをした人がいた。たぶん捻挫。
すぐに高宮により応急処置がされたが、その時の高宮はすごかった。テキパキと骨に異常はないかとか判断し、素早く処置を行う。いつもと違う真剣な目で、なんかかっこよかった。


「葵ちゃんの処置、ほんとプロ並みなのよ」


ついジッと見てしまっていたらしく、隣にいたママさんが少し笑いながら教えてくれた。


「スポーツ治療の人目指してるらしくてね。後、細かい心遣いとかもすごいのよー!毎回みんなの体調把握したりね」


アフターケアも欠かさないし、本当に頑張り屋さんのいい子だわーと感心しきりの様子。
確かに毎回ご飯食べたかーとか声かけてくれてた気がする。気にしてなかったが、あれは体調管理の診断だったのかと初めて知った。

その後も小さなケガですら回復具合をきちんと確認している姿を見掛けた。捻挫した人も、今日来た時はどことなく不安そうだったが、高宮がテーピングして話した後はすっきりとした笑顔になっていた。


「やっぱお前、すげーな」
「?なにが?」
「応急処置とかコレとか!」


練習後、ストレッチで俺の背中を押している高宮に改めて言ってみる。ちなみに今、俺の腕には高宮お手製の保冷剤入り包帯(腕用)が巻かれている。

自ら俺のストレッチの相方を名乗り出た高宮は「今日、痛さで一瞬反応遅れてたようだったからちゃんと処置しときなさい」と言って真っ先に巻いたのだ。

それが保冷部分がぴったりフィットなのに冷たすぎず、きちんと巻いているからずれてもこない優れもの!こういうのを各部位に使えるように何個か作ってあるらしい。本当にすげーと思う。


「まだ、私にできることをやっているだけだけどね。もっと勉強してできることを一つでも増やしていかなきゃ」


そう語った高宮の目は力強くて、俺も負けてらんねーって思った。それが伝わったのか「無茶はだめだよ」と言って、次々体勢を変えて2人でしかできないストレッチをしていく。
高宮はストレッチもうまい。すげー伸びる。


「古い打撲はちょっと温めたりするといいよ。後、ミネラルとりな。ほうれん草とかワカメとか茸とか」


男の子だから肉食べたいと思うけどそればっかりじゃダメだよとわかりやすく教えてくれる。治癒力が上がるからってことらしい。帰ったらかーさんに言ってみよう。


「そういえばここがない時どうしてるの?」
「お?ボールあるから壁とか使って練習してるぞ。物足りないけどな」


実際1人でやる練習には限界がある。
自分で投げてるとある程度跳ね返りとかも予想できちまうし、打つより威力も弱い。


「ん〜無茶やりそうだよね、西谷夕って。放課後付き合ってあげようか?」
「マジか!!!いいのか!?」
「思ってたより停止期間長いみたいだからね。週2じゃ物足りないでしょ」


田中龍之介と騒げないし、キーちゃんにも会えないしねとニヤニヤ笑う。確かに潔子さんに会えないのは辛いし、早く部活に参加してぇ。


「あ、そういえばいいものあるわ」


ストレッチが終わったところでそう言いながら自分の荷物の方へと足早に向かう高宮。
気になってついて行くと、大きなお弁当箱が取り出されたところだった。


「今日のお昼にキーちゃんと食べたんだけど、たくさん作っておいたんだよね〜」


開けられたお弁当箱の中には大量のおいしそうな天むすが。
ぐぅぅぅぅ


「・・・っぷ!くくくっ!」


見た途端に素直に鳴りだす俺のお腹に高宮がプルプルしながら笑いだす。


「しょーがねーだろー!動いたら腹は減るんだ!」


プルプルふるえて危ない高宮の手から弁当箱を奪う。まだ笑っている高宮に、これ皆にも配るんだろ?と聞くと涙目でうんと苦しそうにうなずく。
そんなに笑う事ねーだろ。


「みなさーーん!これ高宮からの差し入れらしーーっす!天むす食いますかー?」


笑ってしゃべれない高宮の代わりに叫ぶと、ストレッチを終えた人から次々に天むすを受け取りに来る。
ほら見ろ!やっぱみんな腹減るだろ!
ってかうま!!冷めてもうまい天むすとか初めて食った!


「はーー笑った、笑った。苦しかったー」
「笑いすぎだろ。ってかうまいなこれ!サンキュー!またくれ!」
「ごめんごめん、また作るし、いいもの見せてあげるから許してよ」


そういって自分の携帯を取出し、画面を見せる。
っ!!!!!!なんだこれ!!
潔子さんが!潔子さんが!!!
エプロン姿ではにかんでいらっしゃる!!!!


「くはっ!美しすぎる!!!くれっ!!」
「やだよーだ!キーちゃんからの着信画面にするんだもん」
「潔子さんからの電話だと!?録音ものだな!!」


なんてこんなバカなことを一緒に騒いでいられる女子は少なく、高宮の隣はとても自然でいられて楽しい。だから、もう一度見せろと携帯を奪い合って笑っている高宮が、どことなく辛そうだなんて気づきもしなかった。


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