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02 アスチルベが咲くとき


「ごちそうさま」


そういって綺麗に手を合わせるキーちゃんに、お粗末さまでしたと笑顔で返す頃には正午2時を過ぎていた。
あの後ミーティングはすぐに終わったが、スーパーに寄った帰りに変な男につかまり手間取ってしまった。中々しつこい方で、家まで付いてきそうな勢いだったのでわざと遠回りして撒くはめになったのだ。


「帰り本当にしつこかったね!キーちゃん、部活帰り遅いんだから気を付けてね!」


しかも、私の記憶違いでなければあの人は前にも何度か近所で見た事がある。ストーカーとか悪質なやつでは無い事を祈るばかりだ。
キーちゃんはとっても綺麗だから変な男が寄って来やすいのに、本人が自覚しているのか怪しいし…。以前、あまり愛想よくできないから話しかけられないとか言っていた。
現に田中龍之介や西谷夕みたいなのが近くに居るのに何言ってるんだと力説したが分かってもらえなかった。

今後も何度か見掛ける様なら澤村先輩か菅先輩に報告しようかな。あまり気にしてくれてる様子の無いキーちゃんを横目に食器を片づけだす。キーちゃんも当たり前のように流しまで食器を運んでくれて、洗い物をしてくれる。
前にいつも私がご飯作ってるから洗い物くらいはやらせてと強くお願いされたのでお任せしているのだ。

キーちゃんのエプロン姿も見れるしね!!
ちなみにこのエプロンは、私がエプロン姿見たさにキーちゃん用を買って置いてあるのだ。もちろん白のフリル付き!


「キーちゃんいつもありがとう!じゃあ私は余った天むすを弁当箱に詰めようかな」
「沢山余ったね。誰かにあげるの?」


キーちゃんは洗い物の手は止めず、未だ大量にある天むすを不思議そうに見ている。
まぁ20個以上余ってればそういう反応になりますよね。


「今日はお母さんのバレーに一緒に行くからみんなに差し入れしようと思ってね」


それでも余るから少し持って帰る?って聞いたらちょっと恥ずかしそうにうんって言ったキーちゃんの可愛さにやられた。犯罪級に可愛すぎる!!
思わず写メを撮って怒られてしまった。(データ消さなかったけどね!)

それから勉強したり、お互いの部活の話をしたりして、親が帰って来る時間になると別れる。小学生の頃はよくあるパターンだったが、最近はキーちゃんのマネージャー業が忙しいので久し振りのことだ。なのに恋バナしないで終わるってのは年頃の女の子としてどうなんだろう…。

キーちゃん、好きな人いないのかな?



「葵ー!そろそろバレー行くよー!」


家族だんらんの時間を終え、少しぼっとしていた所にかかる母の声。すでにジャージ姿でウキウキとしている。
アノコトがあってから落ち込んでいた母に、外に出るように働きかけたのは何年前だったか…。ママさんバレーが思いのほか合っていた様で、今では笑顔も戻り、週に2回の集まりに休まず参加するほどだ。

そして中学の頃、たまたま見に行った母の試合で怪我をした人を手当てしたのをきっかけに私も誘われるようになった。その時にはもう理学療法士を目指していたのでとてもありがたく誘いを受けた。
普段はもっぱらマネージャーみたいに記録を取ったりするだけだが。


「すぐ準備するー!」


部屋で素早くジャージに着替え、記録用紙や救急箱を持ち、新しく買った薬をポケットに入れて玄関へ向かう。もちろん天むすも忘れずに持った。
早く行きたくて仕方がない母にお待たせと言って車へ乗りこむ。


「今日こそ夕くんからサービスエース取るぞー!」


母の決意を聞きながら少し離れた千鳥山中の体育館へ。やる気満々なのはいいことだが、運転が荒くなるのはちょっと問題だ。到着したのは集合時間の30分も前だが、中からは既にボールの音が聞こえている。

ここ最近、いつも一番乗りできて練習をしている人物。そっと館内へ入り、その人へ向かって母は突然ボールを打ち込む。が、彼は瞬時に反応し、とても静かで綺麗なレシーブを決めた。


「く―――――!!また捕られた―――!!!」


子供の様に悔しがる母に大人げないと思いながらも、とても楽しそうなのでいつも不意打ちを止めたりはしない。
だって、彼なら絶対にレシーブできるってわかってるから。


「ちーーーっす!今日も俺の勝っす!」


ちなみにこの勝負を持ちかけたのは母の方だ。
練習中もいつも拾われるのが悔しいからと言う母に、いつでも受けて立ちますと言って笑った彼。その言葉通り不意打ちで打つのも最近のお決まり事。

そして母はいつも綺麗に拾われて、スポーツドリンクをおごるのだ。


「あ!!高宮ーー!今日もしっかり俺のスーパーレシーブ見たかー!」


そう言ってニシシっと笑う彼は、1年前からよく学校で見るようになったとてもバレーが好きな男の子。
そんな彼にぐっと親指を立てて返せばよっしゃ―!と嬉しそうな笑顔が返ってくる。

始めはキーちゃんに近寄る煩いやつと思ってた。
どちらかと言えば敵視してた。
田中龍之介と絡んでやたらと騒いでいるやつ。
彼らがキーちゃんに近寄って来るたびに私は威嚇していた。

でもバレーをする姿は素直にカッコいいと思ってた。

それが最近になって急にママさんバレーの練習に参加させて下さいと言ってきた。いま、部活で練習できないからと。

学校以外で彼に初めて会った。キーちゃんに絡んでいない普通の彼は、やっぱりバレーが大好きで、まっすぐで。
とても頼もしく、男らしかった。

つい先日、練習試合中に捻挫をしてしまった人がいた。男性にしては身体の小さな彼は、それでも軽々と彼女を抱え、椅子に座らせた。

そして


「大丈夫っす。皆強いんで任せちゃいましょう」


と力強く言った。
その一言で皆の心配していた雰囲気はがらりと変わった。彼女の為にも負けられないと。
試合は見事に逆転点勝利。皆に囲まれ、お礼を言われているのに「皆さんさすがっす!!」と言う彼の背中がとても大きく見えた。

その瞬間、やばいと思った。

キーちゃんにはついつい色々報告したくなっちゃうけど、二つだけ言っていない事がある。
一つは彼、西谷夕がママさんバレーに参加している事。

そして
最近、私が西谷夕を好きになり初めている事。

どちらも言っても問題ないのかもしれない。でも、西谷夕はキーちゃんが好きだ。
好きな女の子に秘密の練習を言われるのは男として嫌だろうし、彼は態度で示すってタイプだろう。見てわかる程の直球タイプだし。

キーちゃんが好きだーって見てわかるような彼のことが好きだーなんて…。そんなのキーちゃんに言えるわけない。

そんな人の気も知らず目の前で母とじゃれている彼になんだか腹が立ち、私もボールを投げつけてみるがやっぱりあっさりレシーブされてしまった。


「なんだなんだ!今日から高宮も参加か?」


驚きながらも完璧にレシーブした彼に「覚悟しとけよー」と笑い返す。あぁ、ちゃんと笑顔になっていただろうか。


「おう!いつでもかかってこい」
「スポドリは奢らないけどね。・・・・あ、今日はこれあげるー」


なんとも勇ましいセリフにちょっとキュンとしながらも平然を装い、ポケットから薬を取り出し投げつける。
見事に手元に飛んで行った薬を受け取り、キョトンとした顔もちょっとかわいいとか思っちゃうあたり相当ヤラレてるのかもしれない。

これ以上好きにならないようにしないと。


「打ち身に効く薬ー!色々試してそれが一番効くから塗るといいよ」


そういって腕をトントンと叩いてアピールすれば、照れ笑いをしながらサンキューとさっそく薬を塗り出す。本当に素直。

さっそく効いてる気がするとかありえない事を言っている西谷夕にそう思う気持ちも大事だと返し、自分の準備に取り掛かる。集まりだしたママさんズに挨拶しながら個々の状態を確認しなくちゃ。

食べ過ぎて来ちゃったーとか、もう仕事でヘトヘトーって人は覚えておき、練習中ムリさせないようにしている。練習が楽しいとつい張り切り過ぎちゃうみたいだからね。

それと

先日の練習試合で捻挫をしたママさんが、軽くなら動いていいと言われたとかで今日からちょっと練習に参加するらしい。あまり無理をさせない程度に楽しんでもらえるよう、昨日覚えたテーピング方法をやらせて貰おう。痛みが抑えられるのはもちろん、変な癖がつきにくい巻き方だ。

皆、まだしっかり学校とかで学んだわけでもない私の対応を信じてくれる。信じてまるっと体を預けれるって本当にすごいと思う。そんな暖かい人ばかりだ。

少しでも、皆さんの力になれますように。
そう心に誓い、みんなの所へと急いだ。

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