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20 キミに咲くアリウム


まだ日も登らない早朝。
このメンバーでこんなに早くからバスに揺られるのは二回目の事だ。
誰かしらの寝息が響く車内は静かで、時より烏養コーチや武ちゃんの話し声が聞こえるだけ。心地よい微振動のおかげか前回は真っ先に眠りについていたはずなのに、今回なかなか眠れないのは以前はなかった高宮の姿かがあるからだろうか。


期末テスト明け、赤点回避を達成し意気揚々と高宮の元へいった俺たちは当たり前のように参加すると思っていた高宮が東京遠征へは行かないと言ったことにかなりの衝撃を受けた。
ゴールデンウィークの時も参加してくれたのだからと何度も何度も説得したが高宮が快い返事をくれることはなく、結局は親の承諾など手続きも間に合わないからと大地さんにも止められてしまった。

近づけたと思ったらまた遠ざかる。
高宮に距離を取られているのはやっぱり気のせいなんかじゃないんだな。
明らかにバレー部に顔を出す回数が減ったのは俺が告白をしたせいなのかもしれないが、進展する可能性がゼロに感じられないのは俺の自惚れなのだろうか。
時折みせる仕草や表情が嫌がっていないと訴えてくるようで。可能性があるのなら俺は高宮を好きでいることはやめないし、諦めることもできない。
だから好きなヤツとは沢山一緒にいたいし、俺の活躍も見て欲しいと思ったんだけどな。

もちろん高宮が居なくても合宿はワクワクしたし、全力で挑んだ。
だが、音駒のメンバーから聞こえてくる「高宮ちゃん居ねぇのな」なんて会話にいちいち反応してしまう自分が情けなかった。
そのせいって訳ではないが、今回の合宿で考えさせられることは多かったように思う。

帰り際の大地さんと音駒の主将との会話で、


「つぎ来るときは高宮ちゃんも連れて来て。音駒は高宮ちゃんを所望する」
「高宮はやらないぞ?」
「独り占めはよくないぞ〜」


そんな言葉遊びを含むやり取りにさえモヤモヤとした感情を抱いてしまい、龍にすげぇ顔してると指摘されたりもした。

だから、今回の夏休み合宿に参加してくれたことが心底嬉しいと思う反面、少し不安もあったりする。
高宮はすげぇやつだから、俺以外の奴だって好意を持つ可能性は十分にあると思う。
だいたい、今回の参加は俺や龍の誘いに答えてくれたわけでなく、手当てができる人として武ちゃん自ら頭を下げたからだと聞いた。
合宿期間中はどの部活も盛んに活動しているし、養護員が常にいるわけでもない。合同合宿は人数も多いし何が起こるかわからない為、知識がある人がいた方がいいという判断らしい。さすがに高宮も武ちゃんや潔子さんに頭を下げられては断れなかったのだろう。
・・・俺から誘った時は受けてくれなかったけどな。

俺の中にあるよくわからない不安を拭い去るには、やっぱり高宮にカッコいいところを見せて惚れてもらうしかないな!
バスの前の方の席で潔子さんと並んで座る高宮の姿は見えないけれど、そこに居るだろう高宮の背中に一人で意気込みを誓い、着いてからしっかり動く為にも目を閉じ眠りについた。



「なぁなぁ!もしかしてあれが東京タワー?!」


前回の俺らと同じようなことを叫ぶ翔陽を音駒のセッターが戸惑いながら否定するなか、埼玉の蒸し暑い日差しを浴びる。東京よりは涼しいという埼玉は仙台よりもだんぜん暑く、ジリジリと刺すような日差し以外にもムワッと沸き立つような暑さがどこか気持ち悪い。

前回よりもさらに暑くなってる気がするな。
寝起きに眩しい光を浴び、たまらず眉をひそめる。けして高宮とトサカの主将が楽しそうに会話しているからじゃないと自分に言い訳をつけて。

ゴールデンウィークの時になぜか妙に親しくなっていた二人だ。再会したら楽しげに話すなんて当たり前の事だろう。二人の会話に聞き耳を立てるべきか、いっそ気にせず先に行くべきなのか。自分でもどうしたいのかわからないこの感情が嫉妬ってやつなんだろう・・・・カッコ悪い。


「だぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
「うぉ!?どうしたノヤッさん!?」
「うるさいぞ西谷!!」


うじうじモヤモヤしてんのは性に合わん!!!俺はやれることをやるだけだと何度も思っているだろ!そう自分に気合を入れて叫んだ声はかなり周りに響いたようで、驚いた龍の声や大地さんのお怒りだけでなく、もれなく全員の視線を集めてしまったが、まぁ仕方がない。
みんなと同じように訝しそうな目で俺を見る高宮にニシっと笑いかけ、一番乗りだと意気込んで体育館までダッシュした。

あぁ、早くバレーがしてぇ
まだまだ進化途中だが、昔とは違う俺を見てもらいたい。バレーをしている時はカッコいいと言ってくれる、高宮に。

荷物を置いて準備し、意気揚々と体育館へと急ぐ。
これでバレーができる。高宮の笑顔がみれる。
そう思ったのに


「・・・・・な、んで・・っ」


体育館に入って挨拶を交わす最中、急に高宮が震えながら苦しそうな声を上げた。


「・・・高宮?」


俺の呼びかけに答えずに荒い呼吸を繰り返す高宮に、さすがに周りも異変を感じたようで次々と集まってくる。その中にはさっきまで高宮の視線の先にいた梟谷のメンバーもいて、再び彼らを視界に居れた高宮の顔は血の気が引いて真っ青になっていた。


「・・ん、なさい・・・ごめんなさい」
「おい、どうした?高宮?!」
「葵どうしたの?!」


俺の声も、駆け付けた潔子さんの声ですら高宮には届いていない様で、どこか彷徨った視線で謝罪の言葉を繰り返す高宮からは大粒の涙が流れ続けている。

そして


「ゆるして・・おにいちゃん」


その言葉を最後に、高宮はその場に倒れ込んで意識を手放してしまった。

いったい何が起こっているのか
誰も何もわからない中、誰よりも冷静だった武ちゃんが医務室へと指示を出す。


「俺が連れていく!!!」


沢山の手が高宮に伸びる中、皆の手を遮って高宮を抱えた。不思議そうな目や、体格を見てなのか変わるという声を遮って歩き出す。
そりゃあ、大地さんとか旭さんの方がしっかり抱えられるかもしんねぇ。そんなのはわかってるけど。


「好きな女なんで譲れません」


コイツに触れさせたくない、なんて俺の我儘だ。そんなこともわかっている。でも、俺はコイツを支えれる男でありたいから。
頑として譲らない俺に周りも何も言えなくなったのか、やけに静まり返るなか体育館をでた。
医務室が分からない俺を案内すると森然高校のマネージャーさんが付いてきてくれ、俺たちを追いかける様に武ちゃんも一緒に体育館を出る。

腕の中の高宮はやっぱり顔色が悪いままで、涙が頬をつたっていた。


「西谷君。高宮さんをベッドに寝かせたらキミは戻りなさい」
「っっ!でも!」
「君は何をしにここに来たのですか?高宮さんには僕が付き添いますから。それに、高宮さんが目覚めた時に君がバレーをしないでココにいたとなれば高宮さんが責任を感じて困ってしまうでしょ?」


高宮を困らせる。そう言われてしまえば何も言い返す事なんてできず、苦しそうな高宮を残し俺は医務室を去った。


俺は何も知らない

高宮が倒れた理由も
涙の意味も
俺らを避けていた理由も

俺の事をどう思っているのかも

俺は何も知らない


だから、教えてくれよ
眼が覚めたら、ちゃんと話してくれよ

どんなことだっていいんだ

俺は、お前が知りたい

お前のこと、たくさん俺に教えてくれよ

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