好きって口に出すと、なんかもっと好きになっていく気がする。
あいつに、高宮にもっと会いたくなる。
「高宮ー!いるかー??」
告白と頑張る宣言をしてからまた頻繁に訪れるようになった高宮のクラス。
ドアを開けるなり叫ぶ俺にクラスの奴らも慣れてきたようだが、高宮だけはいつも困ったような顔をする。それは嫌がってるって顔じゃない・・・と思ってるが、理由はなんとなく聞かないでいた。
「‥今日は何?部活なら顔出さないよ?」
「なんでだ??今日も心理学って方か?」
それっぽい難しそうな本を読んでいる最中だったから指させば、「そうですよーだから無理」っと視線を本に戻しながらばっさり断られる。
最近いつもそうだ。いくら誘っても応じてくれない高宮は、やっぱり俺を避けているのだろうか。
そうは思うものの、嫌われてる感じもないし、何より傷の心配など身体を気にかけてくれてるってことは俺に関心があるってことだ。
だからまだ、俺は諦めるなんてこれっぽっちも思わねぇ。
「じゃあまた明日誘うな!それか部活終わってからでもいいから顔出せよ」
「部活終わってからって‥意味ないじゃん」
「そんなことはねぇ、俺が嬉しい!」
だから来いよ!って力強く言えば、驚きながら頬を少し染めて「あんたは・・・気が向けばね」なんて言うもんだから自然と顔がにやけた。
そんな俺らのやり取りに、いつもの様にクラスの奴らから「相変わらずなだー」だの「西谷めげんなー」なんて野次が飛んでくるから「おー!任せろ」って返したら高宮に叩かれた。
「ほんと西谷夕には恥ずかしいって感情がないの?」
「何が恥ずかしいことなんだ?」
お前のことが好きだって気持ちも、好きになってもらいたいし、会いたいから声掛けるのも、なんも恥ずかしいことなんてねぇ。
嘘偽りない、俺の本心なんだから。
「うん、そうだね。西谷夕はそういう男だよね」
何か一人で納得してため息をつく高宮はやっぱり困った顔をしていて、その理由を知りたい気持ちをグッとこらえた。
なんか、やっぱそれを聞くのは今じゃない気がすんだよな。なんとなくだけど。
だからワザとその話しを終わらせるために「今日来いよな」って念を押して誘ってやった。
「はいはい。キーちゃんと一緒に帰りたいしいいよ。遅くなるだろうけど」
「マジか!!よっしゃー!絶対だぞ!!」
告白以来、初めてもらえた了承に大げさなほど喜ぶ俺を「うるさい」と一括しながらも、やっぱりどこか恥ずかしそうにしている高宮を見ると浮かれてしまう。
コイツが彼女だったらいいのに。いや、恋人になって見せるけどな。
その為にもっとカッコイイところが見せれるように練習しねぇと!
高宮の為に上手くなりたいわけじゃなけど、高宮がいるからもっと強くなれるきがする。
気持ちは浮足立っていたが、気合は十分に練習に励んだ。まだまだ高宮が来ないだろう時間から張り切りすぎて叫びすぎたら大地さんに怒られたけど。
そんな浮かれ気味な俺を一撃で沈めたのが武ちゃんの一言。
「来月になったら、期末テストあるの、わかるよね」
音駒との練習合宿とやらで東京に行く気満々でいた俺らの頭に全くなかった事実を言い渡され、一瞬現実から目を背ける。
だけどそれは許されるはずもなく、翔陽がコーチにすがるもどうする事も出来ず、悲鳴にもにた叫びが体育館中に響き渡った。月島はあびきょーかん?とかよくわからない事を言って笑っていたが、叫んでいる奴らにその意味が分かるやつはいないのが残念だ。
その日の練習後は大地さんから説教を食らい、何としてでも赤点回避をするようにと言い渡された。
「どうするノヤっさん・・・」「どうしたらいいんだ龍・・・」
絶望からその場に崩れる俺たちにはもはや仲間に頼るという選択肢しか残されていない。
俺と龍だけでは絶対に乗り越える事が出来ないからな!
力様へと教えを乞えば、想定していたのか呆れながらも教えてくれると言ってもらえた。
「ただし、俺も自分の勉強もあるから部活の前後だけな。休み時間とかは自分でやれよ」
「「ちから〜〜〜〜」」
それだけでも十分だと二人して力に抱き着く。
まぁすぐに振り払われたけどな。
丁度その時、潔子さんと高宮の声が外から聞こえてきた。練習中に顔を出さなかった高宮はどうやら今終わった様で、間に合わなかったか〜と残念そうな声を上げている。
「あ、休み時間なら高宮さんに聞けばいいじゃん。西谷、仲いいんだろ?」
彼女に聞けば百人力だろと告げられた言葉に思いっ切り目を見開いた。そうだ!高宮がいるじゃないか!何と言っても高宮はあー見えて学年1位様!高宮が味方に付けば怖いもんなんてねぇ!
「高宮ーー!」
「「わーー!!!」」
早速言ってくると外へ出ようとした俺に成田や木下が騒ぎ、力が首根っこを掴み制止させる。
「ズボン穿いてから行け!!」
「ブッヒャッヒャ!ノヤっさん慌てすぎだろ」
よくあるバカ騒ぎを繰り返しながらも素早くズボンをはき、部室の外へと飛び出した。
俺たちの声が聞こえていたのか、心底呆れた顔でこちらを見上げている高宮にかまわず、二階から叫ぶ。
「高宮ーーー!!勉強教えてくれ――!!!」
「ウルサイ西谷夕!叫ばなくても聞こえるわ!」
耳を押さえながら眉を顰める高宮に、潔子さんが葵もにぎやかだよと笑う。
潔子さんの笑顔が見れたことも、高宮が明るく話してる姿も拝めることができてホクホクした気持ちのまま、階段を駆け下りる。
後ろから龍が「待ってくれノヤッさん!」と慌てて付いてきているのにも気づかないくらい、高宮ばかり見ていた。
「頼む!勉強教えてくれ!」
「俺もお願いシャーッス!」
二人して深く腰を降り、頭を下げる。
少し高宮が引いたような気もするが、頭の上から潔子さんが「私からもお願い」と神のような口添えをしてくれたおかげで、高宮も無下に断れなくなったのだろう。
「しょーがない、キーちゃんの為だ。二人まとめてみてあげるよ」
その代わり赤点取ったら許さないんだからと念を押す高宮の頼もしさを崇める様に、その場にひれ伏した。あぁ神様仏様高宮様。これで絶望的だった未来に、まばゆいばかりの光が射したようだ。
俺としては高宮と一緒にいる時間が増えるし、勉強も教えてもらえれば東京にも行ける。まさに一石二鳥ってやつだな!
この時俺は、高宮も一緒に東京に行くんだと思い込んでいて、テストをクリアした後の練習が楽しみにで仕方がなかった。
高宮が東京ってものを拒んでいるなんて少しも考えたことなく。
ただ
一緒に居たいと願っていただけだったんだ。
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