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忘れない、忘れたくない 07

あの日、お前が消えたあの景色が、またお前を連れてきた。


「っで、どーなってんだ??」


葵に会えた嬉しさで未だにグチャグチャの頭は自分で考える能力を無くした様で、いま何がどうなっているのかわからず腕の中の葵へ質問を投げかける。
説明するから落ち着こう?っと、葵は笑いながら座る様に俺を促すためにそっと体を離そうとするから、反射的に抱きしめる腕に力を込めた。

離してしまったら、また居なくなってしまうかもしれない。
やっと会えた葵に今度は確かなぬくもりがあって。一度そのぬくもりを感じてしまったら離すのが・・・無くなる事が怖くなった。


「大丈夫!もういきなり消えたりしないから」


そんなに分かりやすい顔でもしていたのか、葵が俺の欲しかった言葉をくれるからゆっくりと腕の力を弱める。
それでも完全には離れたくなくて、離れそうになる葵の手に自分の指を絡めた。
お互いに手を繋いだまま階段の一番上に腰かけ、桜舞う夕焼けを眺める。


「あの日ね、雪の中のこの景色を見た時に全て思い出したの」


そう言って語り出したのは、最後に会ったあの日のこと。
あの日、あの瞬間、目を見開いて固まっていたのは感動したからではなくて、失っていた記憶がすごい勢いで脳内を流れていったからだと言う。
そんな大変な状態に気付かず置き去りにして帰ってしまったあの日の自分を責めたくなったが、今はとりあえず葵の話しを聞くことにした。


「まずはね、私、死んでなかったみたい」
「そうなのか!?」
「うん、なんだろ?生霊?幽体離脱?まぁそんな感じで、体はずーっと眠り続けたままだったんだって」


元々葵がこの神社に居たのは、レギュラーに選ばれた高1の冬に必勝祈願とトレーニングを兼ねてこの神社を訪れた際に、あの日と同じような夕暮れの雪景色に気を取られ階段で転倒したせいなのだと言う。
だから幽霊だった葵は階段に近づくのが怖かったのかと納得できた。
だがあの日、原因である階段に近づいたことや、落ちた日と同じ景色を見たことですべてを思い出す事ができ、体へと戻る事が出来たようだ。


「もうね、全部思い出した後にスーって意識が飛んでいきそうになった瞬間はもうダメだって思たよ。あぁ、成仏しちゃうんだ。二度と木兎くんに会えないんだって」


だから消える間際に俺の名前を叫んでみたが、そこで意識は途切れたのだという。


「でもね、次に気が付いたら病院のベッドの上で、しかもお母さんが隣にいて泣いてるの」


もう死んだと思っていたから最初は戸惑ったが、病院の匂いや自分に繋がれた点滴。駆けつけてきた看護師や医師の姿を見てすぐに状況が理解できたらしい。
死んでなかったんだって。


「両親があんなに泣いたの、初めて見たよ」


葵は2年も眠ったままだったらしく、意識が戻ってからすぐにリハビリもして歩けるようになったけど両親が片時も離してくれず、中々外出がかなわなかったのだと。
そりゃあ親からしたら娘が元気になっていく姿は嬉しいし、もしまた目を離したすきに消えてしまったらって思ったらそばに居たいよな。
俺だって、今でもこの手を離したら消えてしまうんじゃないかと思って離せずにいるんだし。


「でもね、元気になって真っ先に思ったのは木兎くんに会いたいって気持ちだったの」
「俺か!?バレーしてぇとかじゃなくて??」
「ははっ!確かにバレーもしたかったけど、それよりも木兎くんに会いたかったの」


だから必死にリハビリもこなし、学校にも復学し、親も説得して何度もこの神社に足を運んでいたらしい。
だが、何度来ても俺とは出会えなかったのだという。


「木兎くんは忘れちゃったのかなって思ったけど、でもどうしても会いたくて」
「俺も何度も来たぞ!!何度も何度もお前捜しに来た。でも会えなくて・・」


神様のいたずらなのだろうか。
この一年以上、お互いに何度も通ったのに出会う事が出来なかったなんて。
それともこの景色を待っていたのだろうか。


「よかった。木兎くんが私の事忘れてなくて。私ね、どうしても会いたかったの。消える間際に思ったから。木兎くんが好きだって」


どうしても会って伝えたかったの。と、ほほ笑む葵の顔は抱きしめたことで視界から消えてしまったが、代わりに再び胸に感じる事の出来た温かさに涙が浮かんでくる。


「俺、もうお前はこの世にいないのかもって思ったけど・・・それでもずっと忘れられなくて、忘れたくなくて」


お前と初めて会ったあの日も、バレーをした日々も、お前が消えたこの景色も。
何もかも忘れられなくて、忘れたくなくて。
必死に探し続けていた葵がいま胸の中に居て、俺を抱きしめ返してくれて、好きだといってくれるなんて。
溢れ出る感情でいつもの様には言葉が出て来ない。俺も捜してて、会いたくて、好きだって伝えたいのに、出てくる言葉は一つだけだった。


「好きだ・・好きだ・・好きだ」


バカみたいにそればかりが口をつく。
好きだ。
お前が好きだ。

諦めなくてよかった。
忘れなくて良かった。
会えてよかった。


「うん。私も木兎くんが好き。大好き」


そう言って強く抱きしめ返してくれる葵を、さらに強く抱きしめる。
溢れ出た涙が久しぶりに頬を伝い落ちて葵を濡らしていくけど、気にしている余裕なんてこれっぽっちも無かった。

俺は今、世界一幸せかもしんねぇ。
好きな人に好きと言ってもらえて抱きしめ合えるこの瞬間にいつまでも浸っていたかった。

だけど、胸の中の葵が更に俺を喜ばせる事を言う。


「私ね、来年木兎くんの大学受験するよ!一緒の学校行きたいから」


だから今必死に勉強しているし、バレーだってレギュラー勝ち取るつもりでいるから待っててと笑う葵が愛おしくて、思わず唇に触れた。
軽く触れるだけのキスだったが、腕の中で笑顔から驚きの表情に変わる葵が可愛くてつい笑ってしまう。


「え!?なんで!?」
「可愛かったらついな!したくなった!」
「え〜〜ファーストキスだったのに・・・。もっとちゃんとしたかったのに・・・」


嬉しいけどなんか複雑ーっと赤い顔で拗ねる葵はやっぱり可愛くて。


「じゃあさっきの無しな」


そういって真っすぐ向き合って両肩を掴めば、さっきよりも顔を真っ赤にさせた葵が恥ずかしそうに目を瞑る。
その姿も可愛くて、これが俺の為だって思ったら嬉しくて。
さっきよりもしっかりと、長く唇を重ね合わせる。

夕日に照らされながらいつまでも唇を合わせる俺たちを隠すように桜吹雪が盛大に舞い上がっていたが、その景色が視界に入ることは無かった。


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お・め・で・と・う!!!
良かったよ――!ちゃんと結ばれたしチューまでしちゃったよ――!!!
シリアス終わらせてちょっとはハッピールンルンにしたいって思うとギャグっぽくなりそうな私を許して…。

めでたく結ばれましたが、もう少しだけ続きを書きたいのでお付き合い下さい!


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