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忘れない、忘れたくない 06

寒くどんよりとした日が多かった冬も終わり、穏やかな日差しが降りそそぐようになった春。少し前まで蕾だった桜も、気が付けば見ごろを終えようとしていた。
今年の入学式は桜舞う中でやんのかな。
去年の自分の時はすっかり散ってしまった後での入学式だったなと、はらはらと舞う桜を横目に、ぼんやりと過去を思い出す。


「木兎さん、大丈夫ですか?」


せっかくの春休みだからと赤葦と会っている最中だったことを忘れていた俺に、呆れたような、それでいて心配そうな声がかかる。
あの冬、急に葵がいなくなって動揺した俺はしばらく絶不調が続いた。すぐに全国大会だというのに調子の戻らない俺を見かね、赤葦はしつこく理由を問いただした。
本当は葵との思い出を話したくなかったが、「何でもない」では済まされない状況に観念して、俺は葵の事を赤葦にだけ白状している。

だから今でもあの神社に通っている事を知っている赤葦は、バレーをやっている時以外の俺をいつも不安そうな目でみてくるのだ。


「わりぃ赤葦、お前の大学の話だったな」
「いいですよ別に。どうせ木兎さん興味ないでしょうし」


話すなら今度試合でも組む話ですね、っとすぐさま俺が食いつきそうなバレーの話へと話題を変え手帳を開く赤葦に感謝しながら俺もスマホのスケジュールを開く。
いい後輩を持ったもんだと何度感謝しただろうか。


「じゃーな赤葦!大学生活楽しめよ!」


長居したファミレスを出て、明日から新一年生になる赤葦の背中をはたく。月日が過ぎて違う大学へと進んでも後輩としていてくれる赤葦にありったけの感謝を込めた。まぁ、痛いと睨まれたけどな。
そんなやり取りも久しぶりでニシシと笑えば、赤葦は「まったく・・」と、昔と同じようにため息をついた。


「俺なりに頑張りますよ。木兎さんも・・・早くあの人を忘れられるといいですね」


それじゃあ、と言って去っていく後ろ姿を手を挙げたまま見つめ続ける。いや、見つめるしかなかった。

忘れる??あいつを??
何言ってんだよ赤葦。そんなの無理に決まってるだろ?
忘れられるなんて・・・そんなわけない。忘れない。

だって、俺は・・・忘れたくないんだから。

それでも言い返せなかったのは自分でも『もう会えないかもしれない』と思い始めているからなのか。
そんな弱気な思考を追い出すように思いっ切り頭を振った。


「あぁ、、、、クッソ。会いてぇ・・・」


俺が白状したあの日以来、赤葦が葵のことについて何か言ってくることは無かったのに。なんで今そんなこと言うんだよ。何で…忘れなきゃいけないみたいに言うんだよ。

葵と一緒に見たことのない春の街並みを抜け、あの神社へと足をのばした。
ココの桜もピークを終えたようで、風が吹くたびに散っていく桜の中をゆっくりと上っていく。


「葵ー、きたぞー」


階段を上り切った先でのお決まりのセリフも、いつもの様に風に流されるだけ。相変わらず誰もいない境内をみて苦しくなることに慣れない心が息苦しさを訴える。
もう涙は出ない。カッコ悪くも散々泣いたから。泣いて、叫んで、喚いて。何度も何度も神様にお願いした。それでも、いまだにお前は姿を見せてくれないんだな。

定位置になりつつある賽銭箱前の階段に腰かけながら、吹き抜ける風を受けぼんやりと空を見上げる。何処までも青く澄んでいる空が眩しくて、今の俺の気分とは合わない気がしてそっと目を閉じた。

そうか、葵と掃除した時もこんな良く晴れた日だったから苦しいのか。

目をつぶったところで思い出されるのはあの日の空で。疲れ切ったと寝ころびながら見上げた景色が目の前に広がる。その時は隣に葵がいて笑っていたはずなのに。今は誰も笑いかけてくれない。

なぁ神様。なんでだよ。なんでなんだよ。
掃除した結果がこれって・・あんまりだろうが。
俺の願なんて叶えたくねぇって事なのか?一緒に居ちゃダメって事なのか?
俺は・・・たとえ幽霊だったとしても、ただ葵と一緒に居たかっただけなのに。


「葵ーーーーーーーーー!」


全力で叫んだって返事がないのは分かっているのに。来る度に、何度だって叫んでしまうお前の名前。
今回もまた境内へと響き渡って、それで終わると思ってた。


「・・・ぼく・・く・・」


俺以外の声が響くことのなかった空間に、遠くから微かに聞こえた声に全身が反応する。
もしかしたら知らない人の話し声かもしれない。だけど・・・。だって、あの声って・・。
信じられない気持ちのままゆっくりと起き上がり階段へと近づいてく。

いつの間にかだいぶ日が落ちかけてきている空が赤く染まっていて、その中をあの日の粉雪の様に桜が舞っていた。

『また一緒に見ような!』といった景色と酷似した中を、一人の女の子が駆けあがってくる。その姿が信じられずに階段の上で立ち尽くす俺に、階段を駆け上がって来た女の子は嬉しそうに、勢いよく抱き着いた。


「木兎くん!!!!やっと会えた!!!!」


今まで感じたことのない確かな感触に困惑しながらもしっかりと受け止めれば、その温かさが偽りじゃない事を告げる。
顔も声も確かに葵なのに、今までとは違う可愛らしいワンピースを着ている。触れる事が出来る。心臓の音が確かに聞こえる。


「・・・・葵・・?」
「うんっ!木兎くん、会いたかった!」


状況がつかめなくてまったく頭が働かないが、今、目の前に葵がいて、俺の名前を呼んでいる。

それだけでもうなんでもよかった。

これが夢だろうが、幻だろうが、幻覚だろうがなんだっていい。
葵に会えた。やっと会えた。

腕の中で葵がちょっと苦しいと訴えてきたけど離すなんてできなくて。

待ち続けた一年分、強く強く抱きしめ続けた。


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あーーー!!!!!やっと再会までいった―――!!!!
木兎さん今まで辛い思いさせてごめんね―――!!
早く幸せにしてあげれるように頑張るね――!!!!!!!!!!!!


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