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忘れない、忘れたくない 05

昨日チラついた雪の欠片も残らない階段を、部活後にもかかわらず全力で駆け上がる。
息苦しさも待っているだろう葵を思えばなんてことなかった。


「おーーい葵ー!きたぞー!」


いつものように階段を上った先であいつの名前を叫ぶ。今日は掃除道具じゃなくしっかりバレーボールを持ってきた。
昨日は掃除だけで終わっちまったからきっとバレーしたくてうずうずしてんだろーな、とか思って自然と顔がにやける。
それなのに・・・


「・・・あれ?葵?」


いつもならすぐに駆け寄って満面の笑みを見せてくれるはずなのに、今日はいくら待ってもその姿が見えない。
再度呼び掛けても葵が答えることが無くて首をかしげた。
今までこんなことが無かったらわからないが、葵も寝過ごしたりどこかへ出かけてたりするのだろうか。
昨日も階段近くまで行くことができたし、もしかしたら降りる事が出来るようになったのかもしれない。そしたら楽しくなって散歩に出かけたくなったのかもな。

きっとしばらくしたら戻って来るだろう

そんな軽い気持ちで一人でトスを繰り返すが、なん百回トスを上げたところで葵が現れることは無かった。


「せっかくに来たのになんだよー、もう帰っからなー!」


俺の不貞腐れた声だけが響いて消えていった。でもまた明日こればいい。
少しばかり抱いた不安は見なかったことにして、明日への期待を胸に階段を降りた。

だが

翌日も、翌々日も。どれだけ通っても、年が明けても。
何度階段を上って叫ぼうとも、あの日以来、葵に会う事は出来なかった。


なんだよ・・・
勝手に成仏しちまったとかいうなよ・・・

葵がいない事実を受け入れられない心が悲鳴を上げる。
俺の意思とは関係なく、勝手に溢れ出てくる涙がジャージの襟を濡らしていくけど止める事が出来なかった。


「サヨナラもないのかよーーー!!!!!」


誰もいない境内で叫んでみても答えてくれる人は現れず、静寂がより一人を痛感させる。
こんなはずじゃなかったのに。ただ、一緒にバレーして、騒いで、笑っていたかっただけなのに。

いつもよりきれいに見えるお社は、確かに葵と掃除したって示していて。
この1ヶ月が夢でも幻でもなかったのだと訴えてくるのに、肝心の葵がいない。


「なあ、もう一度会わせてくれよ・・・」


幽霊でも何でもいい
もう一回会って、笑い合って、そんでバレーしたいんだ。

お前だってバレーするの楽しそうにしてたじゃん。
俺のスパイクキレイに受けるんだって張り切ってたじゃん。
まだ、完璧には捕らえられてねぇぞ?
途中で逃げんなよ。


「葵ーーーーーー!!!!!!!!!!!」


なぁ、どこにいんだよ。
なんで俺の前に出て来てくれないんだよ。

会いてぇ、お前に会いてぇ
居なくなってからもずっとずっと探し続けて、やっと思い知った

俺はお前が好きだ 好きだったんだ

なあ神様 俺の願い、叶えてくれよ
他の願いは叶わなくていいから。

だから 

葵に、会わせてくれよ。

頼むから‥‥




そう、どんなに願っても誰も答えてくれることは無く、月日だけが過ぎていく。

全国大会も、卒業も、俺にとってビッグイベントは山積みだったはずなのに。葵のことを考えない様にと、だたがむしゃらに全力を注いで突き進んだ日々は終わってしまえばあっけないもので。いつまで経っても葵への気持ちだけが変わらないまま俺は大学生になった。
相変わらずバレーも続けているし、わずかな休みで赤葦とか後輩とも会ったりしている。新しくできた仲間もいて、もっと楽しくなったはずの俺の大学生活はいつまでも何か物足りないまま。

忙しい合間に時間を作ってはあの神社まで通い、お前の名前を叫び続ける。


「葵、来たぞ」


今日も俺の声だけが響く境内はガランとしていて、葵と掃除したはずなのにまた昔の様な寂しさを出しはじめたお社が、時の経過を示していた。
それでも掃除をしないのは葵と再会したら一緒にやろうと思っているから。

だから、早く
もう一度俺の前に現れてくれよ・・・

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え、どうしよう。短いけどこれ以上長くできない・・・。
どうしても夢主居なくなった木兎さんの心の叫びだけで終わらせたいので短いことをご了承下さい。


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