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忘れない、忘れたくない 04

いつもとは違う、両手いっぱいの荷物を持って長い長い階段を駆け上がる。
本格的な冬になって昼間でも空気が冷たいが、この階段を駆け上がるにはちょうどいいくらいだ。


「葵ーー!持って来たぞ――!」


ちょっと肩で息をしているが、初めて上った日のように倒れる込むことは無くなっただけ体力も足の筋力も付いたのかもしれない。
俺の叫び声で駆け寄ってきた葵はいつもボールをかっさらう様に俺の手にあるバケツへと手を伸ばした。


「よーし!それじゃあ今日は張り切って掃除しようね」


そういって弾むようにお社へ向かう葵の後を掃除道具を持ったまま追いかける。
そう、今日はバレーではなく、いつも使わせてもらっていることと、この間のテストが何とかなったことへのお礼を兼ねて掃除をしようという話になったのだ。

それより勉強した方がいいんじゃないかって再三言われたが、テストはほとんど勘だと伝えたから掃除になったんだけどな。俺的には葵が住んでる場所なんだし掃除することには大賛成だし。


「んじゃ俺が敷地内の掃き掃除すっから、お前は拭き掃除な」
「了解!ピッカピカにしようね〜」


大雑把にやりすぎたらダメだよと念押しされながら互いに掃除を始める。
学校の掃除だったり部屋の掃除は全然やる気が起きないのに、なぜか葵とやる掃除は楽しくて、鼻歌交じりに枯れ葉の山を作っていく。

今まで俺が知る限りでは誰も訪れていないし、管理している人ってのも無責任なもんだな。誰にも掃除されることのなかっただろう境内の落ち葉は焼き芋レベルじゃないほど集まっていった。


「木兎くーん!ちょっとこの水換えて…って、すごい落ち葉!」
「おーゴミ袋に入りきっかなぁ」


まさかこんなに溜まると思っていなかったからゴミ袋だってそんなに持って来たわけじゃない。土にでも埋めるか?とか考えながら取り合えず言われた通りバケツの水を取り替える。バケツをひっくり返せば黒く濁った水がお社の汚さを物語っていた。
どこもかしこもほったらかしで、今まで何も気にせず使っていたのが申し訳なくなってくる。
ここは気合れて掃除してやっか。年越しも近いしな。

再度気合を入れ直し、隅々まで徹底的に掃除すれば吹き抜ける風すらどこか清々しく思えた。
実際にかなりの埃がたまっていたし空気がきれいになったのは嘘じゃないかもしれない。けど、それよりもなんかありがたい空気っつーか、神聖な感じがするってのはただの思い込みか。それでも俺らの達成感はすげぇし、全力を出し切った疲労感も心地よかった。


「あ〜つっかれた〜!もう動きたくね〜」
「ははっ!木兎くん初めて会った時もそうやって倒れ込んでたね」


さほど月日がたったわけでもないのに、そう言われ思い返してみればそうだったと懐かしむほど、葵と過ごした日々の多さに頬がゆるむ。
テスト明けはしばらく来れなかったし、来てもちょっと顔出す程度だったが、冬休みに入ってからはほぼ毎日通っている。

こんな日々がずっと続けばいいのに。
なぁ、神様。
こんだけ頑張ったんだから、俺の願いもう一つ叶えてくれよ。

ずっと葵と一緒に居られますようにって、本気で思ってっから。



「おやおや、キレイになって」


不意に聞こえてきた聞きなれない声に勢いよく起き上がる。ここに他の人がくるなんて思ってもみなかっただけに、焦って起き上がった際に掃除道具を倒してしまい慌てて拾い上げる俺を見て、声の主であるばーちゃんは「あらあら」と楽しそうな声を上げた。


「久しぶりに来てみたらお若い方がいるなんてね。一人で掃除されたのかしら?」
「え??あっ・・・・いえ、二人です」


一瞬、隣に葵もいるのに何で一人って言ったんだと不思議に思ったが、そういえば他の人には見えないんだと言っていた事を思い出し、なんでか胸が苦しくなった。
今まであまりにも普通に過ごしてきたが、葵は幽霊なんだと改めて思い知ったと言うか・・・。とにかくモヤモヤとした気持ちの俺に、隣で葵が寂しそうに笑った。


「私も忘れてた。自分が幽霊だったってこと」
「昔はねぇ、私もよく通っていたのよ。でも足が悪くなってからは中々来れなくてねぇ。年に1度はきたいのだけど」


葵の言葉が聞こえていないだろうばーちゃんは、一人ここを懐かしむように辺りを見回しながら語り出した。聞こえてくる声はとても優しいものだし、ばーちゃんの思い出話はどれも素敵だけど。何故だか俺は悲しい気持ちになった。

参拝もして一通りしゃべり終えたばーちゃんはやっぱり俺しか見てなくて。


「お兄さんここの夕日は見た?とても綺麗だからぜひ一度は見ていってね」


それだけ言い残して階段を下りていく後姿を二人して無言で見送った。
しばらく微妙な空気が流れたが、葵が「そういえば私も夕日見た記憶ないや」と気を遣って明るく振舞う姿に、俺も沈んでなんかいられねぇと明るく返した。

葵が幽霊だって事実は初めからで、それはこれからも変わる事のない現実。落ち込んでたって仕方のないことだと割り切り、夕日を今か今かと待ちわびた。
交わされる会話も始めこそどこかぎこちなかったが、しばらくすればいつも通りのフザケタやりとりへと戻っていて自然と上がる笑い声。
やっぱ幽霊だろうと葵といる時間は楽しい。だからいいんだと改めて空を見上げると、青い中にちらちらと白い雪が舞い込んでいた。


「そろそろだけど・・・晴れてるのに降ってきちゃったね」


これは積もるような雪ではないが、この長い階段を下りるのに滑ったら危ねぇな、なんて笑いながら立ち上がる。
遠くの方が赤くなっているような気がして階段まで近づけば、見下ろす街が赤く染まって何とも言えない幻想的な景色を生み出していた。


「すげーぞ!!葵も来れる所まで来てみろよ!マジでやべーから!」


いつもなら絶対に近づくことのない階段から呼びかければ、しっかりと眉を寄せて難しい顔をしたままゆっくりと近づいてくる葵に口元がゆるむ。


「大丈夫だって!すっげーキレイだから!」
「・・・・あ、ほんとだ・・すごい・・・っっっ!」


階段際とまではいかないが、街が見下ろせるところまで近づいた葵は、この景色を見るなり眼を見開いて固まった。
俺もこの赤く染まる街並みに白い雪が舞う不思議な景色を葵と一緒に見れたことが嬉しくて、夕日を見つめ続ける葵と同じようにしばらく立ち尽くした。


「いいもん見れたな!また一緒にこれ見ようぜ!」


なっ!と同意を求めてみたが、感動しているのか葵からの返事は無く。微かに首が縦に動いたから否定されてはいないと解釈し、よしっ!と帰り支度をする。

感動に浸っている所を邪魔したら悪いと決めつけ、俺はまたなと言って階段を下りた。途中、名前を呼ばれたような気がしたが、振り返ったところで長い階段の先に居る葵が見えることは無かった。


この時の異変をもっと不思議に思えばよかった

この時戻っていたら、今とは違う結果になっていたのだろうか

何度後悔したって戻る事のない時間は記憶の中にしかなくて
今でも俺をあの日に縛り付け続ける

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夢主ちゃんが幽霊だと再認識して傷つく木兎さん。
シリアスぽくなってきましたかね?この後からどんどんシリアスよ!!
木兎さん暴走させないで切なく書けるように頑張りますっ!!


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