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忘れない、忘れたくない 03


「葵いるかーー??」


長い長い階段を駆け上がった先でそう叫べば、嬉しそうな顔をした葵がすぐさま駆け寄ってくる。その光景がいつものことになりつつあり、足音が無いことにも慣れるほど最近頻繁にここを訪れていた。


「木兎くん待ってたよ!!やろやろ!!」


今日も今日とて俺が持ってきたボールをひったくるようにしてトスをしだす姿は全然幽霊に見えない。早く早くと俺を誘う葵はただのバレーバカそのものだ。
まぁ、俺も人のこと言えねぇけどな!


「今日こそ木兎くんのスパイク完璧に上げて見せるから!」
「おー!やれるもんならやってみろ!」


ここ数日のお決まりのセリフ。
そう簡単に有言実行させるわけにはいかねぇと俺も本気でやっているが、葵はどんどん正確に拾えるようになっていく。幽霊なのに技術が上達するってありか?
俺も負けてらんねぇと自主練にもより熱が入るし、やっててすげぇ楽しい。

やっぱうまい相手がいるとワクワクすんな!
葵がいるチームと試合出来たらぜってぇ楽しかったのになぁ。

女子と試合なんてそうそうやる事ないけど、葵がいるチームと試合する姿を想像してみたら容易にその姿を思い浮かべることが出来た。


「なぁなぁ、葵はやっぱガンガン試合出てたのかー?」
「ん〜〜どうなんだろう・・・」


俺の質問に、まだはっきりとは思い出せていない記憶を探るように首をかしげるのにボールはきっちり返球する葵。
これだけ出来てレギュラーじゃないとかありえないよな。って、そもそも葵は他の奴の記憶が無いのだから自分が上手いかどうかわかんねぇのか。

それにしても葵って歳いくつなんだ??勝手に同じくらいだと思ってたけど女子の年齢なんて見た目でわかんねぇぞ??

マネちゃんと初めてあった時、「先輩かと思った!なんだ同じ年か!」っつったら怒られた記憶も懐かしい限りだ。
未だに怒られた理由は分かんねぇけど、女子に気軽に年は聞くなと木葉が言ってたっけ。


「思い出したっ!!!!!!!!」
「うぉ?!!」


また記憶が取り戻せたのか勢い良く叫んだ葵はよっぽど嬉しかったのだろうか。考え事をしていたところに、いつもの完璧な返球ではなく勢いがついたボールがまっすぐ飛んできて思わず変な声がでた。

だがそんな俺にはお構いなしに嬉しそうに「聞いて!」とはしゃぐ葵に文句を言えるわけもなく。ボールは返すことなく受け止め、駆け寄ってきた彼女へと意識を向けた。

前回同様に心底嬉しそうに思い出した過去を話す葵につられて何故だか俺まで嬉しくなり、自然と顔がにやける。
どうやら今回は一部分だがかなり詳しく思い出せたらしく、強豪校にもかかわらず高校1年でレギュラーに選ばれたのだと力説してくれた。

先輩を押しのけてのプレッシャーは凄かったが、なによりも実力を認めてもらえたのが嬉しかったのだと話す葵を素直にすげぇと思った。

あれだけ上手いしバレーバカだし、やっぱ意識がちげーんだろうな。

葵につられてあがったテンションんのまま褒めちぎれば、照れくさいのかヘヘッと笑った後、昔の話だよと言いながら俺の背中をたたく仕草を見せる。実際には触れられないんだから叩いてみたって痛くねぇのに。
その姿はやっぱり少し幼さがあって、俺より年下であって欲しいと思うほど可愛らしいものだった。


「それより木兎くん、最近来るの早くない?」


この話はおしまいとばかりに急に話題を変える彼女は、先ほど同様まだ落ち着きが無いから照れ隠しからくるものだろう。思わず笑ってしまい睨まれたが、まったくと言っていいほど怖くないその顔に俺の顔は緩みっぱなしだ。
葵といると楽しくて仕方がない。


「テスト中だからなー」
「え!?木兎くん勉強は!?受験生だよね!?」


内申に響くからみんな必死に勉強するものじゃないの?と当事者の俺より慌てる葵に耐え切れず、声を出して笑ってしまった。

ほんと素直でかわいーヤツ。

心配してるのにと怒る葵をしばらくからかってから、大学へはバレーで入るから問題ないと告げれば、また素直にすごいと褒めてくれるんだから面白れぇ。
コロコロ変わる表情が楽しくて幽霊だってことなんて忘れてしまいそうだ。


「大学行ってもっと強くなってやるよ」
「む〜〜絶対取る!!!あ、でもテスト悪すぎて留年とかって可能性はないの?大丈夫?」


卒業できなきゃダメじゃない??って首をひねる葵につられるように俺も首をひねる。進路決まってて卒業できねぇとかあんの??マジで・・??テストなんていつも通りわかんねぇとこは勘に頼ってんだけど、ってかほぼ勘なんですけど。

あ〜確かにそんなような事を言われたような言われてないような…。
入る大学も決まってたし完全に気が抜けていたなんて言い訳通用しねぇかな。

急に余裕をなくした俺に、テストの出来を察したのか心配そうに大丈夫かと聞かれたが、終わってしまったテストはどうすることもできない。
テストは明日までだけど今から足掻いたところでどうにかなるほど出来の良い頭してねぇし。

また赤葦に日頃からやっておかないからだとか言われそうだけど、どうも授業中は呪文のように聞こえてくる先生たちの言葉は気が付いた時には終わってんだよなー。


「やっぱココは神頼みだな!」
「えぇぇ?!勉強しようよ!!」


まだ間に合うよと励ましてくれる葵にムリだと返し、さっそくお社へと向かう。
無遠慮に賽銭箱前に置いたままのカバンから小銭を取り出して勢いよく鈴を鳴らし、いつもなら5円とかしか入れねぇけど奮発して100円を投げ入れた。


「テストで勘が当たりますよーーーーに!!!」
「木兎くんが留年しませんように!!!」


願い事を叫んだ俺に続いて葵も俺の為に願ってくれるのが嬉しくて、調子に乗ってその後も何回も叫び続ける。100円入れたんだし沢山願っとかねぇとな!
必死すぎだと笑う葵と、これからもバレー出来ますようにって願いはなんとなく気恥ずかしいから叫ばず心の中で願っておいた。


「よーし!これでバッチリだろ。続きしよーぜ!」


テストも大事だし、留年するのも困るけど。

でも

今は葵と一緒にバレーしてる時間の方が大事だから。


テストが終わればまた部活漬けの毎日がやってくる。
仲間ともっとバレーが出来るのはもちろん嬉しい。全国だってすぐだし気合も入る。

だけどココに来れる回数は確実に減ってしまうだろうから。

だからせめて今日だけは、葵といる時間を優先したっていだろ?


なぁ、神様

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会いに来れるのはテスト期間だからなのですよ、えぇ。じゃなきゃ無理だよね。
木兎さんってテスト勉強とかあまりやらない気がするww偏見かな??


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