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16 ニセアカシアは俺だけに

二回戦が始まる体育館へと向かえば、すでに会場が伊達工一色に染まっていて翔陽が一人で楽しそうに騒ぐ。

俺たちも初めて見た時すげぇと圧倒されたっけか。
烏野にもあんな応援があったら燃えるのにな、っと、いつもなら応援のほとんどない客席ベンチを見る。

相変わらず応援団なんてものは無いし、見に来てる人もまばらだ。
だが、今日はいつもと違う。潔子さんと高宮が直してくれた垂れ幕がある。

そして、そこに高宮がいるって知ってるから。



「西谷夕!!!!」


伊達工との試合前にトイレに行っておこうと廊下を走っていたところで突然フルネームで呼ばれ振り返れば、二階観客席へと続く階段から高宮が下りて来るところだった。
そこから来たってことは、さっきの試合も見てくれていたのだろうか。

最近避けられていたせいか、俺に向かって駆け寄ってくることが嬉しくて自然と顔がにやける。


「ちゃんと来たな!」
「西谷夕がしつこいから・・・・ってか、なんだ。大丈夫そうだね」


どこかホッとしたように高宮がそう言う意味がわからず首を傾げる。さっきの試合でコイツに心配をかけるような事をしただろうか。
そう思い返してみるが、納得いかないレシーブはあったものの心配されるようなことはなかったはず。

高宮は俺の反応が予想外だったのか少し困ったように視線を泳がせた後、「キーちゃんがさ…」と心配事の原因を教えてくれた。


「ぬぉぉぉ!潔子さんに心配かけちまった〜〜」


さっきのミーティングの後での雰囲気はけして良いとは言えないものだったと俺も感じていた。それなのにその雰囲気を何とかする余裕もなく、ただ自分の気持ちを整えていただけの俺が情けない。そのうえ潔子さんが気を遣って高宮に頼むなんて…!


「え〜い!!鬱陶しい!!」


自分の失態にガシガシと頭を抱えている俺に、高宮が遠慮なくチョップをくらわす。相変わらず刺激的なツッコミにチカっと目の前が光ったような気がした。


「相手が伊達工だろうがなんだろうが、西谷夕ならできるでしょ!!」


あんなに練習付き合ったんだからちゃんとしてもらわないと困る!と腰に手を当て仁王立ちで言ってのける高宮に、痛む脳天をさすりながら笑ってしまった。

頑張れでも大丈夫でもなく、できるって言われちゃーやるっきゃねーよな。
本当は自分でもいつもより気を張ってんのはわかってた。だから一呼吸入れようとトイレへと向かうところだったが、もうその必要はねぇみたいだな。


気合を入れなおす為にもギュっと拳を握れば、そこから伸びる腕にみえる薄いあざ。それだけ練習したという確かな証は自信に。薄くなったという高宮が処置してくれた証は一人じゃないという気持ちを俺にくれる。


「よっしゃー!行ってくるぜ!!」
「気合が入ったのはいいけどウルサイ。そして、トイレはあっち。行くんじゃなかったの?」


見かけた時トイレはどこだ〜って口走ってたけど?とトイレの方を指さす高宮に、もう必要なくなったと言ってみたがすっげー呆れた顔をしながら行ってきなさいと背中を押された。
少しでも不安要素は無くしておきなさいと背中を押されたら、なんとなくいった方がいい気になってくるから高宮ってすげぇな。

そんじゃあ出しきってくるかと戻ろうとした足をトイレへ向ければ「バカ」って声が返ってきて、そのやりとりですら嬉しくて顔がにやけた。


「西谷夕!!!」


トイレへと歩き出したところを呼ばれ振り返れば、何とも力強い目をした高宮がグッと親指を立てて俺を見つめていた。


「任せた!」
「っっっっ!!おう!!!」


足元から沸き立つような嬉しさに俺も同じように親指を立てて返せば、高宮は満足そうに頷いた後、皆を探してくると駆け出して行った。


この後ちゃんとトイレで一呼吸しておいてよかったと思う。あんな浮かれたままの状態でいたら、今のこの微妙な空気とか皆の硬さとかが分からないままだったかもしれないから。


「ローーーリング、サンダーーーー!アゲイン!」


コーチからのボールを回転しながらレシーブすれば、ふわりと正確に上がったボールに感心でもしているのか静まる会場。
さすが俺、なんて思っていたら龍の言葉を発端に賑やかになる皆に、反論しながらも雰囲気が戻ったことに安堵する。硬くなっていつも通りのプレーができないなんて勿体無いことだけはしたくない。このメンバーならやれる。


「心配することなんか何も無え!!皆、前だけみてけよォ!!」


下を向くな。振り返るな。みんながそんなことする必要ないくらいに


「背中は俺が護ってやるぜ」


視線が集まる中、胸を張っていってやる。俺に任せろ、と。なぁ、そうだろう??
カッコイイと騒がれながらチラリと観客席に目を向ければしっかりと視線が合わさった高宮にニッと笑ってみせる。

お前もちゃんと見てろよな!なんて気持ち込めたけどそれが伝わったかはわかんねぇ。だけど高宮なら見ていてくれるって確信が持てるから、すぐに視線を仲間へと戻した。


「そーゆ―ことか。本当に高宮には助けられっぱなしだな、俺ら」
「菅さん!!」


ベンチへと戻る中、観客席と俺を交互に見た菅さんが何か納得したように頷いてみせる。
どーゆーことかよくわからず首をかしげる俺に、菅さんはだよな、っと苦笑いを浮かべながらもう一度観客席へと視線を移した。


「さっき高宮に言われたんだよな。皆を信じて任せれば大丈夫だって」
「あ、俺も」


俺と菅さんの会話に混ざった声に振り返れば、さっきまでの強張った顔じゃなく、眉の下がったいつも通りの旭さんが隣までやってくる。

菅さんが「なんだ旭の所にも行ったのか」と感心したように呟いたから、きっと二人は別々の所に居たのだろう。
それなのに高宮はそれぞれ探して会いに行ったのかと思うとアイツの気持ちの強さに胸が熱くなると同時に、少しだけズキっと傷んだ。


「旭さんもなんか言われたんっすか?」


アイツが頼ったのは俺だけじゃない。そんなの当たり前だと言い聞かせ、胸の痛みは無かったことにして旭さんへ問う。

普通に考えればいくら任されても俺は点を決めることはできないのだから、スパイカーでありエースである旭さんに任せるのは妥当だ。そう思い込もうとしていた俺の耳に入った台詞は想像とは違うモノばかりだった。


「うん。・・・・コートにもベンチにも仲間がいるっていいですね、って」
「俺も俺も!!いつも通り飛べって言われました!!」
「俺もッス・・・熱くならなきゃ君は出来るって」
「俺にもテンション上がるのはいいけど熱くなるなっつってったわ!」
「すごいな高宮は。アイツ俺にも力の抜き方教えていったぞ」
「まぁ部外者ですけど和みますよね、あの人の言うことは」
「ツッキーもいつもよく見てるからその調子でって言われてたもんね!」


次々と上がる声は個人へのアドバイスだったり自信につながる台詞ばかりで、俺が想像していたようなものが無いことに先程覚えた傷みが跡形もなく消えていく。

はは、なんだ。
任されたの俺だけじゃんか。


高宮がどう思って俺にだけ任せると言ったのかはわからないけど。でも、その事実だけで十分だ。


「よっしゃーー!!!やるぜ――!!」


一言でこんなにも気持ちが動かされるなんて、やっぱ俺、アイツが好きだ。

だからこの試合も何としてでも勝って
アイツの不安も俺のつっかえも
すべてを取り除いてやる。

そんで

今度こそ忘れずに、アイツに好きだって伝えてやる。


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